第7話 雑談配信と隠し子騒動
あの日、あのあと。
家に帰ってインターネットのいろいろを教えてみたところ、それはそれはあっという間にのめり込んでしまった魔王の娘。
やはり二十年間屋敷から出ずに育たられた経験が活きたのか、私のお古のPCを巨石の中に持ち込んで一週間以上こもりっきりだ。
引きこもりの才能がルルルにはあったようだ。
そういえば唯も最近、突然イラストの案件が出来て忙しくなったとかで授業には出ているけどあまり姿を見かけなくなった。
ルルルがやってきてすぐの時は、一体これから私どうなっちゃうの〜、とか思ってたけど、案外変わらず平穏な毎日を送れている。
ふと窓の外を見ると、庭に刺さった巨石の一部がこちらをのぞいている。
「変わらず平穏……ではあるんだけどなあ」
ご近所さんからは立派なお庭ですねと褒められるこの巨石、いやルルルはどんな意識改変の魔法かけたんだよ。
「おっと、さてさて、そろそろ配信のじかんだ。んん゛、あーあー」
声を整えて、私は配信の準備に入る。
あれ以来、相変わらず机破壊の人なんて言われることもあるけれど、固定のリスナーさんたちはこれまで通りの私の配信を楽しみにしてくれている。ありがたや。
待機画面のコメントをしばらく眺めてみた。
『待機〜』
『リアタイ間に合った!』
『雑談たのしみ』
『仕事終わりの雑談枠たすかる』
『机待機』
『夜勤なのでアーカイブでみます〜』
うん、気になる文字があったけれど、いつも通り。
「って、ん?」
ひとつだけ、そんなものよりもっと気になるコメントを見つけてしまった。
『妹ちゃん可愛い』
い、いもうと?
なんだこのコメント、コメントする配信間違えてるんじゃないかな?
っと、もう時間だ、BGMよし、マイクよし、話す内容のメモ、よし!
「みなさま〜! 昨日ぶりで〜す! 本当はゲームしようと思ったのに、コードの接触が悪くてやむを得ず例によっていつも通りの雑談枠、こんばんわ雛姫ミカヅキで〜〜す!」
◇◇◇
というわけで、じゃあ次は、『#たすけてミツ姫』のコーナー! このコーナーでは、ハッシュタグたすけてミツ姫に投稿されたお悩み、相談、不平、不満、文句、恨みつらみを私がまるっと解決するという、まあ、あれですね、お馴染みの、ええ、やつです。
さっきのコーナーでも触れたけど、あのね、このハッシュタグでASMR配信してくださいっておくらないでw
わかってるからw やるやる!
ちがうのよ、あのね、ほら、机破壊したときに専用マイクにちょっと支障が、みたいな?
準備が面倒でやりたくないとか、だるいからとか、そんなんじゃないからね!
だみだ、信じてくれないコメント欄……。
はいはい、それはさておき……、いや、本当にやるよ? やるけど今はこっちね。
というわけでハッシュタグ付きで投稿されたものがこちらですどーん!
画面映ってるかな、よし。
あのね、最近忙しくて中身ろくに読んでない状態で映してるから、やばいのが映ってたらこう、隠さないといけないから、教えてね!
さて、じゃあランダムに〜〜〜、これ!
ん、なにこれ。
『妹さん、めっちゃ可愛いですね、共演楽しみです!』?
え、なに妹?
◇◇◇
さっきも待機画面で見たコメントだ。
私は一人っ子。いや、違う。この場合の妹とは、そう、同じVの配信者のことを指すに違いない。
親が一緒、つまり、いっそまん先生こと唯が新たにVTuberの立ち絵を担当したということだ。
それにしても、あんなに新しい仕事が入るたびにウッキウキで私に報告と相談をしていた唯が、私に黙って、しかもVの立ち絵を?
ツブヤイッターでもそんなこと言ってなかった気が……。
私が言葉に詰まっていると、こんなコメントが流れてきた。
『@いっそまん ミカヅキちゃん……実は、妹ができたのよ(バブー』
は?
「は? ママ?」
『いっそまんママもようみとる』
『ママいたw』
『隠し子発覚w』
『いっそまんママから衝撃の告白』
◇◇◇
はああああ!?
え、なに、ママ知らないんだけど!?
いや、『ごめんね〜w』じゃなくて!
うそ、妹できたの?
いつから?
……今朝告知? 今朝は寝て……げふんげふん、お花に水をやってたからネットに触れてないのよ!
で、いつデビューなのかしら、その子?
え、なに今の言い方、意地悪な継母みたいって? はいきみブロックね。
うそうそ。
え、明後日? ええまじで?
配信終わってからチャンネルとツブヤイッター見に行ってみよっと……
◇◇◇
それから。話題はなんとか次に移って、コメント欄も妹ショックの弊害を受けることなく、恙き信仰を経て三時間たっぷりの雑談配信は幕を閉じた。
雛姫ミカヅキから月子に戻った私は配信後すぐに唯にメッセージを送った。
一体どういうこと!? 初耳すぎるんですけど!
返事はすぐに来た。
言葉ではなく、そこにはひとつのリンクが貼られている。
「…なんだ、これ」
見ず知らずの人からリンクだけポンと送られてきたら警戒すべきだろうけれども、相手は唯だ。
多少、幼女大好きの変態であっても、まあ、そんな変なことはしないだろう。
という信用の元、私は何も考えずにリンクを開いた。
リンク先は私も配信も行っている動画サイトのとあるページだった。
ん? これは、まだ先の配信の待機画面じゃないか。
えーっと、配信予定日は、明後日?
もしかして、例の妹の?
『【初配信】魔王の娘が暗黒世界復活のためにVTuberはじめてみました!【ルフレイア・ルーナ・キルッシュ】』
長らくその名の方で認識していなかったけれども……。
「ルルル!!!!!??????!!!!!????」
何が目の前の画面に移っているか冷静によくみてみよう。
まず、ルルルの本名と全く同じ名前のライバーがここに出現している。
偶然か?
否、このライバーの立ち絵、どうみてもあのゴスロリドレスのルルルそのまんまじゃないの!
え、それ絵にする意味ある? 本人となんら違わないんだけど……?
そして彼女の公式ツブヤイッターへとリンクを飛べば……
『ボクは暗黒世界=魔界の崩壊からこの世界に逃れてきた魔王の娘。故郷を取り戻すべく、その情報を得るためにまずは配信活動をしてみようと思う!
ママ→いっそまんママ 姉→雛姫ミカヅキ姉様』
……そのまんまルルルの設定だった。
私は混乱状態で部屋を飛び出して、庭の巨石へと駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます