第8話


 そうは言っても、魔術の普及は相当渋られたそうです。


 ただ、当時のルーラル辺境泊は政治的手腕に長けていました。


「もし魔の森の活動が沈静化したら、国や他家はわが領で育った魔術師を召し上げればいい。コストのかかる教育を我々に任せられるのだから、こんな便利なこともないだろう」


 とうそぶいてロビー活動を行い、異例とも言える魔術の普及を認めさせたのです。


 ここでルーラル辺境伯領には一つ、魔術連盟の発展のために欠かせない要素がありました。


 冒険者組合です。


 魔の森にある資源は潤沢で、危険と引き換えに多くの利益を手に入れることができます。

 魔の森に面しているルーラル辺境伯領には、国中の荒くれ者や探検家が集まり、更に彼らと取引を行う商人らが集まり、といった形で発展した街がいくつもありました。


 そうして集まった者たちをうまく動かすために、ルーラル辺境伯は数代に渡り冒険者組合と呼ばれる半官半民の互助組織を運営していました。


 税制で優遇したり、魔の森への遠征が困難な冬季に仕事を斡旋するなどする代わりに、街道の治安維持を行わせたり、危険な魔物の討伐を行わせたりしたんですね。


 この冒険者組合を、魔術連盟に取り込みました。


 魔術師だけでなく、冒険者や商人などを巻き込みつつ、市民が魔術連盟と関わりやすい形を作ったのです。


 こうしてできあがった魔術連盟は、魔術師でなくとも加入できる互助組織でした。今とそう変わりませんね。

 魔術連盟に関わる人、あるいは関わりたい人ならだれでも登録でき、登録したら連盟員として認められます。


 商人による国際的互助組織、通称商業ギルドの体系とよく似ていて、実際にベースとなる冒険者組合は商業ギルドを参考にして体系が作られました。


 冒険者組合によって得られた知見も取り入れつつ魔術連盟が運営された結果、ルーラル辺境伯領は他領と比較して生活水準が高く、更に戦力を多く抱える領となりました。



「さて、歴史の授業のようになってしまいましたが、魔術連盟はもともと領主が始めた事業だったんですよね」


「へー、知らなかったです。最初から民間の組織だと思っていました」


「そう思っている方は多いですね。まあ現在の魔術連盟は独立した国家体制を保持しているので、民間の組織かと言うと微妙ですが」


「確かに!」


「ふふ、話を戻しましょう」



 魔術連盟が設立されて十年も経てば、ルーラル辺境伯は当たり前のように他領の領主と国から疎まれていました。

 魔術連盟によって得られるルーラル辺境伯領の富に対する嫉妬や、力に対する恐怖は、ルーラル辺境伯から魔術連盟を取り上げようとする運きへと繋がります。


 しかし、ルーラル辺境伯はこんな富を生む黄金の鳥を手放したくないし、魔術連盟も半分は民間組織である以上、接収しようとする横暴な貴族たちに対する反発がありました。


 それに、魔術学校によるそれとない教育や、魔術連盟に属する商人たちからもたらされた情報によって、他領では魔術師の扱いが良くないことも魔術連盟の魔術師たちは知っていました。

 他領から亡命してきた魔術師も実際に所属していて、そういった者たちの話もあって、居心地の良いルーラル辺境伯領から出たくないと思う魔術師は非常に多かったんです。



 そんなあるとき、事件が起こります。


 魔術連盟独立へのきっかけとなった事件です。


 幼い魔術師見習いが何人も、他領の者により拉致されたのです。

 おそらくは、自領の兵器として育てるために。

 最初は原因不明の失踪として扱われていましたが、怪しげな集団が眠っている子どもを運んでいるのを目撃した住民が複数いました。

 その住民たちの証言を元に、他領の間者が関わっていることが突き止められたのです。



「魔術連盟では他領に対する怒りが爆発しました。そこである作戦が組まれたのです。ルーラル辺境伯がその作戦に関与していたかは公になっていませんが、まあ公にしないほうが良いのでしょう。ちょっと政治的には危うい作戦でしたから」


「ごくり」


「口でごくりって言う人を初めて見ました。シスタちゃんは面白いですね」


 指摘されて顔を赤らめながら慌てるシスタちゃんを横目に、僕は話を続ける。

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