第二部 シスタ、入学します!
第23話
ルーラル学術院は、魔術連盟独立領の都市丸々一つを使って成り立っている巨大な学校だ。
都市自体はルーラル学術院都市とも呼ばれ、学生や研究者、彼らを支える街の人々、学術院の研究成果を商売につなげたい商人などで賑わっている。
観光客に人気の都市でもあり、魔術連盟独立領の中でも領都と並んで栄えている。
いくつもある学部の中でも、魔学部はルーラル学術院の目玉学部だ。この大陸でもっとも進んでいるとされる魔術の学校兼研究機関である。
各国にも魔術を教える学校はあるが、教育課程や教員の充実度は、やはりルーラル学術院の魔学部が群を抜いている。
また、魔術連盟に置いていかれまいと各国もこぞって魔術を研究してはいるものの、いまだ最先端の内容の多くはこのルーラル学術院魔学部発のものが多い。
魔術以外についても、少なくない研究成果が毎年出ているのがルーラル学術院都市だ。
ルーラル学術院都市の外にはなかなか出ていかない研究成果も多く、また出ていったとしても難解で理解できないということは多々ある。
だからこそ、ルーラル学術院には各国から多くの留学生が留学してきている。
ルーラル学術院都市の充実した環境で勉強をして、学んだ内容を祖国に持ち帰るということが各国から重要視されているのだ。
魔術連盟が独立性を保てている理由は主に二つあり、その一つはこのルーラル学術院都市であるとされている。
ルーラル学術院都市は寛容に他国から学生や研究者の受け入れを認めているが、それも魔術連盟に敵対的ではないことが条件にある。
ルーラル学術院都市で生まれた研究成果は、魔術連盟の支部を通じて各国に伝わるが、魔術連盟に敵対すればそれも無くなる。
一度敵対関係になってしまったが最後、敵対国以外にのみ魔術連盟からの技術提供が行われることになる。
争いが長引けば長引くほど、魔術連盟と戦っている国は他国との格差が広がっていくのだ。
そうなれば後は「魔術連盟への協力」の名目をもらった国々が、魔術連盟の敵対国の横っ腹に食いついてお終いだ。
ミイラ取りがミイラになるとはまさにこのことである。美味しいピザを食べようとしたら、いつの間にか自分がケーキになっているのだ。
それではと複数の国で協力しようにも、そううまく同盟関係を結べるほど政治は簡単ではない。どこかでは対立関係が生まれてしまう。
それに、魔術連盟もそのような動きを指を咥えて見ているだけではない。外交担当が影に日向に利権をちらつかせながら動いているのだ。
外交的に見れば、美味しすぎる餌であるからこそ、独り占めが許されない場所としてみなされているのである。
ちなみにもう一つの独立性を保てている理由は単純で、魔術連盟の持つ戦力が強力だからである。
戦争を仕掛けたら最後、たとえ勝つことができたしても少なくない被害が予想されるため、簡単には喧嘩を売れないのだ。
この立場を作るために、元領主であるルーラル家の者が大きく貢献したとの話だ。
知と力のリソースをうまく活用して、各国にとっての仮想敵であり、また同時に友好国でもあるという立場をうまく作り出したのだそうだ。
と、まあ偉そうに語ったが、これらの話は全部リースさんからの受け売りである。
ルーラル学術院への入学のために必要な知識は何かを聞いたら話してくれた。
今思えば、ルーラル学術院へ推薦で入学させてもらえる自分の立場がいかに恵まれているかわかったが、リースさんから面と向かって勧誘されたときは全くわかっていなかった。
勧誘されたときのことを思い返す。
私が固有魔術を持っているという事実が判明したあと、リースさんはとてもにこやかに言ってきたのだ。
「シスタちゃん、ルーラル学術院に入学してくれますね?」
「えっと、それって魔術連盟の本部とかの方にある学校ですよね? 一応この街で友達もできましたし、ちょっと愛着も湧いてきたので、少し考えさせて――」
「入学、してくれますよね?」
「で、でも遠くに行くと村に帰るのも大変だし、国を出るのはちょっと怖――」
「入学、して、くれます、よね?」
「は、はい」
というわけだった。
学院への入学を半ば無理やり頷かされたあとで、色々と私にとって有益な情報をくれた。
それでようやく入学できることの凄さを知って、また移動に関する問題も解決しそうだということも理解した。
曰く、リースさんがいれば特別な魔術で移動も楽々なのだそうだ。
そういえば一昨日連絡をしてからたったの二日で魔術連盟独立領からストラール帝国まで来ているのはどう考えてもおかしかった。
魔の森をまっすぐに突っ切ってくるのでも無い限り、いくつかの国を通らないといけない。
場合によっては検問で時間を取られることもあるはずだ。
というかそもそも物理的に無理だ。
馬車ではなく魔動車を使おうとも距離的に不可能だろう。魔動車を使っても一週間はかかるはずだ。
リースさんの魔術で移動時間を短縮できるというのであれば納得だった。
その魔術がどういう魔術なのか聞いてみたら、
「僕の固有魔術に関わるので今は教えられません。シスタちゃんも、騒ぎを避けたければ固有魔術を持っていることはあまり言いふらさないようにしてくださいね。それと、固有魔術の内容を話すのは僕が許可した人だけにするようにお願いします」
とのことだった。
どんな魔術なのか気になって仕方がなかったが、「今は教えられません」とのことだからいつか教えてもらえると信じてぐっと堪えた。もうめちゃくちゃ聞きたいのを我慢した。シスタ十五歳、近年まれに見る苦渋の決断である。
あと騒ぎは好きではないので固有魔術持ちであることは全力で隠し通そうと思う。
苦労人魔術師は英雄に憧れる~魔術が好きすぎるので極めたいと思います~ 五月晴くく @satsukibare
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。苦労人魔術師は英雄に憧れる~魔術が好きすぎるので極めたいと思います~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます