第10話
「・・・なあ、レオ?・・・・ジャオフェイの野郎は、俺達に幻術でも掛けたのか? 一体、何が起きてやがるッ・・・・!?」
「分からん、全く分からん・・・・!!生まれてこの方、こんな光景は見たことが無い・・・・!!」
意識を失ったウーリを抱えた俺達は、眼前にて繰り広げられる奇妙な光景に、ただただ困惑するより他が無かった。
まさか、敵対していたはずの化け物に助けられるとは思いもよらなかったのだ──よりにもよってフィーンドに、生者への憎悪で名高いあのダイモンに助けられるなんて、今まで見たことも聞いたことも無い・・・・!!
オブシスダイモンからの予期せぬ攻撃を受けたディヴァウラーは明らかに動揺し、すぐさま必死に応戦を繰り返すが──まるで相手にならない。
奴は家畜を屠るが如く、あのディヴァウラーを容赦なく惨殺し、気が付けばディヴァウラーはこの世のものとは思えぬ悲鳴を上げながら消滅し、奴の体内に幽閉されてた無数の霊は解き放たれ、瞬く間に天へと昇っていく──そして、再び静寂さを取り戻した平原には、最初の遭遇したあの時と同じように、奴と俺達の4人のみが残された。
邪魔者を消して満足したのか、オブシスダイモンはゆっくりとこちらへ視線を向け──俺達のいる場所に距離を詰め始める。
そして、奴の間合いに俺達を収めると、残り僅かとなった煙のようなものを全て消費しつつ、こちらに向かって呪文を詠唱する──どうやら止めの呪文らしい。
「・・・・どうやらワシらは、最後のメインディッシュらしい・・・・!!」──最後に残った気力を必死に振り絞りつつ、ベルガは愛用の斧を構えるが、最早マトモに戦える状態では無く、構えるだけで精一杯だ。
「──万事休すか・・・すまない、皆。」──走馬灯のようにこれまでの思い出の数々が脳内を思い描き、俺が死ぬ覚悟を決めた瞬間──俺達を暖かい光が包む。
「・・・・こ、これは"
「い、いったい、一体何が起こったんだ・・・・!? レオ・・・・!?」──気が付けば、意識を取り戻したウーリが俺に質問を投げかけるが、それはこっちが聞きたいことだ。ハッキリ言って、状況が未だ呑み込めていない。
「・・・どういうつもりだ貴様・・・。俺達を生かして何の得がある───さては、俺達に恩を売りつけて、冥約でも結ばせるつもりかッ!!?」──活力を取り戻すや否や、ベルガは急ぎ奴から離れ、すぐさま戦闘態勢に入る。
その言葉と皮切りにウーリと俺も、再度戦闘の構えを見せる──が、奴からの返答は全く思いもよらぬものであった。
『・・・そんなつもりは無いよ、ユンゲ諸君──わたしは・・・私は少しでも君達を助けたくなっただけだ。』
「「「「はぁッ!?」」」──予期せぬ奴の言葉を聞いた俺達は思わず気の抜けた声を出してしまう──ベルガやウーリに到っては、思わず茫然と口を開いて驚愕している。あいつらのこんな顔、今まで見たことが無いぞ?
『治療のお礼の代わりと言っては何だが、一つだけ・・・・どうしても狩人の君に聞きたいことがある・・・・。その首にかけている勲章のようなものは、一体何処で、何時手に入れたのかね・・・・?』
気付けば、奴からはダイモンといったフィーンド特有の滲み出る悪意が完全に消え失せており、その雰囲気や獣じみた顔も何処か穏やかに見えた。
最初は何らかの罠を警戒し、適当な嘘ではぐらかそうと思ったが、今の奴の様子を見てそれを一転させた。今の奴になら、正直に全てを話してもいい──いや、"コイツには全てを話さなければならない"と俺の中の本能が何かを告げていた。
「・・・これは死んだ爺さんの形見の品だ。生前、爺さんはこれを後生大事に扱っていてな、何でも、実の父親のように親身に接してくれた"総統閣下"とやらに送られた直々の品らしい。」
「・・・・こんな事をアンタに話していいのかは分からないが、俺の爺さんは"この世界で生まれた人間じゃない"──確か、俺の記憶が正しければ"ドイツ"とかいう国で生まれ育ったと聞いた覚えがある。」
『・・・・・やはり、そうか。・・・話してくれて有難う。・・・・その内容だけでもう充分だ──だが、最後に、最後に君のお爺様の名前だけでも教えてはくれぬか。』
「・・・・それくらいなら、別にいいさ。俺の爺さんの名は"アデル"──"アデル・ライオヴァルト" 名前は忘れちまったが確か、ナ、"ナントカ・ユーゲント"とかいう組織に所属したらしいぜ? ウチの爺様?」
『──────ッ!!??』───嗚呼、何処までも因果はついて回るのか。"私"はつくづく自分の業の深さと呪われた運命の重さを実感せざるを得なかった。
「そうだ・・・。折角だから、アンタの名前も聞きたい。何故だかなぁ、不思議とアンタと俺は縁が深いように感じるんだ。」──警戒を殆ど解いたであろう、眼前のユングは私に初めての笑顔を見せてくる──その顔は、私が地獄のような戦地へと向かわせてしまった、とある青年と瓜二つであった。
『────私の名はミヒラウス。そう他の連中からは呼ばれていたが、これはダイモンとしての忌まわしい魔名であって、本当の私の名前じゃない。嘗ての私の本当の名は──』
『───ヒトラー。アドルフ・ヒトラー。嘗て、君のお爺様の生まれた国で育ち、そこで取り返しのつかぬ愚行をしでかしてしまった、罪深く愚かな人間の一人さ────』
────終わり
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