エルフの弓と魔女の銃
「……あんたたち、知り合い?まさか連れてきた?」
魔女はルリに再び銃を向けた。
ルリが慌てて口を開く前にメルディアが声高に宣言する。
「おやめなさい!そちらの方は無関係!わたくしたちはこの秘密兵器、人避け探知マシーン三号でこの場所を発見いたしましたのよ!」
そういうメルディアの手には小さくて不思議な謎の装置が握られている。
ルリにはそれがなんなのか全くわからなかったが、おそらくその人避け探知マシーン三号とやらなのだろう。
「人避けの魔法は独特のパターンが出てますのでぇ、それを探知する装置を作りましたぁー」
「音をつけたのは失敗だったねソプラノ。この失敗は四号に繋げよう」
口々にソプラノとアルトもそう口を出す。
魔女は舌打ちしていらだった様子でメルディア達を見据える。
「で、あんたたちは迷子ってわけじゃないよね」
「当然ですわ。メルディア・フォン・コールディアの名にかけて、危険な魔女を退治しにきました」
メルディアはそう言って巨大な筒を魔女に向ける。
銃に似ているようだがそれは非常に大きく、メルディアは肩に担ぐように構えていた。
「そしてこれこそがわたくし達の秘密兵器その2!魔法の力を扱わずとも高い威力を発揮する巨大銃!その名もメガ・フォン!大人しくルリさんを解放して、降参したほうがよろしくてよ!」
ソプラノとアルトも続いて同じようなそれを担ぎ、魔女に向ける。
ルリはあわわと言いながらうろたえていたが、魔女はためいきをつく。
「逆でしょ。わざわざそれだけ大きくしないと魔法の力に勝てないことがよくわかってるんじゃないか。あと別にこいつ人質にしてるとかじゃないから、むしろさっさと連れて帰ってよ」
「え、魔女さん!私もうちょっと魔女さんとお話したいんだけど!」
「あたしから話すことはない!っていうか、あんた状況理解してる!?邪魔だからあっちへ行ってろ!!」
魔女は調子が狂った様子でルリを怒鳴りつけて突き飛ばした。
ルリは慌てて立ち上がって魔女とメルディアから距離を取る。
そして魔女は改めてメルディア達に銃を向けて宣言する。
「そして降参する気もない。あんたらどうせ魔女の遺産が目当てだろ?やめときなよ、魔女の遺産は人間には過ぎたものだ」
「確かにそうですわね、ですから魔女に持たせておくのは危険ということです。人の手で正しく管理させられるべきですわ」
「は、正しく管理ねえ。そういって暴走させて手に負えなくなってる遺産がいくつあると思ってるんだ」
ルリには二人が何を言っているのかわからなかったが、魔女もメルディアも一歩も引く気がないということだけはわかった。
そして話は平行線であり、いつ戦いになってもおかしくないであろうことも。
「魔女が暴走させた遺産もいくつもあるでしょう?"七人の魔女"が世界を危機に陥れて以来、その名を名乗る事自体が危険であるということくらいわかっているでしょう!」
「……!……あれと一緒にするな!!」
「何が違うというのですか!所詮あなたも魔女の遺産がなければ魔法などつかえないただの人間でしょう!?わざわざ魔女を名乗り遺産を隠し持って、何をたくらんでいるのですか!!」
――嫌だった。
「……あたしが殺す」
「なんですって?」
「"七人の魔女"はあたしが殺してやるよ。そのためにあたしは魔女になったんだ。その邪魔は誰にもさせない。邪魔するなら、容赦しない」
「……どうやら、やはり放置してはおけないようですわね!」
――二人が争うのが、嫌だった。
「ソプラノ、アルト!撃ちますわよ!ルリさんに当たらないように!」
「りょうかぁい!」
「承知!」
――まるで滅びゆくアルティ村を近くで見ているようで。
「術式、サンダーボルト」
魔女の銃から鋭い音と共に雷が走った。
雷は何度も直角に曲がりながらソプラノの持った
「あ、あら、あらあらぁ」
ソプラノは慌ててメガ・フォンを放り投げるとボンと音がしてメガ・フォンは煙を吹いて内側から破裂した。
「所詮火薬で鉄の弾を飛ばすだけのただのおもちゃ。そんなものが魔女相手に役に立つと思うな」
「なるほど、魔女を名乗るだけはありますが……でも、二発同時ならば耐えられますか!?」
メルディアとアルトは同時にメガ・フォンを放つ。
しかし魔女は動じず、今度は銃を地面に向けて魔法を放った。
「術式、ガードクエイク」
銃から放たれた魔力が地面を隆起させ巨大な土壁を作り出す。
メガ・フォンから放たれたその塊は土壁に阻まれ止まっていた。
「くっ……」
「役に立つと思うな、と言っただろ。遊びは終わりにしようじゃないか」
「……そうですわね、遊びは終わり、ですわ」
「何?」
その次の瞬間、不意に魔女の横にソプラノが現れる。
魔女は咄嗟に銃を向けるが、遅かった。
ソプラノは魔女の持った銃をそのまま蹴り飛ばした。
銃は何もない草の上へぽすりと落ちた。
「しまっ……」
「ふふふ……もともとメガ・フォンは囮でわたしが近づく予定でしたけどぉ……そちらから壁を出してくれたおかげで簡単に来れちゃいましたぁ」
「……」
「他の遺産は持ってませんかぁ?持ってても使わせませんけどぉ」
ソプラノに腕を掴まれた魔女は悔しそうな顔をして睨みつける。
メルディアは勝ち誇り、今度は細長い剣を取り出し、アルトと共に魔女を囲んだ。
「何も命までは取りませんわ。大人しく持っている遺産を全て渡しなさい」
「お断り」
「差し出がましいようですが、この状況でもはや魔女様に勝ち目はないかと」
そういうアルトは槍を構え、魔女に向ける。
魔女は俯いていたかと思うと、にやりと笑った。
「……!?」
「魔女をなめるな。当然いざという時の切り札くらいある」
そういうと魔女は口からべっと舌を出す。
その上には魔法に使う小さな弾が置いてあった。
魔女はそれを再び口に含み上空に向かって吐き出した。
「銃で撃つよりかは威力は落ちるけど、これだけでも起動させることは出来る。爆発の魔法入りだ」
「な……この状況でそんなもの発動したらあなただって……」
「当然ただじゃ済まない。でもあたしは死なない」
「……!」
「復讐を果たすまで、あたしは絶対に死なない」
「あなた……!」
「術式、エクスプロード」
吐き出された弾が光り輝く。
魔女は衝撃に備えて体に力を入れる。
死ぬわけにも屈するわけにもいかない。
魔女となった時からそう決めたのだ。
この復讐を果たすまでは何があっても生き延びてやる。
「……させない!!」
声が聞こえた次の瞬間。
弾に向かって一筋の光が走っていった。
光は弾を一瞬でさらっていった。
「……は……?」
遠くで、弾が爆発した音が聞こえた。
魔女もメルディアもソプラノもアルトも、爆発が起こるはずだった虚空を見つめて固まっていた。
何が起きた?
魔女は、光が流れてきたと思われる方向を見た。
そこには、弓を構えた……いや、弓を放ち終えたルリが立っていた。
その黒い目はほんのりと青色に光り、長い黒髪が風によって流れるようになびいていた。
その時見えたルリの耳を見た魔女は、目を見張った。
「その尖った耳は……!」
ルリは深く深呼吸して目を閉じ、かつての長老の言葉を思い出す。
『そうじゃ、もうひとつ気を付けるべきことがある。それは決して外で魔法を使ってはならんぞ』
「……ごめんなさい、長老。でも……このまま見ているなんてできないよ……みんな、戦うのをやめて。お願い」
ルリは矢を取り出し、弓を構える。
その矢に魔力が集い光り輝いていく。
「あれは……魔法?でも、そんな……だって……遺産もないのに……」
遅れてルリのことに気付いたメルディアがそう呟いた。
魔女は、おそらく自分でも信じられなかったのだろう。
考えを整理するように、メルディアの言葉に返答した。
「……魔道具なしで魔法が使えるのだとしたら、それが意味する答えはひとつだろ」
「……まさか……!」
かつて魔女は誰にでも魔法が使える道具として銃をはじめとする様々な遺産を残した。
魔法とは、もともとある種族だけが使用していた特殊技術のことである。
「……あいつは……"エルフ"だ」
魔法を扱えた唯一の種族、エルフ。
今はもう、存在しないとされている伝説上の存在であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます