第42話? 東京おもちゃショー開幕

 作者より


 本来なら、主人公が高速を降りて、家に帰るまでを書かないと、時系列がくずれるのですが・・・。


 とにかく、キラメイターのお話を書きたかったんです。


 ということで、東京おもちゃショーの回にスキップしました。

 なので、この回から6月中旬の時間設定になります。


 前話を読んでいただけると、なんで東京おもちゃショーの話になったのか理解が深まります。


*******


 三隈は、ビックサイトで開かれる東京おもちゃショーの一般公開を見に行くため、前日に泊まっていたホテルを早めに出て、東京メトロの有楽町線に乗った。

 豊洲駅で降りてゆりかもめに乗り替える。後はゆりかもめに乗って東京ビッグサイト駅で降りれば、東京ビッグサイトはすぐ近くだ。


 三隈は、東京ビッグサイト駅でゆりかもめを降りて、改札を通り抜けた後、亜紀と夏美にビッグサイト駅に着いた旨のlineを送った。


 すると、すぐ二人からすぐ返事が来た。


 「「私は、入場口の所に並んでいるよ。改札出て右手にビッグサイトの建物が見えるから、そっちの方に歩いて行って」」


 三隈がスマホから目を放し周囲を見回すと、右側にビッグサイトを象徴する"あの"建物が見えた。その建物に向かって歩いて行くと、結構な行列ができていた。


 行列の最後尾に並んだ後、亜紀たちに行列に並んた旨を伝えて、入場の順番を待つことにした。

 亜紀たちの返信は、「先にステージの場所取りして待っている」だった。


 

 三隈は、長い間待ってやっとの事で入場手続きをして入場した足で、まっすぐにステージが設置されている場所に向かった。


三隈が、ステージ観客席後ろを見ると、亜紀が一人立ってこちらを見ていた。


 三隈は亜紀のもとに駆け寄り、笑顔で挨拶をした。


 「こんにちは、亜紀さん」


 亜紀は、いかにも楽しそうな笑顔で言った。


 「こんにちは、三隈ちゃん、元気そうで良かった」


 「亜紀さんも、お元気そうで、何よりです。ところで夏美さんは、他のブースを見に行ったんですか」


 三隈は、夏美の姿が見えないことを不審に思って亜紀に訪ねた。


 亜紀は、軽い苦笑を見せた。


 「ううん、トイレと飲み物を買いに行っているの」


 「えっ、そんな準備が必要なんですか」


 「そうよ、今日は"大きなお友だち"がたくさん来るだろうからね。三隈ちゃんも急いで済ました方がいいよ」


 亜紀はそう言って、トイレのある方向に顔を向けた。

 三隈も釣られて亜紀と同じ方向を見ると、夏美がこちらに向かって歩いているのが見えた。


 三隈は、亜紀に自分もトイレに行ってくると言って、歩き出した。


 途中、夏美とすれ違った時挨拶をして、そのまま歩いていった。


 三隈がトイレを済ませて、亜紀たちのいるところへ戻ろうとしてステージ前に戻ろうとしたが、ステージ周辺はさっきよりも多くの人がいて、戻るのに人混みをかき分けてようやく戻って、亜紀たちのそばに着いて一息ついた。そして周囲を見回して言った。


 「さっきよりも、人がずいぶん増えていますね」


 「そりゃそうよ、今日はビックイベントだからね、前なんか"お友だち"で一杯でしょ」


 三隈の質問に、夏美が当たり前のように答えた。

 ステージ前の観客席は、たくさんの親子連れでほぼ埋まっていた。

 所々に、場違いな男性が座っていた。彼らはきっと「愛活アイカツ!遊星わくせい」のファンなのだろう。

 “キッ友”なら、ステージ前の席は“お友だち”に譲るのがお約束だからだ。

 そして、観客席を囲むように、大勢の大人が立っていた。まさに人垣という言葉があてはまる。


 三隈が観客席を見回していると、その一角にスーツ姿の男女の集団が座っていた。しかも彼らの後ろには、三脚が立っていてその上にはステージの方にレンズを向けた業務用ビデオカメラが乗っていた。

 三隈は、場違いな集団に違和感を感じて、なぜ彼らはわざわざ座っているのだろうと、内心の疑問が思わず声に出た。


 「あの人たちは、視察で座っているんですか」


 その声を聞いた亜紀が、三隈が見ている方向を見て少し考えている表情になって、それから納得した顔になって答えた。


 「ああ、あの人たちね、おそらくト○タ自動車や清○建設の人たちだと思うよ」


 「えっ、それってあり得るんですか、どっちの会社もおもちゃやゲームを売ってないですよ」


 「でも両方とも、おもちゃショーにブースを出しているよ」


 亜紀は、そう言っておもちゃショーの場内案内図を三隈に見せて、案内図のある場所を指差した。

 そこには、確かにト○タ自動車と清○建設のブースがあることが書かれていた。


 三隈は、それを見てよけい分からなくなった。

 販売した車がミニカーやプラモデルに採用されているから、ト〇タ自動車がおもちゃに関係があることは理解できる。

 ボディに「藤○とうふ店(自家用)」とロゴが書かれたパンダトレノこと、白黒ツートンカラーのAE86スプリンタートレノは、ゲームやプラモで絶大な人気を誇っている。

 特にゲームのコラボ企画で、ラスボスとして激走している。

 だが、清〇建設は建設会社だ。

 都市開発ゲームや重機オペレーターシミュレーションゲームでも作っているのだろうか、でも、そんなゲーム見た事も聞いた事もない。

 作っていたとしても監修程度だから、自社商品のデザインを使ったおもちゃが販売されている自動車会社と訳が違う。

 彼女の疑問はますます大きくなった。

 不審そうな顔で考え込んでいる三隈を見て、亜紀が声をかけた。


 「その顔は、納得できてないみたいね」


 「ええ、おもちゃを売ってないのにブースを出すなんて、何か不思議です」


 「おそらく、大人の事情だと思うよ」


 そう言って、亜紀は“自分の推論”だと断ってから、説明を始めた。


 あの二社の関係者は、おそらくステージのイベント目当てで来ている可能性が高い。なぜなら、ブースの出展者であれば、業界関係者として木曜日から参加できるからだ。

 ギョーカイ関係者限定のイベントを見るためには、主催者に入場許可をもらう必要がある。

 おもちゃ業界関係者ではない、個人や一般企業がイベントを見たいからと入場許可を申請しても、主催者は断るだろう。


 それなら、ブース出展すればいいかというと、簡単な話ではない。

 おもちゃと関係ない企業の出展を無秩序に認めれば、出展企業の数は会場のキャパシティを超えてしまう。

 主催者は、「GAFA」と呼ばれるグローバル企業が他企業より高額な出店料を払うからと主張し強硬に出展を要求してきたとしても、おもちゃと関係ない企業なら断らなければな収拾がつかなくなる。

 それに、おもちゃと関係ない企業の部署がブースを出そうとしても、会社が広告効果が見込めない事にお金を出すことは考えにくいので、会社から出展許可はまず下りない。

 21世紀は、バブル時代と訳が違う。


 第一、建設会社よりJR東日本やJR東海のほうが、おもちゃ業界にはるかに貢献しているはずだ。

 アニメ「シンカ○オン」では四国と貨物を除くJR各社が協力企業としてクレジットされている。それ以外にもプラレ○ルや鉄道模型でおもちゃ業界に多大な貢献している。それなのにJR各社は出展していない。

 JR各社が、出展しても自社の利益に貢献しないと判断したからだろう。


 おそらく、あの二社は、会社でそれなりの地位の人物がごり押しで会社の稟議りんぎを通して出展を申し込んだんだろう。そして、あの鬼十則さわ師の会社が主催者に口を利いたから、主催者もしぶしぶ出展を認めたのだろう。


 「私もウチの会社で出展の稟議書りんぎしょ出したけど、広告効果ナシと速攻で却下されたしね。あの会社、どうやって上の許可取ったんだろうね」


 そこまで言って、亜紀はため息をついた。


 亜紀の話を聞いていた三隈は、大人の世界は理不尽がまかり通るものなんだと、改めて思った。


 三隈自身は、いわゆる【親ガチャ】で大当たりを引いた恵まれた立場だが、この幸運がいつまでも続くとは限らない。幸運が無くならないうちに自分で生活できるすべを持たないといけない。

 持たざる者は、理不尽な仕打ちに耐えるしかない。


 三隈が見るところ、亜紀も夏美も超優良企業に勤めているようだ。だから、休日に趣味を楽しむ事ができる。将来は自分も亜紀たちのように趣味を楽しめるような暮らしを目指そうと思った。

 

 「み、三隈ちゃん、私の顔に何か付いているの」


 亜紀が、少し慌てたように聞いてきた。

 三隈がじっと亜紀の顔を見ていたから、顔に何か付いているかと思ったみたいだ。


 「い、いえ、何も付いていません、すいません、ちょっと考え事をしてしまいました」


 三隈はそう言って、頭を下げた。

 

 「そ、そうなの、よかった」


 亜紀は、そういったもののやはり気になるのか、手鏡を取り出して自分の顔に何かついてないか確認していた。


 三隈は、ちょっと悪い事をしてしまったと反省した。

 気まずい気持ちをごまかすために周囲を見回すと、さっきよりさらに人が多くなって、観客席の後ろ側は立錐の余地もない状態になっていた。


 「うわっ、すごく人がいる」


 思わず出た三隈のつぶやきに、夏美が反応した。


「そりゃそうよ、ガチバトル目当てで“大きなお友だち”がたくさん来ているからね。今日のステージのでき次第で、相手のファンを取り込む事ができるからね」


 言い終わってから、夏美は楽しそうに笑った。


 今回のイベントで、観客に良い印象を与えると相手側のファンが自分たちの作品に乗り換えてくれる可能性がある。

 女児向け番組に付いている“大きなお友だち”は、おもちゃなどのグッズを大人買いしてくれる人が結構多い。おもちゃの売上に直接かかわるだけに、両企業番台と宝富一ともファンの心をつかもうと力が入っているはずだ。

 夏美の話を聞きながら、三隈は早くライブショーが始まらないか待ち遠しかった。

 あの、カワイイ衣装が似合うキラメイターの4人が見たい。

 そう思っていると、観客のざわめきの中、場内アナウンスがかすかに聞こえてきた。


 『ただいまより、メインステージで「よにんはキラメイターライブイベント」が始まります』


 アナウンスが終わると、周囲のざわめきが次第に小さくなり観客は静かになった。

 聞こえてくるのは、ブースなど他の場所から音だけだ。


 同時にステージが暗くなった。

 そして、ステージ後ろの壁に文字が写し出された。


『キッ友×闘士ファイター よにんはキラメイター』

『第13.5話 引継式ひきつぎしき真っ黒まっくろに!? マックロロ襲来!!』


 これから、どれだけ面白いライブが始まるのか、みんなわくわくして待っている。


 三隈を始め観客は、ステージを見つめた。


*******


ゆる~い用語解説

【ト○タ自動車】【清○建設】

この二社は「東京おもちゃショー 2019」にブースを出展していました(ガチ)。

場内案内図で名前を見つけたときは、マジでびっくりした。


清水建設は2023年もブースを出している。どうやら休憩スペースの提供というのが表向きの理由のよう・・・。


作者からのお願い

この回の話を理解するために、前話を読んでいただけるとありがたいです。




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