第21話
「さて、シスタちゃん。今回こんな風に魔術を披露してもらったのはシスタちゃんの魔術師としての力量を見せてもらいたかったのと、もう一つ理由がありました」
「ほへ?」
「固有魔術について聞いたことはありますか?」
「こゆう、まじゅつ?」
「ええ、固有魔術です。僕はずっとシスタちゃんに固有魔術の才能がある可能性を考えていました。と言っても、そんなに期待はしていませんでしたし、固有魔術を使えてもそこまで強くないと思っていたのですが」
「ちょっとまってください。まず固有魔術ってなんですか?」
「ふふ、ちょっと焦りすぎてしまいましたね。ごめんなさい。久々に面白くなりそうなので僕も嬉しくて」
リースさんは照れたように謝ってくる。
天使の照れ顔だ。ありがたや……。
「固有魔術は、現在の魔術理論に従わないか、従っても極めて特質な魔術のことです」
「え、でも私そんな魔術使ってませんよ? 他の人たちと同じような魔術しか使えてないです」
「結果だけ見ればそうかもしれません。しかし、過程が異なっているんです」
「過程?」
「魔術を発動するとき、シスタちゃんはどのようにしていますか?」
「えっと、まずは」
――まず、身体の中にある魔力の芯を探す。
――芯から必要な魔力を取り出し、意識の潜在領域で魔術記号を形作る。
「魔力を身体の奥から取り出して、意識の中で魔術記号に変換します」
「それは良いでしょう。その次は?」
――作った魔術記号を、肉体という道具を使ってこの現実空間に展開していく。
――現実空間に紡いだ魔術記号は、魔力を用いて操り手の上に集める。
「身体を通して現実世界に出力して、魔力を使ってどこかに集めます」
「うんうん、魔術の本質をよく理解できていますね。そこまでは普通の魔術と一緒です。そしてどうしますか?」
――魔術記号を重ね、編み上げ、意味を与えていく。
――それは式となり、現実に干渉する力となる。
「魔術記号を編み上げて、意味を与えます」
「そこです」
「え?」
「魔術記号が現実空間に展開されてから魔術式へと至るまでの過程がおかしいんです」
そう言うとリースさんは魔術を展開し始める。
「わかりやすくするためにファイアーボールの魔術をゆっくりと組んでみます。見てください。これが一般的な魔術式の作り方です」
「と言われましても……同じじゃないですか?」
「全然違いますよ。展開された魔術記号は、シスタちゃんのように最初から式の形を取りません。こんな風に、まず熟語にします。小さなまとまりにすることで、意味のある記号として扱うんです」
「ああ、それは最近読んだ入門書にも書いてありました。珍しいやり方だなと思ってたんですが」
「むしろこれが普通なやり方ですよ」
そういうと、リースさんは魔術記号の集まりを、更に組み合わせていく。
「熟語を組み合わせて小さな式にしていくんです。そしてそれを更に組み合わせる」
小さな集まりが、中くらいの集まりになり、大きな集まりになり、更に大きな集まりになり……。
「こうやって組み合わせていくことで、最終的に魔術式になります」
「なるほど。でもそれだったら私の方法でも良くないですか?」
「良くないです。最初から魔術式を形作るのは、枠なしジグソーパズルをランダムに埋めていくようなものです。どんな魔術師でも、そのときの精神状態や空間にある魔力の干渉によって、魔術記号の形、魔術記号生成の順番、魔術記号同士のくっつけ方等にほんの些細な誤差が生じるものです。小規模な初級魔術ですら魔術記号を大量に扱うのです。どんな些細な誤差でも最終的な魔術式の完成形に影響を与えます」
そこでリースさんは一呼吸置いて私の方を見つめてくる。
「だから、最初から魔術式の完成形をイメージして、まだ
「つまり、私みたいに最初から魔術式にしてしまうのは……」
「率直に言うとわけがわからないですね。魔術記号を一切の誤差無く毎回同じように展開する特技か固有魔術かとも思ったのですが、見ている分にはそうわけではないようです。シスタちゃんは魔術式を組み上げるとき、どういうイメージをしていますか?」
「え、えと、そのあたりを話すのは恥ずかしいんですが」
「駄目です。教えて下さい」
なんだか私の幼さを告げるようで恥ずかしいのだが、真顔のリースさんにジーッと見つめられてプレッシャーをかけられる。
この美しいお顔に見つめられて耐えられる人などいないだろう。
「わ、わかりました。話します」
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