第11話 放送事コラボ
『ルフレイア!?』
『妹きちゃ』
『え、ゲリラオフコラボ?』
『ガチ姉妹説』
騒然とするコメント欄をよそに、配信中突如部屋に突撃してきたルルル(酔いどれ)は焼酎の瓶を片手に持っている。
「ちょっと! ルルル! いま配信中で……」
「聞き捨てならんぞ! このボクが攫われるなどと! しかもお父様にだと? なぜだ! お父様がボクを騙るような真似するはずがないだろう!」
「だから、これはゲームでそういう設定で……」
「設定? おまえもボクのことを設定設定というのか! リスナー共もボクが魔王の娘だということをすぐに設定とぬかす!」
だめだこれは。この酔っ払い、まともに会話ができねえ。
「それになあ、Vを始めてからというもの、なぜかボクにも力がちょっとずつ戻ってきてるんだ。最初にこの世界にきた時よりわずかではあるけれど……」
「わかったから、とりあえず出てってくれないと……」
配信画面では私の魂が抜けたミカヅキの顔がぐにゃりと変な顔で止まっていた。
『ミカヅキ(17)の妹(20)』
『酔っ払い妹と真面目な姉の喧嘩だw』
『え、これ台本?』
『大丈夫かよ』
『ルルルって、ルフレイアのことか?』
配信画面を切り替えてマイクをオフにしたいのはやまやま、だけれどもルルルがふらふらと歩み寄ってきて、ゲーミングチェアから立ち上がった私に寄りかかってきてしまっている。
うわっ、さけくさっ。
じゃなくて、やばい。うっかりルルルが私の本名なりなんなりを言わないか……。
「お願いだから、ルルル、帰って! わかったから、このゲームやらないから」
「そうじゃない、だから魔力がわずかながらにも戻ってきていて、それはおそらくVの活動を始めたからなんだ!」
「……そうなの?」
「だってこの世界にきてから主にやったことといえばそれしかない。基本引きこもっていたからな」
「自動で回復しただけとか、は?」
「可能性はゼロではないが、V活動してから回復を実感したんだ。前者の方がありえる話だろう」
『なんか物語はじまったぞ』
『考察班はよ』
『ミツ姫は魔王のなんなんだ?』
『机破壊も台本だった?』
酔ってはいるけれど、妙に説得力のあるルルルの発言に思わずしっかりと聞く耳を持っていたけれども、突然鳴るバイブレーションで我に返る。
唯からメッセージが送られてきた。
「配信大丈夫? コメントなんか盛り上がってるよ」
盛り上がっているかどうかは知らないけれど、こっちはそれどころじゃないんですよ。
と、冷静に唯にツッコミを入れつつ、酔いどれルルルを押さえつける。
「わかったから、とりあえず部屋から出てってくれるかな? こっち配信中で……」
「おい、まだ話の途中だろうがっ! 押すなやめろって……、あれ、なんか、急に頭が……」
部屋から押し出そうとルルルと取っ組み合いになっていたところ、急にふらふらと踊るように回転しだすルルル。これが世に言う千鳥足か。
そしてそのまま……。
ばたんっ。
「あ……」
◇◇◇
えーっと、リスナーのみんなごめん。
あのー、ね。うん、まあ聞こえてたと思うけど、酔ったルルルが部屋に乱入……。
あ、ルルルってこの魔王の娘のことね。そっかみんなの前ではそんな呼び方してなかったもんね。
まあ、そう、同居? うーん、なんていうか同居というか居候というか遊びに来てるというか、うーん……。
とりあえず、いまルルルは酔いが限界点に達してあろうことかここで爆睡しだしたので、今日は急遽配信中止!
ごめん!
え? いびきが聞こえる?
それは彼女の威厳のためにも黙っててあげて……。
こいつを追い出して落ち着いたら深夜にもっかい枠とるかも!
またツブヤイッターで連絡するから!
◇◇◇
結局、ルルルを追い出すことは断念して、私は彼女を自分のベットへと寝かせた。
うーん、今日は床で寝るか……。
いや、明日休みだし徹夜でなんか作業しておくのもありだな。
ツブヤイッターで今日の配信なしの旨を改めて報告した流れで、VTuberルルルのことを調べてみた。
『期待の新人ルフレイア・ルーナ・キルッシュについて』
『ガチロールプレイ勢のV現る』
『ルフレイア・ルーナ・キルッシュの前世は? 素顔? リアル姉妹?』
『ロリ酒呑みVことルフレイア様について』
いろんな記事やスレで彼女のことが取り上げられている。新人個人Vとは思えない量だった。
どの記事でもしれっとミカヅキについても触れられているのである意味でいい宣伝になってるっちゃあなっているのだけれども。
魔力が復活してこのまま本当に魔界を再生させたら、ルルルはどうなるのだろう。
あっさりVもやめて、この家からも出ていくのかな。
もしかしてこの世界ごと魔界に染め上げたりしないだろうな……。
魔力がちょっと復活してきたっていう発言の真偽も気になるし、なんだろ、ルルルに関しては本当に最初っから悩まされてばっかりだ!
猛烈ないびきが再び耳に入る。
こんなどんくさいやつが本当に魔王の娘なのだろうか、という一旦は納得しかけたところさえも疑いたくなる。
ピロンッ
その時、一本のメッセージが入った。
唯かと思ったその送り主は、みたこともないアイコンの人物からで……。
「なになに、『コラボ配信のお誘いにつきまして』?」
私は配信上雛姫ミカヅキとしては明るく陽気な感じを演じているが、所詮インキャ大学生、コラボ配信なんてめったとしないのだけれども、こうやって先方から好意的に誘っていただけるのであれば喜んで、という感じだ。
「はじめて見る人だなぁ。なになに、プロフィールを見てみるか」
アイコンをタップする。
そこにはメイド服の女の子のイラストが描いてあった。
それもメイドカフェとかでみるミニスカ、ケモ耳のキャピキャピメイドではなく、ロングスカートの実にクラシカルなメイドさんであった。
「魔界のお給仕係……。ん? まかい?」
そして名前が……。
「ミファー・ラヴ・ライラック……」
え、ミファーって……。
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