メルディア・フォン・コールディア

「それで、あなたは一体こんなところで何をしていらっしゃるの?はっきりいってちょっと怪しいですわよ」


 銀髪の少女はルリに問う。

 客観的に見れば怪しいのはお互い様なのだがあいにくルリはそのことに全く気が付かない。

 慌てて少しだけ身を正してルリはお辞儀をした。


「あ、えと、はじめまして。私、ルリ・ラティスっていいます。えーっと、その、イルグレア王国に向かおうと思ってて、今日は野宿するつもりなんだ」

「イルグレアに?ふーん、街道を通らずにこんな森をわざわざ?」

「かいどー……?」


 ルリは東に国があるとしか教えられてなかったので愚直に東を目指していたが、もしかして別に道があったのだろうか、と思い始める。

 長老ももしかしたら出発の日にはもうちょっとちゃんとした道を教えてくれるつもりだったのかもしれない。

 銀髪の少女たちは少々怪訝そうな顔をするものの、そもそも街道というものがいまひとつピンと来ていないルリが言いつくろうのは無理があった。


「……まあ、いいですわ。どうやらあなたは本当にただの平凡な村娘さんのようですし、特別にわたくしも名乗ってさしあげましょう!」


 銀髪の少女はさっとポーズを取ると茶髪の少女たちは後ろにひざまずいた。


「そう、わたくしこそ!魔女の遺産を求め旅を続ける孤高のトレジャーハンター!メルディア・フォン・コールティアですわ!!おーほほほほほほ!!」


 夜の森に不釣り合いな高笑いが鳴り響く。

 ふわふわした少女は取り出した扇子でメルディアを下から目立たせるように仰ぎ、男装の方の少女は花吹雪をメルディアに舞わせていた。


「わあ……すごい」


 ルリはとにかく素直な感想を口にした。

 村にはまるでいなかったタイプの人物たちである。


「ふふん、まあ、それほどでもありますが。と、このふたりはわたくしの従者、ソプラノとアルトですわ」

「ソプラノですぅ、よろしくおねがいしまぁす」

「アルトです。どうぞお見知りおきを」


 ふわふわしたほうがソプラノ、男装の方がアルトであるらしい。


「まあでも、魔女と関係ないならわたくし達もあなたには用はありませんわねえ」

「まじょ?」

「魔女の遺産のひとつも持ってるようには見えませんし……時代遅れの弓とこれ、石でできたナイフですの?ちょっと前時代的すぎませんこと?」


 メルディアはふふんと笑って見せる。

 その言葉を聞いたルリは少し複雑そうな苦笑いをした。


「この弓、両親の形見なんだ」

「えっ」

「ナイフも、友達の形見で……へへ、ナイフを作るのは私全然勝てなかったなあ」

「えっえっ」


 ルリはそう言って寂しそうに微笑んだ。

 メルディアは焦りながらささっと後ろに下がってソプラノとアルトとこそこそ話しはじめる。


「ちょちょちょ、ちょっと、どうしましょう。わたくし、か、形見を馬鹿にしてしまいましたわ」

「差し出がましいようですがお嬢様、素直に謝ったほうがよろしいのではないでしょうか」

「というかぁ、わたしたちもちょっと田舎者とか言いすぎましたかねぇ」

「う、うう、そうですわね、いや魔女と戦うからちょっとテンションが……」

「あの……」


 ルリが声をかけると三人がびくっとして即座にルリの前に並んだ。


「そ、その、ルリさん、申し訳ありませんでした。まさか形見とは思わず……」


 メルディアが頭を下げると後ろのソプラノとアルトも頭を下げた。

 ルリはその様子を見て一瞬ぽかんとしたあと、思わず笑ってしまった。


「ううん、大丈夫、気にしないで。私本当に田舎者だからこの辺の事とか全然詳しくなくて……それにしばらく誰とも話せてなかったから、こうやってお話できるだけでちょっと嬉しいんだ」

「おお、なんという広いお心……感謝いたします、ルリ様」

「ほんとぉ、優しい方でよかったですねぇお嬢様ぁ」

「い、いやそんな……」


 アルトとソプラノの誉め言葉にルリはてへへと照れ笑いをする。

 メルディアはそんなルリの様子を見て真面目な顔で言った。


「ルリさん、あなたはいい人です。だから忠告しておきますけれど……この森には、魔女がいますのよ」

「……魔女、さっきも言ってた」


 魔女、それは今のルリにとってはおとぎ話に出てくるような不確かな存在だった。

 故にその魔女との出会いがルリの生き方に大きな影響を与えることも知る由もないのであった。

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