第10話


 閑話休題です。


 この救出作戦において得られた資料によって、クフトラ王国の魔術師に対する扱いの実態が明らかになりました。


 そのあまりの酷さに魔術師の権利を守る運動、通称で言うと魔術師権運動へと繋がります。

 たった一人の魔術師で一領主の戦力をほぼほぼ完封してしまったこともあり、魔術連盟の人々もかなり強気になっていたんでしょう。

 ただ、今回蹴散らしたのはたかだか辺境近くの一領主。

 クフトラ王国国王直属の魔術師や、公爵クラスによって高待遇で雇われているような魔術師などはかなりの戦力ですから、真正面から戦って勝てるというような簡単な話ではありませんでした。



 ところで。


「話に熱中していただけるのは大変嬉しいんですが、パスタが冷めてしまいますよ?」


 ぼうっと口を広げて見つめてくる少女に指摘すると、自分が呆けていたことに気づいたのかごまかすように慌ててパスタを口に入れる。

 入れすぎたのかほっぺたをパンパンにふくらませる様は小動物のようで可愛い。



「もお、わあああいでくわあい!」


「ちゃんと飲み込んでから喋ってくださいね」


「んぐ。もう! 笑わないでください!」


「それはすみませんでした。あまりにも可愛かったもので」


「か、可愛いって。からかわないでください!」


「あはは」



 話を一旦中断して、僕もパスタに舌鼓を打つ。

 飲み物としてコーヒーを頼んだが、スパイスの効いたパスタにはあまり合わなかったので、次頼むときは果汁系のジュースにしよう。



「そんなこんなで魔術連盟は独立したわけです」


「大事なところを端折られた!?」


「酷い目に合っている魔術師を救おうという目的があって独立に繋がっていきました。それゆえに、魔術連盟が支部を設立して魔術による発展に寄与する対価として、各国には『魔術師の権利の保証』を約束させます。国家所属や軍属が悪いというわけではなくて、自由意志の上で同意を取って国家に所属させてくださいというわけです」


「なるほど」


「そして、魔術師を守るための実力行使手段として、魔術連盟員に対する魔術連盟規則の強制や、魔術連盟員が危害を加えられた場合の警察権の一部を認めさせています。例外として、支部が置かれている国の国主並びにそれに準ずる人からの命令がある場合はそちらを優先させることになっています。ここであればストラール皇帝からの命令ですね。逆に言えば、今回のような領主程度の権力では覆りません」


とは言え、実際に裁くとなれば国の方に身柄を引き渡さなければいけないので、僕たちができるのは調査と魔術連盟の立場を利用した制裁のみだが。


「なるほど、それで悪い貴族を捕まえちゃっても大丈夫なんですね」


「そうですね。飲み込みが早くて結構です。でもパスタはもっとゆっくり飲み込んだほうが良いですよ?」


「んぐ、余計なお世話です! ところで端折った部分のお話は無いのでしょうか? 私、魔術連盟が独立するに至ったルムブルの戦いの話とか、魔術円卓の方が活躍する話が昔から好きで……」


「そうですね。また機会があればそのときにお話しましょう。ちょっとゆっくりしすぎてしまったようで」


 お店の入り口には、あらかじめ場所を伝えておいた魔術連盟の職員が困ったように立っていた。

 そろそろ時間のようだ。

 面倒な手続きを職員に丸投げしてしまっていたが、僕が必要な手続きが出てきたのだろう。


「お支払いは済ませておきますので、あとはごゆっくりしていてください。ちょっと多めに払っておくのでデザートでも頼んでティータイムを楽しんでくださいね。このお店を紹介してくれたお礼です」


「あ、えと、はい、ありがとうございます」



 残ったコーヒーを流し込んで席を立つ。

 店員さんに聞くと、魔術連盟と連携しているようだったので、魔術連盟員証の決済機能で支払いを済ませる。



「おまたせしました」


 と待っていた職員に話しかけたところで、後ろから声がかかった。


「あ、あの! 連絡先とかって教えてもらえたりは……」


「そうですね。もしシスタちゃんが貢献を積んだり魔術師ランクを上げたりして、魔術連盟員証に通信機能を付けてもらえるようになったら、このアドレスにメッセージを入れてください。そうすれば僕と連絡が取れます」


 そう言って僕はシスタちゃんに魔術メールのアドレスが書かれた名刺を渡した。


 魔術師の卵を奮闘させようという意図と、何となくの気まぐれだったのだけど。



 このときの僕は、まさか連絡先を教えたニ週間後に早速連絡が送られてくるとは夢にも思っていなかった。

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