第10話 攫われるルルル?
夜遅く、配信のための準備をパソコンでしているとだいたい寝巻きに着替えたルルルが目を擦りながら一緒に寝てくれとやってくるのだけれど。
『【酒飲み雑談】魔界復活のためにとりあえずこの世界で一番美味い酒を決めよう』
というタイトルのもと、巨石の中の部屋で酒を浴びるように飲みながら配信をする彼女の豪快な笑い声がモニターからではなく、その巨石から直接漏れて聞こえてきそうな夜だった。
一応この世界的にも二十歳を超えているルルルは酒を飲めるのだけれども、その見た目だから一人じゃ買えず、下僕である唯を使いっ走りにしてあらゆる種類の酒を堪能しているらしい。
「かーっ! やっぱり米! 米だ! ワインの方が口馴染みがあると思ってたけれど、ボクはこっちも気に入ったぞ!」
こてこてのロリボイス×酒飲み雑談は、これまた受けが良くて、色々リスナーにつっこまれながらも、酔えば酔うほど饒舌に、彼らを魅了していった。
かれこれもう四時間も酒飲みながら雑談してやがる。
私は酒が強い方じゃないから、配信で酔いすぎるとうっかり本名やら大学やらを行ってしまいそうで怖いから絶対にやらない。
そういう意味では羨ましいのだけれど。
そんな酒飲み配信をうるさいBGMにしながら黙々と手元の作業をすすめる。
あ、そういえば外に出るときにゴスロリの格好をするのはやめるように言っておこう。
コスプレだと思われる分には結構だけど、声も含めていろいろ厄介だ。
それにもし足がついたら私の身も危ないしね。
その辺は唯がうまくやってくれるだろうし大丈夫かな。すっかり自分の着せ替え人形のようにルルルを扱ってるし……。
「では今日はこの辺で失礼する! 今日もボクの配信にきてくれてありがとう! いつか魔界復活を成し遂げるために、共に今後も頑張ろうではないか! おーっ!!」
側から見れば酔ってもなおロールプレイを完遂するプロ意識の塊なのだろう。
ルルルの配信が切られたので配信画面の方にモニターを移す。
あれからまだ数週間。
登録者数は一万を超えていた。
ここまでくれば私や唯のバックアップなんてあってないようなものだろう。彼女は本物だ。
ま、私としては、また面白いVが増えてくれていちVファンとしては嬉し限りだけれども。
ちなみに我が家でもルルルはすっかり本当の妹のようになっていて、というよりお母さんがすっかりルルルを気にかけてやまないのだけれど、完全に生活に馴染んでいる。
庭の巨石も見慣れてしまった。
こいつのせいで時間帯によっては多少部屋に日光が入りにくくなるけれど、平日その時間はだいたい大学に行ってるので無問題。
ルルルも配信を始めてからは巨石の中で一人で寝ることも増えた。
ちょっと寂しいかも、なんて思ってみる。
「おっと、そろそろ配信の準備するかな。今日はゲームだから、これとこれを……」
あえてルルルとは配信の時間をずらしているのは、別にルルルのためなんかじゃない。
「ひっさびさだ、こうやってゲーム配信するの」
というかルルルのことが気になって、あまりちゃんと配信の準備や環境を整えることができなかったから、なんとなく雑談でお茶を濁していた感はある。
ただでさえ生活に一部にルルルが浸透してきているのだ。
せめてV活動くらいは私らしくやろう。
◇◇◇
さーて、じゃ、久々にゲームでもやりますかーという枠です! はい!
え? 大丈夫、耐久はしないよ、今日は!
いやいや明日朝から予定あるからさすがにできないって。
なにこれ、そんなむずいの?
え? ほんと?
なんかね、事前にネタバレない範囲で調べたらとりあえず一章と二章で二時間くらいで、そのあとは割と濃密っていう前情報が。
あってる? よかったぁ。
じゃあ二章クリアを目標に、とりあえずね。
なんかねー、このゲームは、えっと知らない人のために軽く触れとくね。
えっと、剣と魔法のRPG的なやつでね、”妹”が凶悪な魔王に攫われるのね、それで……
◇◇◇
ゲームチョイスミスった。
すごく今更の気付きだった。
『魔王の娘が攫われるの?』
『悲報、ルフレイア様攫われる』
『自分の親父に攫われる妹w』
『誘拐じゃなくて帰宅じゃん』
案の定、コメント欄にはルルルに触れたものばかりだった。
あまり自分の配信中にまでルルルの話をしたくはない。さっきV活動まで浸透されるわけにはいかない、と思ったところじゃないか!
なんとなーく、触れて、あとはさらっと流してゲーム進行していこう。
ネタバレ踏んだ限りだと二章で妹は戻ってきてあとは敵を攻略するだけらしいし、そこさえのりこえたら大丈夫。
「ああー、ほんとにね、魔王の娘のくせに魔王にさらわれてんじゃん! なんてね〜。さてさてそんなことより……」
ーーードゴンッ!!!!!!
「ボクが攫われるわけないだろーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
V人生二度目の放送事故だった。
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