魔法の匂い

「……さて」


 ルリと握手を交わしたタマキは向き直ってメルディア一行を見る。


「……なんであんたたち泣いてんの」


 そして呆れた顔で彼女たちにそう言った。


「ふぇえ……だってぇ……お二人の会話がぁ……あまりにも心を打ってしまいぃ……」

「ううっ……差し出がましいようですが、美しき友情に不覚にも感動してしまい……」

「し、仕方ないじゃないですか……二人とも、こんな境遇で、頑張って……す、少し涙腺が緩んでしまっただけですわ……っ!!」

「なんだそりゃ……」


 タマキがため息をつく傍ら、ルリは少し困ったように微笑むのだった。


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「お二人の事情は理解いたしましたわ。タマキさんも一般の方に害を成す存在ではないとわたくしは考えます。ので、ソプラノ!」

「はい。銃はお返ししますねぇタマキ様ぁ」

「……いいの?」


 ソプラノから銃をうやうやしく手渡され、少し困惑しながらもタマキは銃を受け取る。

 メルディアはふふんと笑みを浮かべた。


「これでも人を見る目はあるつもりですわ。わたくし達はあなたが危険な七人の魔女に連なる者と考えてあなたに攻撃を仕掛けましたが……どうやら早とちりだったようで、そのことに関しては謝罪させていただきます。申し訳ありませんでした」


 メルディアが頭を下げると、ソプラノとアルトも息を合わせたようにぴったりと頭を下げる。


「ん、んん……」

「ねえ、メルディアさんも私のお友達になってくれませんか!もちろんソプラノさんとアルトさんも!」


 言葉に詰まるタマキに代わるようにルリが三人に声をかける。


「わたくしでよければもちろん!いいですわよねソプラノ、アルト!」

「お嬢様がお決めになったことなら断る理由はないですぅ」

「無論、ぼくたち自身も快く思っている」


 きゃっきゃとはしゃぐ4人を見ながらタマキは少し遠巻きに眺めながらもそういえば、とメルディア達に聞く。


「あんたたち、あの変な機械なに?魔女の遺産じゃないよね。あれであたしの人避けの魔法を突破してきたわけ?」

「ふふふ、こう見えてソプラノは天才技術者ですのよ!メガ・フォンも人避け探知マシーン三号も彼女が作り出しましたの!」

「もちろん魔女の遺産を参考にはしましたけどねぇ、ふふふ」


 自慢げに話すメルディアと胸を張るソプラノ、アルトはそれを微笑ましく眺めながらもひとつの疑問を口にする。


「ルリ様は一体どのようにして人避けの魔法を察知したのですか?」

「あ、私はその、魔法の匂いを感じて……最初はまだ村の方から残ったのを感じてるのかなと思ってたんだけど、メルディアさん達に話を聞いてやっぱり人避けの魔法を使ってる人がいるんだ、って思ったから……」

「魔法の、匂い?それもエルフの力なわけ?」

「そうだと思う。これも外では口にしないように言われてたから……」


 タマキやメルディア達は改めてエルフの持つ力に驚く。

 確かに魔法が使われたあとにはわずかに魔力の残滓を感じ取れたり普通とはどこか違う感覚を覚えたりすることはある。

 実際ソプラノの作った機械もそれを検知する仕組みになっているのだ。

 だが魔法に匂いがあるというのは初耳であった。


「で、あたしの人避けの魔法を感じ取ってここまで来たわけか……」

「それもあるんだけど……」

「他に理由が?」


 メルディアの問いに、ルリはほんの少し悲しそうに微笑む。


「お父さんとお母さんなんだ、私の村に人避けの魔法を使ってたの」

「え……」

「両親はそういう魔法が得意だったから、毎日村に人避けの魔法を使って……広範囲に魔力をできる限り薄く、そうすると村は獣にも見つけられないんだ」

「そうか……」


 タマキはそう言って再び考える。

 人避けの魔法とは簡単に言えば錯覚を起こさせる魔法だ。

 これに覆われた空間を普通の人間は存在しないものと感じ、真っすぐ歩いているつもりで無意識に迂回をさせ、たどり着けないようにするのだ。

 目だけでものを判断しがちな人間を騙すのは比較的簡単だが、嗅覚や聴覚も扱う獣も避けるとなるとそれ以上に高度な技術が必要なのだ。

 そして、それだけの魔法を少ない魔力で発動するということはより魔力による違和感を感じさせなくなるということである。

 おそらくエルフの村というのは日ごろから魔力に触れている魔女や、先程のソプラノが作った機械にも反応しないものであったのだろう。

 ……となると、ルリの村を襲った相手はそれだけの人避けの魔法を無視できる存在だということだ。

 そんなことが出来るほどの人間がこの世界にどれほどいるのか。

 やはりルリは七人の魔女が怪しいと改めてそう考えるのであった。


「……で、あんたたちはなんでまた泣いてるの」

「うっ……申し訳ありません、差し出がましいようですが、ルリ様が両親のことを思ってここにたどり着いたのだと思うと涙が……」

「ルリ様とぉ、タマキ様が出会ったのはぁ……ご両親様が引き合わせてくれたのかもしれませんねぇ、ぐす、ふえぇ……」

「ルリさん……わたくし、ルリさんのことを全力で応援しますわ!!」

「ありがとう、メルディアさん、ソプラノさん、アルトさん」


 涙を袖でぬぐいながら自分の手を取るメルディアにルリは笑顔で返す。

 タマキは、やっぱりこいつらも変なやつだな……と思うのだった。

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