第19話 異文化交流
さすがは魔王の娘といったところだろうか。
本気になったルルルの成長力は半端じゃなかった。
本人曰く、「ボクの魔力が戻ってきているからなあ!」だそうだ。
魔力はゲームの腕まで上達させるのか、私も欲しいものだ。
なんて会話をしながら、きたるFPSゲームの大会、『最強FS配信者マッチ』に向けて練習をしていく私とルルルとミファー。
ミファーが不参加の時は唯に手伝ってもらっていたのだけれど、さっきも言った通りこのルルルの成長速度には驚きである。
たった一名を除いて。
ミファー。
彼女は明日のプロゲーマーチームとの合同練習の話をしてからどうも何かを考えている様子だった。
個人チャットで何か聞いてみても、返事は無し。
プロゲーマーの二人とは私以外みな面識はないし、もう一人のシエナというVTuberは私でさえ面識がない。
いつのまにか相互フォロワーになっていたシエナのツブヤイッターのプロフを見てみた。
「異世界の女騎士ねえ。まあいかにも”くっころ”感のあるデザインだ、薄い本が厚くなる」
特に物申すことは無い。
個人勢らしく、登録者は3万人。どうやら騎士のくせにFPSがめちゃめちゃ得意という、いや剣使えよというノリはリスナーの間では擦られすぎてまん丸になっているようだ。
「活動時期は……。ミファーと同じくらい? まだまだ新人さんじゃん」
その時、今回のコラボ相手、がぶこさんからメッセージが届いた。
その内容は、コラボ前に六人でアイスブレイクしましょう、とのことだった。
一瞬ミファーの顔がよぎったが、これを機になにか聞き出せるかもしれないと思って私はルルルとミファーに聞くことなく快諾した。
◇◇◇
「敵が自ら戦いの前にやってくるとは、愚かな奴らめ! ボクの巧みな話術でその弱点を聞き出してやるわ!」
「ノリノリだねえ、ルルル」
「当たり前だ! たとえゲームといえどボクは戦いに負けられないのだ! 暗黒世界復活のリハーサルとでもいこうか!」
ゲームでリハって、随分と暗黒世界も安くみられたものだな。
「……ミファー?」
「はい、なんでしょうか、ミカヅキ様」
「まだ月子でいいよ。黙ってたからミュートにしてるのかなって思って」
「そうでしたか、大丈夫ですよ。ちょっと気を張っていただけです」
「ふふふ。ミファーも震えておるなあ!」
ルルルはちょっと勘違いをしているようだけど、確かにミファーの様子は普段と違っているように聞こえる。
そうこうしているうちに、ボイスチャットルームにコラボ相手の三人が入ってきた。
◇
がぶこさんからの提案は実に面白かったし、せっかく配信でするならその方がいいと思った。
それぞれのチームをメンバーシャッフルして何戦かかわそうというものであった。
私はもちろん賛成した。他のメンバーも、ルルルももちろん。
ただひとり歯切れが悪かったのはやはりミファーである。
「じゃ、チャットにグーかパーのスタンプをせーので出して二組に分かれましょう!」
その結果、1回目は私とシエナさんとルルルとのチーム、ミファーとプロゲーマーとのチームになった。
「ふっふっふ、ミファーよ、ボクの従者であることを今だけは忘れてもよかろう!」
「……はい」
「配信外でもルルルちゃんってこんな感じなの?」
何も知らないプロゲーマーたちがけたけたと笑っている。
ルルルの口から「設定とかではない!」というツッコミ出たのも随分久々な気がする。
「じゃ、配信開始の時は六人で、そのあとチームに分かれてボイスチャットしましょう。終わったら再抽選してまたマッチして……」
◇◇◇
「よ……よろしくおねがいします」
「よろしくミカヅキ殿! ルルル殿!」
シエナさんはハキハキとした物言いでまさに女騎士のような強くてかっこよさのある声をしていた。
「よろしく頼むぞ、シエナ。ボクの護衛としてしっかり働いてくれ!」
「いや、チームメイトだから……」
「わかりました、ルルル殿!」
ちなみにもう配信は始まっているので、このシエナの設定にごりごり忠実なロールプレイには特に突っ込まないでいた。
「暗黒世界にいた時にも魔王軍には優秀な騎士団がおったとボクの父上が言っていたなあ」
「私も異世界では騎士団の団長として優秀な指導者様に従っておりました!」
「ほう、それは頼もしい。その腕をぜひ振るってくれ」
「これ銃を使ったゲームなんだけど……」
配信のコメント欄では彼女らのノリノリの掛け合いに呆れる私と言う構図で大盛り上がりのようである。
ゲームが開始すると、シエナは早速騎士として機敏に動いていた。
やはりFPSゲームに強いVという話は本当だったようで、私もキャリーされている感覚に陥っていた。
「シエナさんすごいですね」
「そうか? ミカヅキ殿もなかなか見事な銃捌きとお見受けする!」
「ずっとFPS得意だったの?」
「いや、配信で初めてやったのだが、これが思いのほか快感でな。それまでは剣一辺倒だったのだが、異世界に戻った際には銃を導入してみようと考えているのだ」
「はっはっは、シエナ! 伝統に囚われるだけでなく、戦果のために新たな技術を取り入れようとするその姿勢! さすがだ! ボクのいた世界が復活した暁にはシエナのような騎士を育てることにしよう!」
こんなところで訳のわからない異文化交流されてもなあ、と思いながら私たちはフィールドを駆け回っていた。
「む、シエナ、前方に敵影確認!」
「わかりました、ルルル殿! 私が仕留めてキルリーダーになってみせましょう!」
「頼んだ!」
するとシエナは単身果敢に三人の敵に向かって行き、銃を撃ちまくった。
「くらえ! 覚悟! クイーンナイト・ハーツセイバー!!!!」
そう必殺技を叫んでシエナは敵をあっさりと片付ける。
「セイバーってサーベルのことじゃん」
「いやあ、騎士のときの私の必殺技でね」
おっと、それならダサいとは安易に言えない……。
「なにはともあれ、これでシエナさんはキルリーダーになったから……」
「貴様……」
「……ルルル?」
「貴様……その技……」
ルルルがヘッドホンの向こうで声を震わせていた。
彼女の操作するキャラは棒立ち状態である。
そのままだと敵に狙われるから、と指摘しかけたが、ルルルの怒号がそれを掻き消した。
「貴様がボクの父上を、暗黒世界を滅ぼした張本人だなっ!!!!!!」
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