第7話
「想像以上に腐っていて驚きましたよ」
「ええ、まあ。私は正直これが魔術連盟なんだと思って落ち込みました」
あの大捕り物、と言っていいかは微妙だけど、兎にも角にもあの出来事の後、訓練場に紛れ込んでいた少女に「美味しいごはん屋さんは知らないですか?」と聞いて案内してもらった。
帝国ではパスタ文化が栄えており、今来ているお店もパスタの専門店らしい。日替わりランチセットを頼んだら出てきたスパイシーなパスタを味わっている。具材は最低限だが、調味料をふんだんに使った絶妙な風味はなんとも癖になる味わいだ。
ご相伴に預かっている少女の名前はシスタちゃん。五日ほど前にこの領都に来たばかりだそうだ。領都に来てからの短い間に、いろいろな人に聞き込んで美味しいお店をいくつも見つけたらしい。
今日連れてきてもらったのもそのうちの一つとのことだ。
うん、素晴らしい。美味しいお店を発掘できるような有能な人材は大事です。
連盟の未来も明るいですね。
「そういえば貴族の方を捕まえましたけど、本当に大丈夫なんですか?」
あのあと、支部長とキリムは支部の応接室に隔離した。あのままだと護衛と一緒に逃げるかもしれないですしね。
「魔術連盟の派遣に際して、派遣される国は治外法権を一部認めているんです。同盟関係という形で条約を結んでいます」
魔術連盟は多くの技術を提供する代わりに、魔術師の保護を行うことを目的として各国に支部を築いている。
魔術連盟の成立以前、魔術の才能を持つ者は兵器や都合の良い道具として権力者に囲われていた。
往々にして彼らに人としての権利は与えられず、ただ使い潰されるのみ。
出たくもない戦場に駆り出され、そのまま魔力の尽きるまで魔術を使わされる。魔道具の運用のため付きっきりで魔力を注ぎ込まされる。癒やしの魔術が得意であれば、命を削り怪我人や病人の治療をさせられる。
その利益が一般市民に与えられることは少なく、権力者たちに魔術による富が集まり続ける。
強大な力を持つようになれば、国直属の魔術師として発言権を得たり、場合によっては貴族として叙爵されたりもしたが、そういった例は本当に少数だ。
在野で冒険者として活動している一部の魔術師や、権力を得た魔術師を除けば、ほとんどの魔術師が使い潰されて一生を終えていた。
もちろん、特殊な技能職ではあるので、待遇は一般市民よりも良いかもしれない。しかし、それを生かせるだけの環境を与えられないのだ。ブラックもブラックな職場環境である。
「魔術師に自由を。魔術師のための独立。そういった理念を叶えるために、魔術連盟にとって各国と結ばなければいけない約束がありました。この話を詳しくするためには、魔術連盟の成り立ちを話す必要があるのですが」
「リースさんさえ良ければ聞きたいです!」
「良いですね。知識欲があることは素晴らしいです。魔術師に向いていますよ。少し長くなりますが良いですか?」
「大丈夫です」
僕はこほんと咳払いをして魔術連盟の成り立ちについて話し始めた。
――そもそも、魔術連盟は最初から今のような形ではありませんでした。
クフトラ王国のルーラル辺境泊が肝いりで始めた魔術学校の規模が大きくなり、やがて組織としての体裁が整えられていった結果生まれたのが魔術連盟の基礎です。
今いるストラール帝国は魔の森の南に位置していて、クフトラ王国はちょうど魔の森を挟んで反対側である北に位置する国ですね。
本来であれば魔術に関する様々な知識は、国の上位層のみにしか渡らないようになっていました。
しかし、ルーラル辺境泊が魔の森に面しており、魔の森から現れる魔物たちを捌くための戦力が必要なこと。また、当時魔の森の活動が活発化する傾向を見せており、既に雇われている魔術師や兵士のみでは対処が難しくなると予想されたことがありました
それゆえにルーラル辺境泊に限って魔術学校の設立が許され、ルーラル辺境伯領内のみですが、少しでも才能を持つと思われるものは魔術の習得ができる素地が作られたのです。
それに、もし魔術学校によって増強された兵力で他領に攻め込もうにも、魔の森の魔物を抑え込むために兵力を割かなくてはならず、他領と戦う余裕はないと判断されたことも許可された要因の一つでした。
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