第13話
「というわけで、シスタちゃんには魔術師としての才能があるかもしれません」
「は、はあ」
そう言われても全く自覚がなかったので、いくらリースさんの言葉と言えどなかなか信じられない。
リースさんはコーヒーを啜りながら「なかなか良い雰囲気のお店ですね」なんて寛いでいる。
さっきリースさんと魔術連盟ナダス伯爵領支部で落ち合ったところ、この前とは別の美味しいご飯屋さんにもぜひ案内してほしいと言われた。
だから美味しい焼き立てパンが食べられるカフェに案内したのだが、満足していただけたようである。
もぐもぐと美味しそうにクリームのたっぷり入ったパンを食べるリースさんは、今日も相変わらずお美しい。
さて、なぜまたリースさんと会うことになったのかと言うと、一昨日リースさんに魔術連盟員証を使ってメッセージを送ったことがきっかけだ。
リースさんとの出会いは二週間ほど前の魔術師試験(その日は延期になっちゃったけれど)でのこと。
貴族の不正現場に居合わせてしまった私は、一人で乗り込んでばっさばっさと不正に対して切り込んでいくフードの魔術師と出会った。
それがリースさんだった。
そのときリースさんの連絡先を教えてもらったのだが、その連絡先を使ってメッセージをやり取りするには魔術連盟員証に魔術通信の機能――通称魔術メール――を付与してもらう必要があった。
魔術メール機能付与の許可には魔術師Fランク以上か、総合貢献度Fランク以上が必要とのことだった。
総合貢献度上げには時間がかかるので、すぐにメッセージを送ってみたかった私は魔術師試験でFランク以上を目指して頑張った。
「そう。それでですね、シスタちゃん」
「なんでしょう」
「魔術師試験の様子を教えてもらせませんか?」
「えっと、良いですよ」
「職員が上げた報告だけでは詳しくわからなかったので、シスタちゃんから聞けるのを楽しみにしていました。できれば詳細にお願いしますね」
「そんな面白い話では無いと思いますけど……」
延期された魔術師試験は、今から三日前に無事開催された。
ごほん、と咳払いをして私はその日を思い返す。
++++ ++++
魔術師試験当日。
試験までの二週間は、魔術連盟の依頼を受けて生活に必要なお金を稼ぎつつ、魔術連盟の資料室で勉強をした。
登録したてでランクも何もない私が見ることのできる資料は限られており、魔術に関する資料はかなり少なかった。
せいぜい魔術の入門書だとか、付近の魔物の生息地の資料くらいのものである。
とは言え、魔術の入門書にはいくつかのバリエーションがあって、それぞれ新しい知識を得ることができた。
魔術式を展開するときの魔力運用のコツだとか、魔術発動を失敗したときの改善方法などが書いてあった。
また魔術記号の圧縮法や魔術式の構築法などが図解付きで載っている入門書には、私が今までしていたものとは
というわけで、金策と勉強でコンディションを整えて、私は魔術試験に挑んだ。
魔術師試験では、まず最初にグループ分けがされた。
魔術師ランクごとに一旦分けられたあと、さらに連盟職員さんの指示にしたがって十人くらいのグループに分けられる。もちろん私は魔術師認定をこれから受けようとする人たちのグループに入れられた。
このグループでまとまって試験会場を回っていくようである。
指示されたグループから順番に試験会場に入っていく。
私たちのグループはなかなか呼ばれなかったので手持ち無沙汰に魔術の入門書を読んでいると、同じグループにいた女の子三人組が興味深げにこちらを見ていることに気づいた。
ちょっと歳下くらいの女の子たちで、みんな「魔術師入門コース 教本」と書かれた本を手にしている。
私がやけに分厚い魔術書を持っているのが気になったのだろうか。
視線が気になったので話しかけてみることにする。
「どうかしましたか?」
「えっと、ねえ君。入門コースでは見たことない顔だけど、受けてないの?」
三人の中でも一番元気の良さそうな子が返事をくれた。
「受けてないですよ」
「あー、じゃあ身近に優秀な魔術師がいたパターンか。いいなあ」
「え、いませんでしたけど……」
「またまたあ」
何か勘違いをされているような気がするが、重ねて否定するのも面倒なので苦笑で返しておく。
身近に魔術師がいればいいなあとは何度も思ったが、残念ながらいたという事実はない。
ド田舎に魔術師なんていないという悲しい現実があるだけだった。
「そうだ。あなたお名前は? 私はアン。でこっちはサラちゃんとハンナちゃん」
「私はシスタです」
ご丁寧に自己紹介をしてくれたので、私もにこやかに返す。
元気な子はアンさん、勝ち気そうな子がサラさん、穏やかに頭を下げてきた子がハンナさんのようだ。
「皆さんは元々お知り合いで?」
「うん。魔術師入門コースで知り合ったの」
魔術師入門コースは魔術連盟が運営している学校のようなもので、一年かけて少しずつ初級魔術を使えるように訓練してくれるらしい。
この子たちは入門コースを終え、魔術師試験を受けに来たのだろう。
魔術師として認められるという希望に胸を膨らませている様子が眩しい。
「いいよなあ身近に魔術師がいる奴は。俺らもこんなアホ女どもと一年勉強するより、家庭教師でも雇いたかったぜ」
女の子たちの背後から、突然声がかかる。
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