第13話 ミファー
「ボクだって色々努力してるんだ! だからこうやって魔力も回復してきてるし……!」
「声がでかいってばだから!」
2つの意味で人には聞かれたくない。
ひとつ。
Vとしての身バレの聞き。正直ルルルの声は配信での声と寸分の狂いが無い。
いまや私と同じくらいの登録者を持っている彼女、万が一ってこともある。
もうひとつ。
単純に、暗黒世界とか魔王とか、イタい。
事実なのだろうけど、その他大勢のこの世界の人間からすれば聞くに耐えない厨二病発言だ。
現に視線がこのテーブルに集まっている、恥ずかしいっ。
だれか助けてっ! ルルルを止めてっ!
「お待たせいたしました、スペシャルイチゴパフェデラックスをご注文のお客様」
「あ、ボクで……って、え?」
クソダサい商品名のパフェを持ってきた店員さんの顔を見上げてルルルの動きが止まった。
喫茶店の可愛らしい制服。
金髪のセミロングヘアで、外国人のような風貌のこの店員さんによく似合う。
私もその顔を見て「綺麗な人だな」と一瞬見惚れてしまうほどの彼女は、動きを止めて口もあんぐりしているルルルを見つめてこう続けた。
「それと他のお客様もいらっしゃいますので、店内ではなるべくお静かにお願いします、お客様……。いえ、お嬢様」
「……え、お嬢……? え?」
「……み、み、ミファー…?」
ミファー。ルルルの口から出たのは彼女専属のお世話係の名前。
「お久しぶりです、お嬢様。お元気そうでなによりです」
「ミファー! 本当にミファーじゃないか! 向こうでのメイド姿で見慣れたせいでパッと気付かなかった! ボクは元気だよおかげさまで!」
「それはよかったですお嬢様。そして……」
ミファーは文字通りデラックスなくらい盛られたパフェをテーブルに置いて、ぐるりと顔を私の方へと向けた。
「あなたが朝比奈月子様……」
さらに声を窄めて……。
「いえ、雛姫ミカヅキ様……でしょうか」
「なっ」
「え、ミファー、どうしてそれを?」
絶句する私、呑気にパフェを頬張るルルル。
「もうすぐ上がりですので、その後少々お話しましょうか。お嬢様、月子様」
優しい笑顔でテーブルを去るミファー。
話で聞いていた通り、面倒見も良さそうないい人に見えた。
けれどどうしてミカヅキが私だと……?
あと、とても胸が大きかった。
◇◇◇
「わたくしはこの世界で『愛内深冬』として暮らしているのです。あ、お嬢様方はミファーと読んでいただいて結構ですよ」
業務を終えたミファーが私服に着替えてルルルの隣の席に座るやいなやそう語り出した。
つもり話があるのだろう、ルルルはずっとそわそわしている。
ってかあのパフェもう全部食べたのかよ。
「あの日、お嬢様をお助けしたのち、わたくしもなんとかこの世界へと流れ着きました」
なにがどうして、とは二人とも聞かなかった。
「わたくしはお嬢様の堕ちた先を見つけ様子をのぞいたのですが、月子様と仲良さそうに添い寝をしていたのを拝見致しまして、あなたにならお嬢様をお任せできると判断いたしました」
窓から覗かれていたのかよ。
「いずれはこうしてお嬢様の前に現れなければならないと思っていましたが、それまではわたくしもわたくしで暫くこの世界で遊んでおこうかと思いまして」
「ミファーはずっとボクの世話をしてくれていたからな、羽はたっぷり伸ばしてくれ! ボクが暗黒世界を復活させるまでは!」
「暗黒世界の復活……そうですね……」
少し含みのある返答をするミファーが気になったけれど、水を差すのは野暮だろう。
「それで、この喫茶店でアルバイトしてた……んですか?」
「敬語でなくて結構ですよ、月子様。遠慮なさらず」
「そう……なら、お言葉に甘えて……」
「もともと世話係という身分でしたから、この世界でも似たようなことを仕事にできると聞きまして。まあこれも遊びの一つです」
「ミファーらしいな! 他にはこの世界で何してたんだ?」
興味津々といった風にルルルが尋ねる。
「そうですね、この世界を知るために色々街を散策しつつ、この世界の人間の性質や歴史などを把握するところからでしたね。読書や映画というものを見たり、ワープを使って旅にでたりもしました」
ワープ、ルルルにはそんな魔力残ってないと聞くけど、戦闘能力もあるというミファーにはそんなこともできるのか。
「あ、あと」
私と目が合うミファー。
「VTuberというものをしております、わたくし」
やはりあれは同一人物だったのか……。
「えええええっ! ミファーも!?」
「お嬢様のご活躍は拝見させていただいておりますわ」
「でへへ、活躍って、でへへ」
「それと、月子様も」
やばい、まだコラボのお誘いに返事をしていない。
実をいうとミファーという名の配信者からコラボの誘いがあったというのをルルルに相談しようか悩んでいたところだったのだ。
返答をするにしても、一度ルルルに聞いた方がいい、なんならルルルも一緒にと思っていた。
けれども、なかなか聞けなくて、というかルルルの話の中ではもう死んだかもしれない人物と同名で設定も同じっていうのを、どう処理して説明すればいいのか考えがまとまらなかっただけなのだけれども。
「おおかた、死んだと思っていたわたくしと同じ名前の配信者からのコラボの連絡に戸惑い、お嬢様にどう説明しようかと悩んでいたところなのでしょう?」
「全くもって」
ふふふ、と笑みをこぼすミファー。
たしかに、年は近いのに、大人のような安心感がある。これがバブみか?
ママなのか? ママみがあるのか!?
「なあ、月子。コラボの連絡ってなんだ?」
まあ、こうして本物がでてきてくれたんなら話が早い。
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