第18話 お昼休み

 朝読書の時間が終わり、朝のSHRが始まった。

 今日の時間割は、午前中に新入生との対面式と春休みの宿題が範囲の課題テスト、午後から授業だ。



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 四時間目終了のチャイムが鳴って、試験監督が解答用紙を回収し終わった後、昼休みになった。


 - 試験に集中できなかった、解答用紙が帰ってくるのが怖い・・・。 -


 三隈みくまは、解答用紙を提出した後、十分に解けていない事が不安だった。大学推薦入学試験や入学後の給付型奨学金受給を受けるために、試験はできるだけ百点を取って、三年間の評価点四.五以上を目指す必要があった。


 試験に集中できなかったのは、休み時間になると、クラスメイトが三隈ををチラチラ見ながら、ひそひそ話をしているように見えたため、気になってしょうがなかったからだ。


 三隈は、三月まで空気扱いだったため、余計気になった。


 三隈は、気にしても仕方がないとあきらめて、お昼を食べることにした。

 弁当箱をロッカーから出して、机の上に置いた時、誰かが横から声をかけてきた。


 「諫早いさはやちゃん~、一緒にお昼食べない~」


 三隈が、声のした方を向くと、麗子が立っていた。手にはコンビニ袋をぶら下げていた。


 「えっ、ええいいですけど、でも、机狭いですよ」


 「諫早ちゃんの前の席、空いているようだから~、これを借りればいいよね~」


 麗子は、三隈の前の席を三隈の席にくっ付けて、三隈と向かい合わせになるように椅子を置いて、座った。


 三隈は、麗子の後ろにお弁当箱を持った二人の女子がいたのに気づいていた。その二人は麗子が来たことで、三隈に話しかけるのを諦めて他の場所に移動した。


 自分の後ろで起きている事に気づいていない麗子は、コンビニ袋から弁当とお茶を出して、机の上に置いた。


 「じゃ、食べようよ~、諫早ちゃんも弁当箱出しなよ~」


 三隈は、巾着袋から弁当箱を取り出した。それを見た麗子も、割り箸を袋から取り出した。

 三隈と麗子は手を合わせ、いただきますと言ってから、食べ始めた。


「諫早ちゃんの弁当、すごいね~、おかずばっかり~」


三隈のお弁当の中身を見た麗子は、少しあきれた感じで言った。


 三隈のお弁当の中身は、きざみベーコン入り卵焼き、ミニトマト、ご飯という、メニューは普通だが、その量が片寄っていた。弁当箱のほとんどを卵焼きが占めていて、ご飯とミニトマトは申し訳程度しかなかった。

 三隈は、あきれてる麗子に、


 「最近、太り気味だから、糖質制限ダイエットを始めたんです」


 と答えた。


 「へえ~、そんなダイエット法があるんだ~、後でどんな方法か教えてね~、あと敬語で話すのやめてね~、同級生なんだし~」


 「ええ、分か・り・・、分かった、これからは気を付けるね。」


 「おっ、ありがと~、そんな感じでいいよ~、さっさと食べようか~」


 二人は、お弁当を食べ始めた。

 麗子は食べるのが早く、三隈が弁当箱半分ほど食べた頃には、もう食べ終わってお茶を飲んでいた。

 お茶を二口ほど飲んだ後、麗子が言った。


 「食べることだけは、アタシの方が早いようだね~」


 それを聞いた三隈は箸を止めて、


 「麗子さん、走るのだって早そうじゃない、朝、教室に駆け込む時のスピードは、かなり速いと思うけど」


 三隈は、そう言って、また箸を動かし始めた。

 麗子は、ペットボトルを机に置いて、三隈に尋ねた。


 「諫早ちゃん、バイク通学する許可って、どうやって取ったの~」


 「学校にバイク通学許可願を出して、許可が下りたからバイク通学を始めたけど、麗子さんこそ、どうやって通学許可取ったんで・・、取ったの」


 三隈の質問に、麗子は自嘲気味な笑みを浮かべたが、すぐそれを消して言った。


 「前、通っていた学校はバイク通学OKの学校だったからね~。この学校に編入する時に、”今までバイク通学をしていた”、”免許は十六歳で取れる”と言い張って、強引に許可もらった、といえばかっこいいけどね~、ホントはバイクがないと、この学校にすら通学できないへき地に住んでいるから、と言う理由が大半だよ~」


 「家の人に送ってもらうように、先生たちから言われなかったの」


 「アタシは、一人暮らしだから無理だね~」


 「えっ、一人って、家族が怪我か病気で、家にいなくなったの」


 三隈の質問を聞いた麗子は、ちょっとかげのある表情をして答えた。


 「まあね・・・、親は家にいないからね・・・、へき地に家があるから、買い物に行くのも大変だよ~」


 質問に答えた麗子は、一区切りつけるためか、お茶をまた飲んだ。

 三隈は、麗子の様子から地雷を踏んでしまったと思って、黙ってしまった。


 二人の間に生じた沈黙は、すぐに麗子によって破られた。


 「ねえ、諫早ちゃん、名字で呼ぶのなんか嫌だから、下の名前で読んでいいかな~」


 三隈は、麗子の提案に躊躇ちゅうちょしたが、断る理由がない上、さっきの地雷が気になったので、応諾した。


 麗子は、一気に明るい笑顔になった。


 「ありがと~、レイコ嬉しくて泣きそう~」


 表情と口調のギャップに、三隈は、思わす笑った。


 「麗子さんって、いつもそんな口調なの」


 「そうだよ~、でも教師とか大人にはきちんと敬語で話すよ~」


 「本当かな~、三隈にも口調が移ったよ~」


 「なにそれ~、受ける~」


 「うける~」


 と言って、二人で笑い出した。


 そして、三隈はペースが遅くなったものの、なんとか昼食を食べ終わって弁当箱を仕舞っていると、麗子が三隈の表情をうかがいながら言った。


 「三隈ちゃん、明日もまた一緒にお昼を食べたいけど、いいかな~」


 三隈は、少し考えて答えた。


 「う~ん、明日にならないと分からないな、先生に呼ばれるかもしれないから」


 三隈は、麗子との話に耳を傾けて聞いているであろう、さっきの二人組に気を遣って、約束はしなかった。


 「そっか~、しょうがないよね~、三隈ちゃんにも都合があるからね~、じゃ、今日の放課後、駐輪場で会おうね~」


 「えっ、朝一緒だった友達と帰る予定じゃないの」


 麗子は、へらへらした笑いを見せながら、


 「あいつらにも都合があるからね~、いつも一緒というわけじゃないしね~」


 と言った。

 三隈は、麗子がどのような意図でこんなことを言うのか、疑問に思った。彼らと深い付き合いではないという説明のつもりなら、少々きつい言い方をしている気がしたからだ。


 「ふーん、そうなんだ。もっと仲がいいと思ったけど、私の思い過ごしだったのかな」


 「仲が良くても、帰る方向が真逆だよ~、一緒に帰ったら、アタシの負担が大きすぎるよ~、あの子たち、みんな韮崎方面から来てるよ~」


三隈は、麗子はどこに住んでいるのか疑問に思ったが、これ以上質問は深い関係に繋がっていく。麗子の素性が分からない以上、今の時点で長話をするのは避けたかった。そのため、麗子の話を一応信用することにした。


 「そうなんだ、私、今から歯磨きをしに行きたいけど、行っていい」


 「いいよ~」


 そう言った後、二人は立ち上がった。

 三隈は弁当箱の片付けるため、ロッカーに向かって歩き始めた。

彼女が麗子の様子を横目で見ていると、ゴミ箱にゴミを捨てた後、教室を出ていった。多分、仲間のところに行くのだろう。


三隈は、歯磨きセットを持って、洗面台がある場所へ向かった。


 三隈は、放課後に麗子が駐輪場で待ち伏せしていた時、どう相手をするか考えなくてはいけないと思った。

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