復讐の為に生きるのか

「あんた、一体何?ただの人間じゃないよね?」


 魔女は銃を構えながらルリにそう聞く。

 ルリはあわわと違うんですという身振りをする。


「あの、本当に私、ただ魔女に会いたいなーって思って森をうろうろしてたら偶然家を見つけて、だからその、あの」

「偶然?」

「そう!」


 ルリのこの言い訳が果たして通るものなのかと言えば、実は是なのである。

 人避けの魔法は万能ではなく、時折偶然すり抜けてくるものがいないわけではない。

 魔女は当然それをわかっているが、


「……わかった、質問を変えよう。じゃああんたはなんであたしに会いに来たんだ」

「なん……なんで、かな……」

「やっぱりバカにしてるよね?」

「してない!えと、その、私、村がなくなっちゃって……」

「何?」


 魔女の眉間にわずかにしわが寄った。

 ルリはなんとかこの場を取り繕おうと頭をフル回転させた。


「村が燃やされて、家族も友達もみんな死んじゃって、その、もし魔女に会えたら、何か助言とか、してもらえるかなって……」

「……」


 魔女は銃を持ったままルリに近づいてきた。

 わたわたするルリを無視するように、魔女はルリの鞄の中身をあらためる。


「……魔道具みたいなのは持ってないか」

「ま、まどーぐ?」

「……持ってる武器もただの弓とナイフか、チッ」


 魔女は舌打ちしながら銃を下す。

 ルリはどっと冷や汗が流れていくのを感じた。

 どうやらなんとか危険な存在ではないと認識してもらえたらしい。

 ルリはそっと立ち上がって体をはらっていると、魔女が話しかけてくる。


「……村が燃やされたって、本当?」

「う、うん」

「……なるほどね、それでその燃やした誰かに復讐したくてここに来たわけか」

「……ふくしゅー……?」


 しばしの静寂の後、ルリは呆気にとられたようにそう言った。

 魔女は再び眉間にしわを寄せる。


「そのために来たんじゃないのか。復讐するために魔法の力が欲しいんだろ?」

「……ああ……いや……そういうのは、全然考えてなかった、かな……」

「はあ?」

「私はただ、これからどうやって生きていけばいいかなーって思って……そういうの、魔女さんだったら聞いてくれるのかなーって……」

「……だったら、復讐のために生きればいいだろ」


 魔女は冷たくそう言った。

 ルリは目を丸くした。

 その様子にいらだつように魔女は言った。


「大切な人が殺されたんだろ。大事な村が燃やされたんだろ。それをやった相手が死ぬほど憎くないのか。今すぐ殺してやりたいと思わないっていうのか!!」

「……あの、魔女さん、その」

「……チッ!」


 魔女は強く舌打ちすると再びルリに銃を向ける。

 それは半ば八つ当たりのようでもあり、拒絶の感情を直接ぶつけられるような感覚でもあった。


「悪いけどあんたに言うことは何もない、即刻ここから」


 その時だった、不意に森の中かビーッビーッという不快な音が鳴り響く。

 ルリはその音に心臓が飛び出るかと思った。


「な、なな、なに今の!!」

「チッ!」


 どうやら魔女もその音に心当たりはないようであった。

 音のした方に銃を向け、警戒をする。


「ちょ、ちょ、ちょっと!ソプラノ!この音どうやって止めますの!?これじゃ魔女に気付かれちゃうじゃない!!」

「うぅーん、人避けの魔法を察知した時にアラームが鳴るようにしたのは失敗でしたかねぇー」

「差し出がましいようですがお嬢様、もう気付かれている可能性が高いでしょう。どうします?」

「この声……」


 その声は、ルリには聞き覚えのあるものであった。

 直後、森の中からとても速いが魔女に向かって飛んできた。


「……術式、ファイアボール!!」


 魔女のその水色の瞳が明るく輝き、銃の先端から魔法陣が現れる。

 そしてその銃を作動させる引き金を引くと巨大な炎の塊が素早く飛んでいき、何かの塊にぶつかって互いに消滅した。


「やりますわね、わたくしの先制攻撃を防ぐなんて!」

「何が先制攻撃だ、あんだけでかい声出しておいて」

「とにかく、見つけましたわよ魔女め!!」


 森の中から、三つの影が現れる。

 男装した少女、フリフリした服を着た少女。そして動きやすそうでもありながら、それでもどこかひらひらした豪華な服を着た少女。

 何か巨大な筒のようなものを背負ったその少女にルリは当然見覚えがあった。


「メルディアさん!?」

「……はあ?ルリさんがなんでここに!?」


 メルディア・フォン・コールディア。

 そしてその従者、ソプラノとアルト。

 彼女達とルリは、お互いが何故ここにいるのか、と驚くのであった。

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