エルフの弓と魔女の銃
氷泉白夢
少女は木々から旅に出る
村が燃えた日
アルティ村は平和な村だった。
国のはずれにあるとても小さな村だったが自然は豊か。
特に何か娯楽があるわけでもないが畑はあるし川もあるので自給自足でなんとか生きていける慎ましい村である。
周辺の動物もあまり狂暴ではなく、のんびりと生きていくにはとても良い村だった。
その村の少女、ルリは巨木の丘からその村を見ていた。
この丘は木の実がよく取れて村も見えるルリのお気に入りの場所だった。
木の実やキノコを採って少しだけ木の下で眠って薄暗くなって、明かりがともった夜の姿の村を見てから帰るのがルリの日課だった。
今、その村は赤々と燃えていた。
ルリは木の実の入ったカゴを持ったまま慌てて村へと帰る。
どうしてこんなことになったのだろう。
自分が眠っている間に何が。
とにかくルリは走った。
途中で雨が降ってきて地面がぬかるみ、何度か転んだがそれでも走った。
普段はのんびり歩くだけでいつの間にか帰ってきているはずの道が、こんなにも長く感じる。
ルリが村に戻ってきた頃には、もうすでに何もかもがなくなっていた。
「なんで……?」
ルリは焼け落ちた村をよろよろとした足取りで歩く。
雨が降ったとはいえ、まだ村はあちこちが燃えていた。
自分の家の方面へ歩いていくだけで、何人も事切れているのがわかってしまう。
『ルリ、今日も丘へ昼寝しにいくの?またお母さんに怒られるわよ!』
『今日もいいキノコや木の実を頼むぜ!こっちも魚たくさん釣ってくるからよ!』
『む、ルリか。危険な動物は私が倒してきた、安心していってこい』
道を歩くたびに自然と頭に会話が思い起こされる。
倒れた見張り塔、肉と魚が焦げて混ざり合った匂い、蹴飛ばした見覚えのある髪飾り。
ルリは見るのも考えるのもやめて、ひたすらに家に向かって走った。
せめて、きっと、家だけは無事なはずだ。
なんの根拠もないが、そう信じてただ走った。
息を切らして、ルリは立ち止まる。
家。いや、家のあった場所にルリはただ、立ち尽くす。
「ああ……ああ……」
ルリは事切れた者が誰なのかを確認する。
そしてずぶ濡れで泥だらけの身体でただ力なくうずくまった。
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