魔女の遺産

「まさかとは思いますけれど、魔女を知らないなんてことありませんわよね?」

「し、知ってますよ!大昔に人間に魔法を教えたって人、ですよね?」

「……」


 メルディアたち3人は顔を合わせ複雑そうな表情をしている。

 ルリは何か間違えたかな、とどきどきしながらその様子を見ていた。


「まあ、広義の意味では間違っていませんが……」

「今回の場合、魔女とはその血を受け継ぎ今も生きる者を差します」


 困惑顔のメルディアをよそに、アルトが丁寧な説明をする。


「つまりぃ、その"魔女"の血を受け継いだ"魔女"がこの森のどこかにいる、とわたしたちは睨んでるんですよぉ」

「つまり、魔女の子孫が……?」

「その通り!そしてそういった魔女の子孫は大体、"魔女の遺産"を隠し持っているのですわ」

「魔女の、遺産」


 不思議そうな顔をするルリにメルディアはまた困惑した顔をする。


「魔女の遺産も知らないなんて……本当にどこから来たんですの?あなた」

「え、えっと、それは、その」


 いくら村はもうなくなったとはいえ、村の場所を教えてはいけないという長老の言いつけを破るのはルリには気が引けた。

 なんとかルリは話をそらそうと考える。


「その、つまりメルディアさんとソプラノさんとアルトさんは、その魔女の遺産を探してるってことなんだね!?」

「その通りです、ルリ様。お嬢様は人間の世の発展のため魔女の遺産を探しておられるのです」


 アルトがそう答えると、メルディアもふふんとばかりに胸を張る。

 そしてそれに続けるようにソプラノが話し始めた。


「魔女の遺産っていうのはぁ、いわば大昔の魔女が使ってた魔法の道具なんですよぉ。今の人間社会が発展してるのは多くの魔女の遺産のおかげといっても過言ではないわけでぇす」

「へぇ……」

「しかし、現代に生きる魔女はその多くの魔女の遺産を秘匿し自分たちだけの物にしようとしているのですわ!わたくしにはそれが許せませんの!」


 メルディアがそう熱く語る。

 ルリはそれに並々ならぬ熱意を感じたものの、少し怖くも感じた。


「でも、その、魔女の遺産、っていうなら魔女の人たちが使うのが自然なんじゃ……?」

「いいえ!魔女の遺産は元々世界各地に散らばっていたものを多くの人々が発見したものなのです。それをあとから血の繋がりを理由に奪い取ろうとしているのが現代の魔女なのですわ!」


 魔女の子孫や遺産などの話はルリにとってはまるで聞いたことのない話だった。

 ルリが知っていたのは大昔魔女と呼ばれる存在が誰にでも扱える魔法を生み出したが、結局それは争いの火種となり魔女は人とのかかわりを断ったというおとぎ話だけである。

 ルリはこの話はちょっと嘘っぽいな、と思っていたのだがどうやらそうでもないのかもしれない。


「ルリさんはもしかしたらあまりぴんと来てないのかもしれませんが……魔女は本当に何をするかわからない危険な存在ですのよ。だからこんな森からは早く離れて街道沿いにイルグレアに向かったほうがいいですわよ。街道の場所は……」


 メルディアたちはそうして街道の場所を教えてくれた。

 彼女たちは親切心からそう言ってくれているということはルリにはよく伝わっていた。

 だがルリは不思議なことに、魔女がそれほど危険な存在だとは思えなかったのだ。

 そして、こうも思った。

 魔女に会って話をしてみたい、と。

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