エルフのルリと魔女のタマキ
かつて魔女と呼ばれたその女性は多くの魔道具……今は魔女の遺産と呼ばれているそれを作り出し、人間に魔法をもたらした。
しかし、彼女が一から魔法を作り出したのかというとそうではない。
魔女が魔道具を作る際に参考にしたとされる、本物の魔法を唯一扱える存在。
それがエルフ。
かつては人間と共に生きていたとされているが、いつの頃からかエルフは歴史の舞台から姿を消し始めた。
理由は今でもわかっていない。
だがひとつだけ確かなのは、エルフはもうすでにこの世界に存在しない種族となっていたということだった。
そのはずだった。
「……これ以上みんなが喧嘩を続けるなら、わた、私だって……や、やりますよ!」
ルリの口から出てきたのはあまりに覇気のない発言だったが、それとは裏腹に大きな力が彼女に渦巻いているのが感覚で理解できる。
ルリが手に持つ矢は独特な光りを放つ。
それは先程銃弾をさらっていった光と同じ色であった。
「でも、エルフはもう存在しないはずでは……?」
「あの耳、そしてただの弓を使って魔法を使うなんてエルフじゃなきゃできない芸当だろ」
メルディアの呟きに魔女がそう答える。
エルフは殆ど人と見分けがつかない。
唯一の違いはその尖った耳である。
ルリの耳はあまり長くはなく、小さく先端がとがっているだけのため、よく見ないとその違いはわからない。
さらにルリは普段はそれを髪の毛で隠していた。
「あんたらだってわかってるはずだ。魔女の遺産はその殆どが金属で作られている。人間が魔力を扱うには金属を利用するしかないからだ。だがエルフにはそんな枷は存在しない。ただの木の矢に魔法を込められるってこと自体が、エルフの証拠なんだ」
「……え、ええとその」
ルリはしおしおと弓と矢を降ろし、ふにゃりと笑いながら髪の毛をいじる。
「なんかその、そういう風に説明されるの、恥ずかしいっていうか……」
「では……ルリ様はやはり本物のエルフ、なのですか?」
アルトがそう問うとルリは頷いた。
「その、本当は秘密にしておかなきゃいけなかったんだけど……ふたりが喧嘩してるの、嫌だったから……それに魔女さんが危ないことしようとして、止めるには魔法使うしかないかなって……」
メルディアは気まずそうに魔女を見る。
魔女は軽くため息をついた。
「切り札も無駄にしちゃったからね、今のあたしにはもう戦う手段もない。でも
「強情ですこと……でもそうですわね。ルリさんが止めてくれなかったらわたくし達もただでは済まなかった以上、ここはルリさんの勝ちとする他ないでしょうね」
実際のところ、魔女もメルディア達も今の状況でルリに勝てる気がしなかったのだ。
故にお互いに矛を収めるしかないのである。
魔女の方は、銃さえ手元にあれば決して負けないと心の中でひっそり思っていたが。
「はあ、よかった……それじゃあ、みんな仲直りだね!」
魔女とメルディアは複雑そうな顔をしながらもお互いに距離を取る。
ソプラノとアルトはメルディアの後方に移動しメルディアの服や髪の乱れを慣れた手つきで直していく。
そんな中ルリは手のひらをパンと叩き、思い出したかのように魔女に呼びかけた。
「そうだ魔女さん!名前聞いてもいい?ずっと魔女さんって呼んでるのなんか変だもんね!」
「ふふふ、魔女様は私たちには負けてませんけどぉ、ルリ様には敗北したということですもんねぇ。答えなきゃいけませんよねぇ」
「……チッ」
あてつけのように言うソプラノに魔女は舌打ちをした。
苦々しい顔をしたまま、魔女は答える。
「タマキ。タマキ・リムーディ、これで満足?」
「じゃあタマキさん!私とお友達になろう!」
「……はあ?」
「うん、そうだよ!私、魔女さんと友達になりたいなーって思ったから、ここまで来たんだもん!いいよね!」
「いいよねって、いや……」
魔女・タマキが虚をつかれている間に、ルリはタマキの手をとって微笑みかける。
この展開にはメルディア達も目を丸くし、成り行きを見守るしかなかったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます