第9話



 作戦名は籠の鳥作戦。


 この作戦は数人の精鋭を中心にその他はバックアップに回って実行されました。


 数人の精鋭の条件は幼く見えること。


 幼い容姿のエルフや人間、それから何らかの魔術で姿を偽れる者が参加していました。


 一言で言ってしまえば、作戦の趣旨は単純。


 囮です。


 敵の懐に自ら捕らえられるという危険極まりない任務です。

 魔術連盟が領主の直営組織である以上は軍事行動に抵触する恐れもあって、拉致の確たる証拠を押さえられなければ封殺どころかルーラル辺境伯への激しい糾弾につながる恐れすらありました。


 それほどに、ルーラル辺境伯は他領や国から疎まれていたのです。



「ところでシスタちゃん。魔術円卓はご存知ですか?」


「知ってますッ! 憧れですッ! 魔術連盟の中でも選ばれた魔術師だけが名を連ねることができる英雄の座ですよね」


「おお、元気が良いですね。はい、一般にはそう言われていますよね。実はこの作戦には、魔術円卓の魔術師も参加していました」


「どなたですか!?」


「幼い容姿のエルフ、で思いつきませんか?」


「ああ、爆炎と氷塊のシルリア! 幼艶ようえんのシルリアさんですね!」


「前者はともかく後者で呼ばれると怒るので本人の前では言わないほうが良いですよ。そうです。彼女が参加していました」



 爆炎と氷塊のシルリア。彼女は自然系魔術が得意な傾向にあるエルフの中でも異端な、自然を破壊する魔術を得意としました。


 エルフの間には、自然を愛し、自然に愛されることで肉体が健全に成長するという言い伝えがあるそうです。一方で彼女は「自然なんてなんぼのもんじゃい燃やして凍らしてドーンッきゃはははッ!」という感じのお方でして、一向に身体が成長せずロリロリしい体型のまま大人になってしまいました


「ロリロリしい体型……」


 自分の胸に手を当てて何か考えている様子のシスタちゃん。大丈夫ですよ、シルリアさんよりよっぽど成長されています。と、口には出しませんが。


「ええ、ロリロリしい体型です。ロリババアというやつですね」


「ロ、ロリババア……?」


 話を戻しましょう。

 作戦は月が大きくかけて暗い夜に決行されました。


 シルリアがいる以上、戦力的には十分でした。


 敵陣のど真ん中で大暴れするシルリア。


 その隙に別働隊はこっそりと拘束を抜け出して見習い魔術師たちを救出。


 まだ大暴れするシルリア。


 別働隊はさらに混乱する領主の城へ潜入し、様々な悪事の証拠までしっかりと確保。


 シルリアは敵施設をエターナルブレイズという魔術で凍りつかせ再起不能にした上で、別働隊と合流し、バックアップ班の用意した魔動車に乗ってすばやく撤退を開始。


 準備にこそ半月はかかりましたが、作戦自体はわずか一夜にして実行され、成功裏に終わりました。



「拉致を実行した領主はその後なんや・・・かんや・・・あって失脚しました。あとを引き継いだ領主が凍りついた元領主の城を『一凍夜の城』として観光地にしているのは逞しいと言うかなんと言うか」


「ええ……」


「親魔術師の方なので魔術連盟としては強く言えませんし、当のシルリアも別に気にしていないので良いのですが」


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