苦労人魔術師は英雄に憧れる~魔術が好きすぎるので極めたいと思います~
五月晴くく
第一部 シスタ、魔術師になります!
第1話
ストラール帝国のナダス伯爵領に魔術連盟支部ができてニ十年と少し。
今日、私は領都で魔術連盟の魔術師認定試験を受ける。
++++ ++++
私は魔術師になることを夢見ていた。
幼い頃、母が語ってくれた様々な英雄の話の中で、魔術師の話は特に私の胸を打った。
魔術の力で国を築いた魔導王ザガムル一世の英雄譚、魔の森に住むエルフだけが知るという世界樹に関わる魔術の話、わがストラール帝国の生きる伝説である宮廷魔術師グロンタールの逸話の数々、それから魔術連盟の独立につながったルムブルの戦いの話。
商人でも無く、剣士でも無く、冒険者でも無く、魔術師だけが私を夢中にさせた。
特に魔術連盟の魔術円卓に名を連ねる英雄たちは幼い私の憧れであった。
一人で一個大隊を相手取れるだとか、邪悪なドラゴンを数人で討伐しただとか、魔術の実験で地を割っただとか、未開の地である魔の森に別荘を作っただとか、とんでもスケールの噂に事欠かない魔術円卓の魔術師たち。
そんな異次元の魔術師が使う魔術を見てみたいと母に伝えたとき、苦笑気味で「それなら魔術師になれば会えるんじゃない?」と天啓とも言うべき言葉をくれた。
その日から私の生活は変わった。
魔術を使えるようになるには、魔術師から教えてもらうか魔術書を使って学ぶ必要がある。
魔術の普及が進み、魔術連盟発行の魔術書が一般市民でも手に入るようになったとは言え、子どもが気軽に欲しがれる値段ではなかった。
ナダス伯爵領の領都ともなれば市民が使える図書館で学ぶことができるのだが、私の住む小さな村に図書館などあるはずがない。
魔術連盟がこの領に支部を設立して歴史が浅いこともあり、村の老人が実は魔術師だったなんてこともなかった。
魔術師のいる冒険者パーティが魔物討伐のために村に訪れることもあるが、滞在するのは一瞬だ。
こんな
ならばそう、魔術書を買う必要がある。
そう思い立ったのが五歳の頃。
私は母に頼み込んで村の仕事を回してもらい、コツコツとお小遣いを貯めた。周りの子どもたちが無邪気に野原を駆け回る中、私は大人たちに混ざってひたすら村の工芸品を作ったり、農業を手伝ったりした。それだけでなく、博識な爺さまに文字を教えてもらったりもした。
あれから十年が経った。
++++ ++++
お小遣いを貯めて行商人から買った魔術の入門書は村から領都まで持ってきた。
もう何度も読んだけれど、いくら読み込んでも読み足りない。読めば読むほど新しい発見がある。
きっとこの先にはこの魔術書なんて目じゃないくらいのたくさんの魔術と出会えるのだろう。
晴れ渡る空の下。宿を出て意気揚々と魔術連盟ナダス伯爵領支部へと向かう。
既に領都に到着した日に魔術連盟への登録はしてある。
魔術師でなくとも魔術連盟に登録することは可能だ。
魔術連盟には、魔道具を買いたい、冒険者として依頼を受けたい、魔術に関連した知識を得たいなどなど、様々な理由で登録する人たちがいる。
登録するだけなら審査は必要ない。個人個人で異なる魔力紋を登録するだけで良い。
国と連携しているらしく、魔力紋を使って犯罪歴のチェックなども行えるらしい。
ふふん、と魔術連盟の連盟員証をポシェットから取り出す。
鈍色に光る手のひらサイズのカードは、魔術的な加工がされた鉄が使われているらしく、連盟員としての貢献度を表示したり、最寄りの連盟施設を指し示したりする機能が備わっている。
連盟員証を見れば、「本日十の刻から魔術師試験」と書いてある。
時計塔を見れば今は九の刻を少し過ぎたくらいだ。
早すぎただろうかと思いつつ連盟支部を覗くと、魔術師試験のためかかなりの賑わいがあった。
どこもかしこもローブをつけた青年少女紳士淑女でごった返している。明らかに年下の子から、かなりご年配の方まで集まっていた。
喧騒と人々の熱は外にいても伝わってくるようだ。
それもそうだろう。なにせ三ヶ月に一度の魔術師試験が今日行われるのだから。
魔術師試験に合格することは比較的簡単だ。魔術を使えさえすれば良い。
魔術連盟に所属すると、お金さえ払えばだれでも魔術の入門コースを受講でき、魔術師から直々に魔術を習うことができる。
その金額も法外なものではなく、一般市民でも頑張れば出せるくらいだという。
そういうわけだから領都では子どもに魔術の入門コースを受けさせることが多いらしい。箔付けや家業に魔術を取り入れるためとのことだ。
魔術師試験が賑わうのはそんな子どもたちが多いから、というだけではない。この試験が魔術師としてのランク上げのための試験も兼ねているからだ。
魔術連盟員には各種貢献度の他に、魔術師限定で魔術師ランクというものが与えられる。
魔術師ランクが上がるとより多くの特典を受けられるようになる。例えば高ランクの魔術の魔術式を知れるようになる。
冒険者として依頼を受けるときも、魔術師としてのランクで制限がかかっている場合があるくらいで、魔術師ランクの高さは重要な意味を持つ。
魔術師ランクを上げることは多くの魔術師の目標だ。
連盟支部の入り口を通る。入り口の扉は自動で開いて、自動で閉まった。
初めて連盟支部に来たときから思っていたが、技術の発展がすごい。
どうなっているのだろう。この扉を作るのに一体いくらかかるのだろうか。
さすがは魔術連盟である。本部から遠く離れた支部とは言え、最先端の魔術を取り入れているに違いない。
受付の人がさも当然のように扱っている機材などは何をやっているのかすらわからない。真夏なのにこんなにも涼しいのはきっと魔術道具によるものなのだろうが、これだけの広さを魔術で満たすのにどれだけの魔石を使っているのか想像もつかない。
様々な魔術道具があちらこちらにおいてあり、みんな当然のようにそんな魔術道具たちを使用している様子だ。さすが都会人と言ったところだろうか。
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