第20話
魔術を発動するには、まず身体の中にある魔力の芯を探す。
芯から必要な魔力を取り出し、意識の潜在領域で魔術記号を形作る。
作った魔術記号を、肉体という道具を使ってこの現実空間に展開していく。
現実空間に紡いだ魔術記号は、魔力を用いて操り手の上に集める。
魔術記号を重ね、編み上げ、意味を与えていく。
それは式となり、現実に干渉する力となる。
「行きます」
ファイアーボールの魔術式が展開された。あとは発動するだけ。
私にとって魔術は、母の紡いでくれた物語のひとかけらだった。
母の語る物語はハッピーエンドではないこともあったけれど、それは別にどうでも良かった。
私が唯一嫌だったのは、終わってしまうこと、
物語は私の心を震わせるだけ震わせておいて、どこかでプツリと終わりになる。
めでたしめでたしでも、みんなは平和に暮らしましたとさでも、その後どうなったかは誰にもわかりませんでも、その先に物語はない。
物語の登場人物に未来はあっても、物語そのものに未来は無い。
それが私にはどうしようもなく寂しかった。
魔術も一緒だ。
魔術の終わりはいつだって寂しい。
私の魔術が、物語が、終わってしまう。
その寂しさを噛み締めて、私は魔術に「おわり」を告げた。
「ほう」
シスタさんの声をどこか遠くに聞きながら、私のファイアーボールがデコイへと飛んでいく様子を眺める。
すぐに着弾し、デコイへと吸収されるように消えていった。
魔術師試験のときにも見たが相変わらず不思議な光景だ。
本当だったらファイアーボールがぶつかったところは炎上するはずである。
どういう仕組みなのだろう。
「いいですね。思っていた以上に良いです。シスタちゃん」
頬を上気させて嬉しそうにしているリースさんを見て、私も嬉しくなった。
リースさんに釣られるようにテンションが上がった私は、言われるがままに魔術を発動し続ける。
初級魔術や準中級魔術、それから最近練習している中級魔術まで。
中級魔術は使えるかと聞かれたので、自信はないけど練習はし始めたという話をしたらそれも見せてほしいと言われたのだ。
私としてはとてもお見せできるような
恥を
流石に色々な魔術を矢継早に発動したせいか疲労感がある。
魔力も枯渇しかけで意識もふわふわとし始めてきた。
私の魔力が無くなりかけていることに気づいたのか、リースさんは「そろそろ良いでしょう」と言いながら、どこからともなく取り出したふかふかのタオルを渡してくれた。
「これを使って汗をふいてください。喉も乾いたでしょう。こちらをどうぞ」
ポーションの容器のようなものに入った飲み物も渡される。
魔力ポーションのイメージがあったので飲むのを躊躇したが、喉の乾きには逆らえない。
恐る恐る口をつけると、甘い風味が口の中に広がる。
ほのかに酸味も感じられるが、不味いという感じではない。
むしろ、身体に芯から染み渡るほどに美味しい。
「ふう、生き返ります! ありがとうございます! これ美味しいですね。なんでしょう?」
「それは良かった。そちらは魔力水です。汗をかいて減った水分や塩分等を補給しつつ魔力も補給できる優れものですよ。まだこの辺りでは手に入りませんが、大量生産の目処が立ち次第で大規模に輸出する予定です」
「魔力ポーションと比べて百倍美味しいです!」
「そうでしょうそうでしょう。魔力ポーションは不味すぎましたからね。魔力水なら問題なしです」
突然饒舌になったリースさんは、魔力水を褒められて心なしか自慢げだ。リースさんがこの魔力水の制作に関わっているのかも知れない。
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