第17話 大きな収穫
出る杭は打たれる。
私も現実でもバーチャルでも両方で味わったことがある。
小学生の頃、クラスで一番の成績を取ったら嫌がらせを受けたことがある。
私以外の子でも、可愛い女の子の転校生がいじめられたのをみたことがある。
その程度でも、当人の心には意外とくるものがあるのだ。
Vになってからはより一層。
エゴサでたまに引っかかる私、雛姫ミカヅキに対する否定的な意見、あるいは暴言にちかいそれ。
匿名サイトで書かれる誹謗中傷。
私の場合個人でやってるだけなのだから、その矛先は全て私に向くのだ。
もう今となっては、可愛らしいものだなと思ってだいたい軽く流せるようにはなったけれど、それでも心にくる発言ていうものは稀にある。
さて、話をルルルに当てはめてみよう。
私という存在に初っ端から乗っかるような先方かつ、独特で癖の強い設定(設定ではないが)、好き嫌いははっきりするだろう。
そんなやつがぐんぐんと登録者を伸ばしていくのだ。
よく思わない連中も間違いなくいる。
「月子様のほうにも、そういったものを思わせることがあるでしょう?」
あった。
私個人が解放しているDMで「ルフレイアとコラボしないで」という内容のものもあった。
逆にルルルの元にも私とコラボするなというメッセージがいってるらしいが当の本人は「愚かな人間どもめ、貴様らに指図される筋合いはない」とばっさりである。
下手に炎上するのはさけたいから、そういうのはスルーしようと私も唯もしっかりと教育したおかげか、あるいはもともと魔王の娘としての器か、彼女は全く気にしていないようだった。
私自身アンチに慣れているからスルーしていたけれど、そういうことか。
「そういうことね。ありがとうミファー」
「なぜ感謝されるのです? 月子様が見抜いたのでしょう、負の感情こそルルル様の魔力の源であると」
そういうことにしておいた方がよさそうだ。
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「ところで、ミファーもすっかりルルルって呼ぶようになったね」
「その方が効率がいいと思いましたので。ルルル様も馴染んでおられますし」
「馴染んでる、ね」
「どうかされましたか?」
「私は、ルルルとミファーが暗黒世界を復活させるとかどうとか、ぶっちゃけどうでもいいかな。いまはこの世界にいて、馴染んで、楽しくやってるでしょ? それを私や唯は受け入れてるし、それに多くのリスナーも受け入れてくれてる」
「……」
「それでいいかなって。ま、もしルルルが大炎上してその負の感情を一気に受けでもしたら、暗黒世界復活させて帰っちゃうのかな? なんちゃって」
「なるほど、その手が」
「だめだめだめ! 炎上させないでよ! 私にまで飛び火しそうじゃん!」
「そうですか……」
この女、本当にやりかねない。
「それにしてもVTuberというのは本当におもしろいですね」
「そう?」
「私たち以外にも、”本物”が混じっているのですから」
……。
え?
「おーい!! 月子!! 月子も焼きそば食べるかー?」
「え、あ、食べるー!」
「ならこっちに来いー! 唯が奢ってくれるらしいぞー!」
「わ、わかったー!」
ミファーの妙な発言が耳に残ったけど、ひとまず今日は海を楽しもう。泳がないけど。
ルルルは海の家の主人におまけして大盛りにしてもらった焼きそばを満足げに食べていた。
片手にはビールジョッキを持っている。
「そのなりでよくビール買えたね?」
「いや、年齢確認とやらをされたぞ。まったくボクを子供扱いして……」
「ね、年確!? どうやって突破したの!?」
「ん? ああ、この前ミファーがこれをくれたんだよ」
渡されたものを手に取ってみると……。
「原付の免許……?」
「なんでも肌身離さず持っておけっていうから、こういうことだったのかと。さすがミファーだ!」
偽造じゃないか……。
魔族なんでもありだな!
「ねえ月子、そのミファーちゃんは?」
「や、さっきまでパラソルのとこで一緒に話してたんだけど……。てか唯もなにそのかき氷の量……」
「おまけしてもらっちゃった♪」
ずいぶん気前のいい海の家の店主である。
「じゃ、私も焼きそば買ってこようかね」
「はい、じゃあこれお金ね、でかいイラストの案件の振り込みがあったから今日は奢ってあげる!」
「さっすが唯、頼りになるわ〜」
なお、私はなぜかおまけしてもらえなかったことは、悔しくて誰にも言えなかった。
◇◇◇
ええ、少しずつですが確実に。
こちらで協力者も手配できましたし……。
そうですね、最初は脅威になるようなら排除しようかとも思いましたが……。
”いい人”でしたね、ふふっ。
これは大きな収穫です。
大丈夫です。
ルルル様……おっと失礼。
ルフレイアお嬢様はご自身の力でしっかりと魔力を集められるかと。
ご心配には及びません。
ああ、彼女ですか?
彼女もこちらに?
その場合お嬢様とは接触しないように気をつけなければいけませんね。
計画がルフレイアお嬢様にバレてしまいます。
ええ、はい。
承知しました、大魔王様……。
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