第4話

「当然の事だろうが、ギルド長。もう既に行政府には情報を伝達してるだろうな?」

ベルガがイーゾックを問い詰める。


「無論だ!秘密裏にギルドの幹部を"人民宮殿"へと向かわせた。今、この事態を知るのはギルドと行政府、そして、この酒場にいる者達のみだ。」



「なぁ、騎士団による直々の討伐か増援とかは望めねぇのかよ!?こんな時の為の騎士様だろう!?」


「アホか、お前!? 脳味噌まで酔っぱらったか!? "この"ご時世"にわざわざ騎士団の戦力を割けるわけないだろう!?」 

 「何のためにわざわざ、この国が冒険者といった"志願兵"を募ったのか忘れたかのかよ!!?」


 「我が国の最高戦力たる"大鷲騎士団"の殆どは、この国はおろか世界の平和の為に"連合十字軍の遠征"に出向いてんだ! それに"黄金軍"は国境地帯の警備で忙しいし、"鋼の鷲団"に到っては国内の厄介毎に処理で昼夜働きづめだ! いくら冗談でもはっ倒すぞ!!?」   

          「・・・・わ、悪かったよ」



「──可能であれば勿論、騎士団の戦力を利用したい。だが、今下手に動いて、今の混乱した状況を"帝国"に知られるのは非常に不味い・・・・!!」


「"善き隣国を脅かすダイモンの討伐と被災した村及び住民の救済"──そんな大義名分を掲げた挙句、ワシらの国の国境を平然と踏みにじるのは目に見えている。」


「・・・今動ける黄金級ゴールド・クラスの冒険者は俺達だけか? 確かこの国に定住した"黄金級"の冒険者は、俺たち以外にあと"7つ"いたはずだが?」


「・・・"鋼の六人"は北部国境に存在する"ドロスカー火山"の調査へ向かったばかり・・・。 "グリーンスリーブス"は西部の"アースフェル大森林"における"例の騒動"を探索中・・・。"英霊文化研究会"は"アブサロム"へ──」


「あ~あ、分かった、分かった──""


「──すまないがその通りだ・・・。並のフィーンドならともかく、相手はダイモン──しかも上級冥魔グレーター・ダイモンたるオブシスダイモン・・・!! この町にいる銅級カッパー・クラスはおろか銀級シルバー・クラスの面々に出向いてもらっても、無駄な犠牲と被害を出すだけだ・・・!」


「勿論、喜んで受けてやるさ。だが、その前に今ギルド内にある最高級の魔法の武器やポーション類を可能な限り差し出して欲しい。見ての通り、俺達は一仕事を終えたばかり──特に俺は矢弾の数が心もとない。」



 冒険者達の間では、危険な任務や仕事を請け負う場合、安全地帯や拠点において筋力や耐久力などの身体能力を増強させる呪文を宿すポーションをあらかじめ飲料し、何時でも戦闘態勢に入れるようにするのが常識である(無論、回復用を含めた予備のポーションまたは同様の呪文が記された巻物を常に携帯し、予期せぬ段階で効果が切れても再度かけ直せる様にする)。 

 これらの補助及び回復系の呪文(そしてそれらの効果を持つアイテム類)の重要性と需要の高さは言うまでもなく、冒険者のチーム内には必ず最低一人でも何らかの術者スペル・キャスターを加入させる(無論、この世界には例外もいるが)。


 加えて、武器や武具の念入りな手入れ、使用する矢弾などの数の確認と調整(術師であればその日の内に唱えられるであろう呪文数の把握や再学習、そして、それらの呪文の発動できるだけの余力、詠唱時における安定した精神状態の確保など)といった準備も欠かせない。

 何故なら彼らは、依頼や様々な目的があれば洋の東西を問わず様々な場所へ赴き、陸・海・空はおろか果ては未知の次元界へと旅立ち、そこで命を懸ける。それだけのリスクや危険と引き換えに彼らは莫大な栄光や富──時には善・悪問わず様々な恩寵や介入の結果、人外じみた力の数々を手にする。


 だが、駆け出しやベテラン、あるいは神話や伝説で語られるような超人的な冒険者であれ、これらの基本的ルーティンの僅かな差が予期せぬ生死へと直結し、明日の日の出はおろか、ほんの数時間から数秒後の生ある未来が存在しているか否かが確定する。

 煌びやかな装備に身を包みながら、まさか思いもよらぬ場所でその生涯を終える者もいれば、たった一握りの短剣と僅かな装備で危険極まりないダンジョンを踏破する者も確かに実在する。

 何も知らぬ第三者から見れば、個々の冒険者の実力と運の要素の多分にあるやもしれぬが、その根本的な理由と原因の一つにはこのような微かな原因が確かに存在するのは否定できない事実と言えよう。



「分かった、今直ぐ手配させる!」


「ちょっといいか、レオ。イドル村なら何度も行き来した場所だ。戦闘の役には立てないが、ウチのチームには"上級瞬間移動グレーター・テレポート"を唱えられる術師がいる。直接あの村へ移動するのはマズいが、村からある程度離れた安全地帯に送り届ける事はできる。僅かでもいいから俺達のチームにも協力させてくれ。頼む!」──そう進言してくれたのは銀級の冒険者チーム"夜鷹の夢"に属する"ヨナ・イルバーク"であった。


「おおっ!協力してくれるか。最悪の事態に備えて、状況を監視・報告してくる冒険者を丁度探していた所だ。勿論、君達にも然るべき礼と報酬は支払う。申し訳ないが頼まれてくるか!?」


「もちろん、請け負うわよギルド長さん♡ それにギルド長の貴重な土下座が拝めたんだから、報酬何てタダでいいくらいよねぇ、ヨナ?」そんなジョークを返すのは同じチームに属する"ルイ・ハーカー"だ。


「おいおい、このまま言いふらすのは勘弁してくれ!?あんな姿、家のカミさんにしか見せないんだぞ!?」──これらのやり取りに、酒場内の空気が幾らか和らいだのは言うまでもない。




 俺達が様々な準備と覚悟を決めるのに約1時間30分ほどを要した──半端な覚悟と決意でオブシスダイモンの相手など到底できない。気が付けば時間は夕刻6時を過ぎた頃であり、俺達は急ぎ"上級瞬間移動グレーター・テレポート"を用いて、イドル村から十数㎞ほど離れた場所へと身を潜めると同時に、俺達は愛用している魔法のゴーグルで村の近辺を伺い──村を焦土化したであろう、例の化け物の姿を確認した。


「・・・ハズレて欲しかったが、間違いない。アレは確かに"オブシスダイモン"だ。」


「3年前に他のチームと共同して戦った、グレート・ウィルム・レッド・ドラゴンの方が遥かにマシだったな。ダイモン連中の陰湿な邪悪さと狂気に比べれば、レッド・ドラゴンの悪意なんぞ霞んで見える。」


「それにして一体どこの大馬鹿野郎があんな化け物を喚んだのやら──もしや、"帝国"の連中が国境付近でイザコザを起こすためにワザと喚んだか? 」


「幾ら"帝国"でもそんな真似をする筈が無い──と断言できないのが困り所だよ。信仰のよりどころを失って悪魔崇拝に手を済めたあの国ならば、考えられそうな話だ。」


「・・・勝ち目はあるの、レオ? アタシは初めて実物を見たけど、ここからでも震えが止まらないわ・・・・!!」


「──勝ち目? そんなものは"創り出すに決まっている" なあ、ベル?」


「当たり前だ。伊達にこの3人で生き残ってきた訳じゃない。それに、イザという時にはウーリが何とかするさ。のう、ウーリ?」


「この期に及んで僕頼みか・・・。全く、今までよくこのチームで生きてこられたと我ながら感心するよ──まぁいいさ。お望み通りやってやろうじゃないか。あんな化け物に住み慣れた町や国を滅ぼされてたまるものかよ。」


「・・・すまないが、俺達は更に遠くから様子を監視させてもらう──死ぬなよ、お前ら!?」


「無事に生きて戻ったら、あの店で酒と飯──ついでに欲しかった魔法書でも奢ってもらいますよ?」


「ドワーフの酒代は高くつくぞぉ、ヨナ?覚悟しておきな!」


「達者でな、お前ら」────最期の挨拶を交わすとヨナのチームは何処へと消え去り、静まり返った夜の平原に残ったのは今や俺達だけとなった。




「────さて、別れの挨拶は済ませた。"覚悟はいいな、お前ら?"最悪の場合、肉体はおろか魂すら残らんが、まぁ悔いは無いだろう?」


「殺られる前提で話すな、どアホ。3年前にあのクソトカゲに丸焼きにされても尚、こうしてピンピン生きとるんだ。そう簡単に死にはせんわ。」


「戦術はいつも通り──というかそれしか手札は無いね?」


「ああ、そうだ。俺達にはそれしかない。じゃあ、"行くぜ?"」──そう言い終えるや否や、チーム全員の顔と雰囲気が"戦士"のそれに早変わりする。そして、俺は愛用のコンポジット・ロングボウにすかさず矢を当て、遥か彼方にいるヤツに向けて挨拶代わりの一射を放った──




人間の記憶と僅かな人の心を取り戻したダイモンと"黄金級ゴールド・クラス"の冒険者達───不条理な勝利と運命の女神はどちらに微笑むのか


──夜の帳と星々に覆われたカズミル平原において、短くも長い夜が幕を開ける──

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