第14話
声をかけてきたのは別のグループにいた男の子だ。
そちらはそちらで男の子が数人固まっている。
彼らも入門コースを終えて試験を受けに来たのだろうか。
アンさんたちにちょっかいをかけたかったのかも知れないが、それにしてもムッとする物言いだ。
「もう! 急になに!?」
「人に魔術を教えられるくらい高名な魔術師サマから魔術を伝授してもらった優秀なお方に、お前たちのアホが
「そんなのトムには関係ないじゃん!」
おっしゃるとおりだ。トムさんとやらには私が彼女たちと知己を結ぼうが関係ないし、そもそも私は高名な魔術師サマから魔術を伝授してもらったわけではない。
「成績だけが魔術師のすべてじゃないから!」
あ、成績は悪かったんだ。
それから言い合いになってしまった。女子陣営からはサラさんも参戦し、かしましく口喧嘩を繰り広げている。
一見ハンナさんはにこやかに見守っているように見えるが、私は見逃していない。目は全く笑っていないということを。アルカイックスマイルというやつである。ちょっと怖い。
「いつもいつもうるせえんだよお前らは。バカは声がでかいなあ!」「成績が良かったから何よ! 結局は魔術の腕よ!」「はん、見ていろ。Fランクとして認定されてやるよ」「無理に決まってるじゃない! バカはあんたね!」「は!? だれがバカだ!」「だいたいあんたは――
男子陣営対アンさんサラさんの言い争いは、職員さんが試験のために男子たちがいるグループを呼びに来るまで続いた。
私は途中から魔術書を読むのに集中していたので、どういう風に落ち着いたのかよくわからない。
というかぶっちゃけ最初からあんまり聞いてなかった。興味がなかったので。
試験会場に消えていく男子たちに向けてあっかんべーをするアンさんを横目に、私はハンナさんに話しかけた。
「いつもこうなんですか?」
「そうなんですよ。困っちゃいますよね。アンさんたちの気を引きたいのでしょうけど、もう少しやり方はあるでしょう。頭が良いアピールでマウントでも取りたいんでしょうかね? あんな言い方したら嫌われるばかりですのに」
私わかった。この人は男を尻に敷くタイプだ。
「思春期ですからね~」
「ええ、まあそうですね」
私の適当な返しにくすりと笑うハンナさんを見て、敵に回しちゃいけないのはこういう物静かなタイプの人だなと実感した。今後は気をつけよう。
「まったく、いつもいつも突っかかってくるんだから!」
「ほんと! なんなのよもう!」
アンさんとサラさんはプンスコと怒っている。このままだと試験に差し障りそうだと思ったら、ハンナさんがなだめ始めた。
なるほど、ハンナさんは二人のストッパー役なのだろう。
アンさんとサラさんも、ハンナさんと話してすぐに落ち着いたようだ。
「シスタちゃんもごめんね。急に絡まれちゃって」
「いえ、気にしてないので大丈夫ですよアンさん」
「でも……」
「ごめんなさいねシスタさん。いつもはここまで強く言い返したりはしないのだけど、関係ないシスタさんにも絡んだのが許せなかったみたいで騒がしくなっちゃって」
「も、もう、ハンナちゃん!」
なるほど。私のためにも怒ってくれたのか。
顔を赤くしてハンナさんをバシバシ叩くアンさんを見ながら、この人たちとなら仲良くできそうだなと思った。
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