第20話 カフェでのプチ女子会 始まり

 三隈みくまは、麗子れいこに引っ張られるようにして、カフェの入口をくぐった。


 麗子は、三隈を引っ張って、奥寄りのテーブル席に座らせ、自分はその反対側の席についた。


 二人が座ると、すぐに水の入ったコップふたつをお盆に載せて、女性が三隈たちのテーブルにやって来た。


 女性は、麗子を見て、あら久しぶりね、と言って、コップをテーブルに置いていった。


 麗子は、女性に、


 「ご無沙汰して申し訳ありません、最近家にこもっちゃって、干物女になってました」


 と言った。女性は、


 「あら、たまにウチに来てくれるだけでもありがたいわ~、注文は今にする、それとも後にする」


 と聞いてきた。麗子は、


 「今しますよ。アタシはアメリカンでいいけど、三隈ちゃんはどうする」


 と、自分の注文をしてから、三隈に振ってきた。


 「じゃあ、私もアメリカンをお願いします」


 と、三隈は答えた。それを聞いた女性は三隈の方を向いて言った。


 「あら、初めてのお客さんね、ウチのコーヒーはちょっと濃いから、ブレンドの方が無難よ」


 「えっ、そうですか、・・・じゃあ、ブレンドに変えます」


 三隈は、ちょっと迷ったが、女性に注文変更を伝えた。


 注文を聞いた女性は、麗子の方に向き直って、嬉しそうに言った。


 「麗子ちゃんが、お友達連れてきたの初めてじゃない、ワタシ嬉しいわ~」


 「やだ、ママさん、恥ずかしいじゃない~、早くコーヒー持ってきて」


 麗子は、顔を赤くして手をバタバタさせた。

 ママさんは麗子に、ゆっくりしていってね、と言ってカウンターの奥に入っていった。


 三隈は、その様子を見て不思議に思った。

 麗子はやんちゃグループの同級生といつも一緒に行動していたという噂だった。それなのになぜ、このカフェに一緒に来なかったのだろう。


 三隈の疑問にお構いなしで、麗子が話しかけてきた。


 「ねえ、三隈ちゃん、このお店いい雰囲気でしょう」


 「ええ、落ち着いた雰囲気の喫茶店って感じね」


 三隈は、改めて室内を見回したが、ふつうのカフェだった。


 壁は下半分は黒光りする板を張り付けあり、窓枠の下あたりから白い壁になっていた。

 天井もたくさんの梁が伸びていて、梁の間は木目のきれいな板が張り付けられていた。床もフローリングだ。

 席はカウンター席とテーブル席があり、カウンターは木目のきれいな板を張り、テーブルはメープルウッド風の天板を貼った木製だった。

 椅子はカウンター席はスツール、テーブル席は背もたれがある普通の椅子だ。

 照明は、電球色に統一していて、木製の内装と調和して、柔らかく落ち着く明るさだった。

 それぞれのテーブルとカウンターにコンセントが付けてあるのは、今どきのカフェらしい。

 後付け配線を、部屋の雰囲気を壊す事無く上手に引いているあたり、ここの工作をした業者はかなりの腕みたいだ。


 カウンター席には、ライダースジャケットを着た二名ほどの客がいて、この店のマスターらしき人と話をしていた。店内で唯一ライダーズカフェらしい部分だった。


 麗子は、三隈が見ていた方をチラ見したが、すぐ視線を戻して微笑を浮かべて、三隈に話し始めた。


 「アタシは、このお店を結構気に入ってて、以前は結構通っていたんだ」


 「へーっ、そうなんだ。でも、ママさんの話しぶりから、最近来てなかったような感じだったけど、もっと良いところが見つかったの」


 「ううん、単純に冬が原因」


 「冬が原因って、どういうこと」


 「大泉町でも山の上の方に家があるから、冬は寒いし路面凍結しているのよね~。学校に行く以外は、できるだけ出かけないようにしていたからね~」


 「そっか、一人暮らしなら、そうなるね。でも、学校帰りに寄ることはできなかったの」


 三隈の質問に、麗子はわずかな苦笑を浮かべて言った。


 「お友達と一緒にだったからね~、あいつらに合わせて、韮崎辺りのファミレスに行くことが増えたからね~」


 三隈は、家と逆方向だと驚いた顔をしたが、麗子は構わず話し続けた。


 「だけど、帰る方向が逆だと無理があるね。韮崎から家に帰るのに、一時間以上かかるからね。だから自然につるむのは学校の中だけになって、今じゃ薄っぺらい関係だね」


 麗子の話を聞いて、三隈は疑問を口にした。


 「じゃあ、麗子さんは、私に友達になってほしいから声をかけたの」


 麗子は、真顔になって言った。


 「そうだよ、バイクに乗っている三隈ちゃんを見て、友達になってくれるかも知れないと思って、声をかけたよ」


 三隈は、麗子が自分に声をかけた理由が今一つ分からないので、もう一つ質問をした。


「ねえ、麗子ちゃん、嫌だったら言わなくていいけど、その髪を金髪にしたのは何時いつなの」


 麗子は困ったような恥ずかしいような微妙な表情になって、その後少し考えてから、三隈の眼を見て言った。


 「去年の六月末に金髪にした。・・・三隈ちゃん、アタシのこと、不良だと思っているのかな」


 麗子は言い終わった後、全身を強張らせ三隈を見つめた。

 麗子の回答とそれに続く質問を聞いて、三隈は考えを巡らせた。


 麗子は転校生だ。

 通信制や定時制高校と違い、全日制高校に転校するには、編入試験を受ける必要がある。実施は八月と三月だけだ。

 しかも、転入先は生徒受け入れ可能な高校に限定される。地域の進学校と呼ばれる高校は、限度一杯生徒を取っているから、転入希望を出しても入ることは不可能だ。

 必然的に、転校生を受け入れる余裕がある学校に絞られる。

 そういった学校は、おおむね地域で"底辺"とか"滑り止め"と、陰口を言われている学校だ。


 転校初日に、見た目から仲間と思われ最初に声をかけてきたのが、あのやんちゃしているグループだったから、友達付き合いを始めたのかもしれない。


 だが、麗子には不良特有の雰囲気は感じられない、無理をして不良の振りをしている感じがする。髪を金髪にしたのも、何か原因があって、勢いでやってしまったのかもしれない。


 何より、三隈を悪い遊び仲間に誘うのなら、さっきのような質問はしない。


 三隈は、見つめている麗子の眼を、真っ直ぐ見返していった。


 「不良だと思えないな、いいわ、軽いお友達から始めましょう」


 その言葉を聞いた麗子は、強張っていた身体が緩んでいった。


 「ありがとう・・・、三隈ちゃん」


 麗子は、晴れ晴れとした笑顔になった。

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