第12話



 一人で考えていても埒が明かない。

 シスタちゃんに詳しく聞くのが良いだろう。その前に念の為確認だ。


『一応聞くのですが、魔術ランクはいくつだったんですか?』


『Eランクでした』



「E!?」


 Fどころじゃ無いじゃないか。


「どうしたんですか急に大きな声を出して」


 突然声を上げたことで、秘書のルビーを驚かせてしまったらしい。申し訳ないことをしてしまった。


「すみません。ちょっと驚くことがあって」


「執務中に魔術ネットに繋いでいたんですか? 感心しませんね」


「いえ、魔術メールです。先日連絡先を教えた新人魔術師から連絡がありまして」


「あなたが新人に連絡先を教えるなんて珍しいですね」


「ほんの気まぐれですよ。それより確認なんですが、先日監査したナダス伯爵領の魔術師試験は、つつがなく行われましたか?」


「ええと、ちょっとお待ちください」


 そう言うとルビーは手元の魔術端末を軽快に操り始めた。


 マジックコンピューター、略してマジコンと呼ばれることもあるその端末は最新技術の結晶だ。


 僕が事務のために使っているのもマジコンである。

 マジコンを用いると情報の保存や閲覧等様々なことができる。また、魔術ネットに接続して遠くにいるマジコンユーザーと通信ができる。


 マジコンや魔術ネットは、魔術連盟員証につける魔術メール機能を大容量化しようという発想から研究開発された。


 魔術メールでは短いテキストしか送れなかったが、マジコンを使えば大量の文章から画像まで通信することができるようになった。

 これを使えば様々な事務作業を効率化できそうだということで、魔術連盟で試運用した結果、実際に様々な事務の効率が大きく向上したので積極的に取り入れることになったものだ。

 ルーラル学術院における成果の中でもトップクラスに偉大な成果である。


 マジコンはサーバーとして設定して魔術ネット上で公開することもできる。

 お金に余裕のある高ランク魔術師や各国の富裕層の娯楽として、マジコンを用いた自分の魔術ネットサーバーの公開は徐々に広まりつつある。

 だれが呼んだかホームページと呼ばれているらしい。

 先見の明のある貴族などは自分の領地の観光情報をホームページに公開して集客しているとのことだ。うまいことを思いついたものである。


 ルビーに今調べてもらっているのは、魔術連盟が運営するサーバーに保存された情報だ。

 事務的な記録に加えて、魔術式の情報、魔道具の設計図、連盟員の個人情報、はては魔術連盟付属食堂のメニューなど様々な情報が蓄積されている。

 人呼んでアカシックレコードである。

 もちろん魔術連盟における権限ごとにアクセス制限がされているので個人情報などは守られるようになっているので安心だ。



 ルビーはあらかた調べ終わったのか、動かしていた手を止めた。


「職員の大幅な入れ替えがあったので、研修や監査も兼ねて本部から何人か立ち会ってますね」


「そうですか。何か問題は?」


「慣れていない新人職員が多かったことと、監査が入っているという緊張からかスムーズに進行したとは言いがたかったようですが、想定の範囲内で特に問題は無かったようです」


「なるほど。ありがとうございます」


「ああ、でも特記事項がありますね。測定のエラーや不正が疑われたため試験を一度やり直した人がいたそうです。本部職員立ち会いのもと再試験を行っても同じくらいのスコアに落ち着いたので、問題は無かったそうですが」


「その試験を受けた人の名前は書いてありますか?」


「ええと、試験番号は書いてあるのでそこから辿って……」


 ああ、なんだろうこの予感は。ワクワクするような感覚がある。


 ルビーは少し検索に戸惑っていたようだが、有能秘書さんだ。すぐに目標ホシを突き止めてくれた。


「わかりました。シスタ・アントさんだそうです」


 ビンゴだ。




『シスタちゃん。もし良ければルーラル学術院の魔学部に入学しませんか? 僕が推薦しましょう』



 先程までとは異なり、返事はしばらく来なかった。

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