第20話 だれの仇

「貴様がボクの父上を、暗黒世界を滅ぼした張本人だなっ!!!!!!」


 ルルルのそのセリフに言葉を失った。


 コメント欄では「は?」「お?」「なんかはじまったぞ」とざわざわしているが、ルルルのキャラが創作ではないことを知っている私にとって、彼女のその発言はかなり衝撃の発言だった。


「ルルル? 何を言って……」


「ミカヅキ。言っただろ、あの日暗黒世界を謎の女騎士によって滅ぼされたと……。その時にそいつもクイーンナイト・ハーツセイバーとかダサい技で父上に斬りかかって行ったのだ」


「そんな、いくらなんでも偶然だって! この世界にその人が来てるなんて……。そのダサい技名もたまたま被っただけとか」


「あんなダサいセンスの女騎士が二人もいてたまるか!」


 

 私とルルルの言い合いに、しばらく黙っていたシエナがようやく口を開いた。


「その……あの……あんまりダサいダサいって言わないでもらえると……」


 それは失礼。


「ルルル様はもしかして、本当にあの魔王様のお嬢様なのですか……?」


 声が震えていた。


 とても魔王を滅ぼした英雄の声には思えなかった。


「待って、ルルル。シエナさんが本当にその女騎士だったとして、ルルルの名前を知らないのはなぜ? それにシエナさんの話も本当なら、魔王のお抱え騎士団にいたんでしょ? お互い面識がないのも変だよ?」


 答えたのはルルルだった。


「ボクはその存在は知られていても、名前や風貌まで知っているのは父上とミファーだけ。逆もそうだ。ボクは騎士団の存在は知っているけどそいつらの顔や名前までは知らない」


「わ、私も、ルルル様というお名前だったとは。それにその姿を間接的にもみたことがなかったもので……」


 私たちのゲームの手は完全に止まっていた。


 だがリスナーたちは急に動き出したルルルのストーリーに釘つけのようである。


 よかった、まだエンタメとして成り立っている。


「ここであったがなんとやら! ボクの父上を殺め、ボクの世界を滅ぼしたその報い、受けてもらうぞ!!!」


 そう言ってルルルはシエナに向かって銃を乱射した……もちろんゲーム内の話である。


「や、やめてください! ルルル殿っ!」


「きさまにルルル様などと呼ばれる筋合いなどないっ! 父上の元で騎士団として働きながら叛逆を起こすとは許されない行為! 貴様の独断か!? それとも裏で雇い主がいるのか!?」


 逃げるシエナを全力で追いかけながら銃を打ち続けるルルル。


 もちろんゲーム内の話である。


 ちなみにこのゲーム、フレンドリーファイアが適応されているので、シエナの体力がみるみる減っていた。


「シエナさん! これ使って!」


 私はいてもたってもいられず、持っている回復キットをシエナに渡した。


「ありがとうございます、ミカヅキ殿」


「おい! ミカヅキ! 貴様その裏切り者の味方をするのかっ!!!」


「あのね、ゲーム内で痴話喧嘩しないで。いまはチームなんだし……」


「チームもなにもあるか! こいつは敵なんだ! ボクの父上を……ボクの世界を……よくもっ!!!」


 そう叫ぶとルルルは回復キットをまだ使用しきっていないシエナに向かって近接攻撃を仕掛けに行った。


 おそらく弾切れになったのだろう。


 しかし、いまのシエナの体力であれば近接攻撃でも十分倒せるだろう。


「覚悟っ!!! 父の仇っ!!!」


「ひっ……!」




 しかし、ルルルのトドメはシエナには届かなかった。



「……こいつはもしや……」


 声を震わせるルルル。


 ゲーム画面には、ルルルの攻撃からシエナを守るようにして一体のアバターが立ち塞がっていた。


 その正体は……。


「ミファー……」



 別チームのため通話はしていないが、ミファーはどこから現れたのかシエナを守るようにして立っていた。


 よかった、ルルルを止めにきてくれた!


 という思うよりも先に、私もルルルと同じことを思ってしまった。



「な、なぜ貴様がこの裏切り者を庇うのだ!」



 もちろん、その声はミファーに今は届かない。



「答えろっ! ミファー!」



 返事の代わりにルルルはミファーから大量の弾丸を浴びせられた。



「なっ! 死んでしまったでじゃないかっ!」


「ルルルっ、いま復活キットを……って、うわああああ!」


 ミファーの銃口は続いて私に火を吹いた。


「ルルル殿! ミカヅキ殿っ!」


 そうして回復する手を途中で止めたシエナも、ミファーの弾丸に倒れたのだった。







「なぜだ! なぜミファーがボクに!」


「ルルル、落ち着いてって、これどういうゲームだから……」


「落ち着けるものか! ボクにとっての仇はミファーにとっても仇なんだぞ!」


 ルルルの発言はもっともである。


 ミファーはルルルの従者である以前に、暗黒世界の住人だったのだ。


 しかし、これはゲーム。


 ミファーの行動を理解できない者などルルル以外に一人もいない。


 そしてすっかり存在を忘れていたリスナーもそれは同様である。


 いまのところ、ルルルが勝手に設定を引っ張って暴走しているようにしか見えないのだ。


 一見、ルルルの寸劇に我々が巻き込まれた、というような構図に見えてもおかしくない。



 そんな中で、私が目にしたひとつのコメントがこびりつくかのように、はっきりと見えた。




『仮にも公式大会の練習だろ、何やってんの?』



 嫌な予感がした。

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魔王の娘が暗黒世界復興のためにVTuberをはじめてみました! 小町さかい @sakai_kidult

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