第19話 放課後はカフェに行く?

 帰りのSHRが終って放課後になった。


 三隈みくまは、リュックを背負って教室を出て、昇降口へ向かった。昇降口では、周囲に人がいないタイミングを見計らって、靴を履き替えた。


 安全のためとはいえ、制服に似合わないゴツイ安全靴を履いている姿を見られたくない、乙女の恥じらいがある。


 昇降口を出た三隈は、周囲を気にしながら小走りで駐輪場に向かった。そして駐輪場に着いた時、予想していた光景が目に入った。


 三隈のスクーターの横に麗子のスクーターが止まっていて、そのシートに麗子が座ってスマホを見ていた。


 その姿を見た三隈は立ち止まって、心の中でため息をついた。

 三隈は、バイクに乗り始めてからそれほど時間が経っていない。それなのに早速道草を食うと、近所の住人たちに、やっぱりバイクに乗り始めたら不良になったと疑われる。


 しかし、目の前にいる麗子を無視して帰れば、麗子との関係が終わるだけでは済まない事態になる。


 図書室に寄って避ける方法もあるが、次の日も待ち伏せされるのは目に見えているので、図書室に寄るのも一時しのぎで得策ではない。


 結局、一回は付き合う必要がある。


 - 今日は1時間程度付き合うことにするか、幸い日は長くなっているし -


 三隈は、日没前に家に帰れば何とかごまかせると、自分に言い聞かせてまた歩き始めた。


 三隈がスクーターのそばに来ても、麗子は気づかずにスマホを見ていた。

 三隈は、声を張って言った。


 「麗子さん、三隈です」


 麗子は、突然声をかけられた形になったので、ビックリして声がした方を向いた。


 「うわっ、み、三隈ちゃん、ビックリさせないでよ~」


 「麗子さんが、スマホに夢中になっているから、大きな声で呼ばないと聞こえないと思いました。仕方ないです」


 「う、うん、確かに動画に夢中になっていたのは、事実だから」


 麗子は、あわててヘッドホンを外しながら言った。三隈はヘッドホンを片付け終わるのを見てから、尋ねた。


 「麗子さん、ここにいるということは、私に何か用があって、待っていたの」


 「そ、そうよ、近くのカフェに行ってみない~。三隈ちゃんは、学校でバイクの話をするのが嫌そうだったから、そこでバイクの話しようよ~」


 「うーん、家の手伝いがあるから、寄り道はしたくないな、でも、一日くらいは大丈夫かな」


 「行ってくれるの、三隈ちゃん、ありがと~」


 麗子は、三隈の応諾を聞いて、笑顔になった。

 三隈は、笑顔を見せて、ちょっと力を込めて言った。


 「でも、うちから遠い、山の上のカフェだと断るよ」


 「三隈ちゃん、どのあたりに住んでるの~」


 「武川町と白州町の境近くよ。麗子さんは山の上に住んでいると言ってたけど、清里あたりなの」


 「違うよ、高根町清里近くの大泉町西井出、でも、山の上には変わりないけど~」


 「ウチからだとちょっと遠すぎるね、近くに知ってるカフェあるの」


 麗子は、三隈の言葉を聞いて少し考えていだが、すぐに顔を上げた。


 「長坂インターチェンジ辺りに知っているカフェがあるよ・・・、そこに行こう、アタシに付いてきて~」


 「ええ、すぐ行きましょう」


 三隈の返事を聞いて、麗子はミラーに掛けていたヘルメットを被り、グローブを手にはめて、バイクを駐輪場から押し出した。


 当たり前の話だが、二輪車に分類される三輪スクーターにバックギアは付いていない。そのため手で押してバックさせる必要がある。


 三隈は、麗子に続いて、スクーターを駐輪場通路に押し出し、一旦サイドスタンドを立て、バイクのエンジンをかけた。


 そして、リュックをリアボックスに入れ、シートラゲッジスペースからウィンドブレーカーとグローブを取り出して、リアボックスの天板に置いてから、シートを元に戻した。そして、ホルダーからヘルメットを取って被った。ウィンドブレーカーを着て、グローブをはめると、出発準備完了である。


 三隈の準備が整ったのを見た麗子は、ちょっと大きな声で、


 「三隈ちゃん、出発するよ」


 そう言って前を向き、スクーターを走らせ始めた。


 「わかったー」


 といい、三隈はその後についていった。


 二人は校門を出て、県道17号線を八ヶ岳方面へと曲がって、坂道を上り始めた。


 麗子の原付二種と、その後ろを追いかける三隈の軽二輪、軽快な排気音を立てて緩やかな坂を駆け上がって行った。


 県道十七号線は、緩やかなアップダウンとカーブを繰り返して次第に標高が上がっていく。


 その道を麗子のスクーターは軽やかに走っていく。三隈は、その後ろを同じように走っている。


 麗子は、時々後ろを振り返り、三隈が付いてきているか、確かめている。

 三隈は、麗子がミラーで見えやすいように、斜め後ろに付いてバイクを走らせた。

 

 長坂駅が近づくと、県道十七号線と県道三十二号線の分岐がある。それを右に曲がって三十二号線に入り、中央自動車道のガード下をくぐった先に、目的のカフェがあった。

 レンガ積みの壁に白い窓枠がはめられ、スレート葺きの黒い屋根という、ヨーロッパ風の建物だった。


 麗子は、カフェに併設された駐輪スペースに入っていった。三隈も続いて入っていった。


 二人はバイクを止め、ライディングギアを外して、ラゲッジにしまった。


 三隈は、駐輪スペースを見回して愕然がくぜんとした。国内メーカーの旧車が何台か止まっていたからだ。


 - ここって、ゴリゴリのライダーズカフェじゃないの -


 三隈は、その場に立ち竦んだ。ナンシーおじさんがいそうなライダーズカフェは、あまり行きたくなかったからだ。


 麗子は、固まっている三隈に気づいた。


 「どうしたの三隈ちゃん、ペースが速かったから、気分が悪くなったの」


 「う、うん、そうかもしれない」


 「じゃあカフェに入って、休もうよ」


 「麗子さん、ここってライダーズカフェじゃないの」


 麗子は、三隈の様子が変わった事に気づいた。


 「そうだよ、でも安心して、一見さんお断りとか、新入りへの洗礼とか、ナンシーおじさんだらけ、という変なカフェと違うよ、普通のカフェだよ」


 「ほ、本当なの、怖い人とかいないの」


 「大丈夫よ、百聞は一見にしかず、と言うじゃない、とにかく入ろうよ」


 三隈は麗子に引っ張られるようにして、カフェの中に入っていった。

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