少女の旅立ち

 ルリは出発の準備を整えていく。

 もはや村には誰もいない。

 自分が離れてしまえばもう、本当に村はなくなってしまう。

 それでもルリは旅立つべきだと、そう決心したのだ。


「……みんな」


 村中からかき集めた様々な道具。

 それは村のみんなの遺品であり、旅立つためにルリが得ることができた唯一の物たちであった。


「カリン、このナイフがあれば私もきっと戦えるよね。少しだけ……借りるね」


 このナイフはカリンの使っていたものだ。

 カリンはナイフの扱いが上手く、戦闘も、動物を捌くのもこのナイフだけでやってのけていた。

 それを二本、腰に装着して持っていく。


「パルマの釣り竿、持っていったら怒られちゃうかな。でも、ごめんね。使わせて」


 パルマがよく使っていた釣り竿やキャンプ道具。

 あんなにがさつに見えて誰よりも手入れが行き届いていてとても使いやすそうだった。

 家に残っていた大きな鞄に詰め込んで持っていく。


「……イスカ」


 村に戻った時、蹴飛ばしてしまった髪飾り。

 イスカの宝物の一つだ。

 日によって使い分けていたその髪飾りだったが見つけられたのはこの一つだけだった。

 その太陽の髪飾りを頭につけて持っていく。


「ねえみんな。私、一人でも大丈夫かな」


 その言葉はただ青空にとけて消えていく。

 当然返答などあるはずもない。

 だがそれでも、何故か。


『ルリなら大丈夫』


 みんなそう言っている気がした。


「……」


 ルリは最後に自分の家のあった場所により、立てかけられた一つの弓を手に取る。

 父が前に作ってくれた弓だ。

 母がいつか用意してくれた矢筒も残っている。

 矢は道すがら自分で作っていけばいい。


「お父さん、お母さん、私、王国に行くよ。長老がいつか向かえって、そう言ってた。

 きっと、今がその時なんだよね」


 そう告げてルリは息を大きく吸い歩き出していく

 何も見ないように、ただ真っすぐに。村の外まで歩いていく。

 持ってこれるものは全て持ってきた。みんなへの挨拶ももう済ませた。

 それでも立ち止まり、振り返りたくなる。

 視界がにじむ。寂しさと心細さが心を支配する。

 だがルリは、それらを振り払って前に進んだ。

 ただ一言、後ろの村へ向かって呟く。


「みんな、行ってきます」


 ただ一人の生き残りを見送って、アルティ村は滅びた。

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