第18話 大会
「と、いう感じで私らは夏をしっかり満喫したわけだけども……」
「なにが満喫だミカヅキ! お前は暑いからって結局海の家とパラソルの下を行ったり来たりだったじゃないか!」
「ルルル様……といっそまん様がはしゃぎすぎなだけでは?」
「ミファー! お前もボクの世話係としてもっと一緒に遊んでくれないと嫌なのだ!」
『爆乳で海辺を走るルルル、眼福』
「おいいっそまん! 貴様コメントでもそんな変態っぷりを披露するな!」
◇
私とルルル、ミファーの三人コラボ配信は私史上でもかなりトップクラスの同時接続を記録した。
私のチャンネルでのみやった結果、二人のリスナーがごっそりやってきたためだろう。
待ってましたと言わんばかりのコメントに紛れて、いわゆるアンチのDMやコメントも見かけた。
ミファーからあんなことを聞かされたせいだろうか、いつもなら気にならないそれも、ちょっと心にくるものがあった。
「さ、もう時間も時間だし、ボクははやくあの海の家の近くで買ってきた酒を飲みたいから配信をそろそろ終わろうかと思うのだが、二人とも、何か宣伝あるか?」
ルルルはすっかりこなれた様子で場を回している。
魔王よりもうこっちの方が向いてるんじゃないか?
「では僭越ながら……。先日バイノーラルボイスを発売しまして、大変好評いただいております」
「ミファーのえっちな声か?」
「えっちなものではないです。ゆりかごから墓場まで楽しめます」
なにか魔族の力を使った変なボイスじゃないだろうな。
しかしミファーはこうやって魔力をこの世界で回収しているということか。
彼女はいま一体どれほどの力を持っているのだろう。
一度見てみたい気もするが、みたら最後、私が塵になりそうだ。
「ではミカヅキ、なんかあるか?」
ルルルが私に話を振ってきた。
「あー、そうだ。こんどレジェンズフォールの大会に出ようと思ってて……」
「れじぇんず?」
「ルルルはゲーム詳しくないから知らないかもだけど、何ヶ月か前に正式リリースされたFPSゲーで、私も何回か配信でやったんだけど実はこの前告知された大会に誘われてて……」
「ああ、あの銃やら爆弾やらで戦うやつか。あんなの、ボクが直接戦った方が強いにきまってる!」
「そういう話じゃないんだけど……」
「大会に出たら何かいいことがあるんですか? ミカヅキ様」
「いや、単純に世界で注目されてるゲームだから、お誘いうけたこと自体光栄なんだよ」
「……注目?」
ルルルが声を低くして復唱した。
「まあ、まだチームメイトも集めてないけどね。あれ最大三人パーティー組めるからさ」
「……三人?」
ルルルが画面越しにおそらく立ち上がったのだろう。
バンという音を立てて、彼女はこう宣言した。
「チーム・ルルル! そのレジェンドなんちゃらに参加するぞ!!!」
「え?」
「承知しました、ルルル様」
「ええ?」
ええええええええええええ!?
◇◇◇
後日、レジェンズフォール、通称RFの運営からぜひルルルとミファーとチームを組んで参加して欲しいというDMが届いた。
まさかあの配信をみられていたとは。
なんやかんやでFPSのうまい他のゲーマー仲間に声をかけてルルルたちのことはやんわりと流すつもりでいたが、そういうわけにもいかなくなってしまった。
そもそも……。
「FPSの経験は?」
「ない」
「ございません」
「ゲームの自信は?」
「答えるまでもない」
「テトリスなら」
だめだこの二人。
通話越しになぜか自信満々なルルルと、相変わらず何を考えているかわからないミファーと打ち合わせをしていた。
打ち合わせといっても、どうにかして辞退するように二人を説得したかっただけなのだが、そういうわけにもいかず。
観念した私は二人にFPSのいろはの”い”から教える羽目になった。
すると、通話中にミファーから個人メッセージが届く。
『こちらご覧ください』
貼り付けられたリンクを開くと、そこに出てきたのはとあるまとめサイト。
エゴサをしていたら毎度なんとなくたどり着くそこには……。
「ルルルなにしに大会出んの?」
「さすがにFPS舐めすぎ」
「人気あるから運営がゴリ押したんじゃね」
「ミツ姫のバーター」
「ミファーはまだゲームセンスあるだろ、テトリスしか知らんけど」
「さすがにでしゃばりすぎてうざい」
うわあ……。
稀に見る酷さだった。
少数派の声が目立つというのがネットの世界だけれども、赤の他人(一応姉だが)の私の心にもそうとうダメージが入る。
『ルルル様の力がますます戻っていると思います』
『どのくらい?』
『人間を一人くらいなら軽く……』
例えが本当に魔族だな。
なんて思っているとルルルの声に引き戻された。
「おい、聞いてるのか月子」
「ああ、ごめんごめん。で、なんだっけ?」
「だから、野良相手の練習はキリがない。さっさと大会レベルの相手で練習したいんだ」
「ああ、そんな話だっけ」
まあ、世間がなんて言おうが、当の本人はこうして積極的なんだから私は黙っておくか。
魔力が戻ってなにか害が発生するなら、その時は……。
ミファーがなんとかしてくれるかな。
そんな私の思いが通話越しに漏れたのか、ミファーからこんなメッセージが帰ってきた。
『わたしは見届けるだけですから』
やれやれ……。
◇◇◇
基本的な操作と数回の野良練習を挟んだのち、私はツブヤイッターでV仲間たちに練習相手を募った。
RFは最大三人がひとつのチームとなって最大12チームによるバトルロイヤル形式のゲームである。
野良のレベルはピンキリで、私一人でも正直勝ててしまうからルルルのお眼鏡には叶わなかったようで、現在に至るのだ。
すると、一人のストリーマーから参加しますとの返事があった。
どうやら向こうも三人チームで大会への参加をすでに決めているらしく、こりゃ実践に向けたいい機会だと思いながら承諾した。
「というわけで、この三人のチームと一緒にマッチに参加するから」
「つまり12チームのうち、1チームはこいつらというわけだな?」
「なるほど。ではその1チームと遭遇すれば相当な練習になるというわけですね」
「そ、リーダーの”がぶこ”さんはプロゲーマーレベルのストリーマーさんだから、相当手強いよ?」
「ふん、最近やけに魔力が戻ってきているボクに敵わない相手じゃないね」
魔力の回復はルルルもやはり自覚しているようだった。
それだけ急速にアンチが増えているということなのだが。
「で、残りの二人は、同じくストリーマーのEDOMARUさんと……誰だろ。VTuberのシエナ・クレイシアルさんだって」
「どんなやつだろうが、ボクの前に平伏させてやる!」
「……シエナ?」
意気込むルルルとは打って変わって、妙に考え込むようなセリフをつぶやいたミファーであった。
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