第21話 スクーターとコーヒーと内緒の話

 麗子は、三隈から友達になっていいという返事を聞いて、ホッとしていた。

 強張っていた身体が緩んでいくのが本人にも分かるくらいだ。


 それに気づいた三隈が話しかけた。

 

 「ねえ、麗子さん、あなたのバイクは吸排気系を変えているって言ってたけど、吸気系はパワーフィルターなの」


 「違うよ、高効率エアクリーナー、サイズはノーマルと同じでフィルターの材質を変えて、吸気抵抗を減らしているみたい」


 「マフラーは、どこのメーカーなの」


 「HS武川たけかわだよ、マフラーは前のオーナーが付けてたから、そのまま使ってる」


 「へーえ、確かに吸排気効率は良くなりそうね、でも、低回転域のトルクが低くなりそう」


 三隈の言葉を聞いた麗子は、ちょっと渋い表情になった。


 「そうなのよ~、ここは平地と違うから、充填効率を考えてマフラーをノーマルに戻すことも考えたけど、吸気系を変えてサブコンとハイパーイグニッションを入れて燃料噴射量を変える方を選んだだけだよ~」


 麗子の言葉を聞いた三隈は、首をちょっとかしげた。


 「サブコンって、燃料噴射量を増やすから、プラグがカブるんじゃないの」


 「アタシが組んだサブコンは、O2センサーと連動しているから、適切な燃料噴射をしてくれるし、火花を強くしたから、今のところカブッたことはないよ」


 「じゃあ、ノーマルとタイしてパワーは変わらないじゃないの」


 「そうだよ~、ここは高地だからノーマルと同じパワーが出れば、社外マフラーで軽量化した分、それなりに走れるよ~」


 「低地だと、ノーマル以上のパワーが出る仕様なんだ」


 「さすが三隈ちゃん、分かってるじゃないの」


 そう言って、麗子は笑った。つられて三隈も笑顔になったとき、コーヒーが運ばれてきた。


 「ママさん、ありがと~」


 ママさんは、麗子のお礼の言葉を聞いて、どういたしましてと言って、カウンターの方へ去っていった。


 「ねっ、三隈ちゃん、ここのコーヒーは香りがスゴくいいんだよ~」


 麗子の言葉を聞いた三隈は、カップを持って、顔に近づけた。


 「本当、いい匂い」


 三隈は、コーヒー独特の香りをしばらく楽しんだ。その後、カップに口をつけ、少し飲んでみた。

 コーヒーの酸味と苦味が口の中に広がって、香りが鼻をくすぐった。その香りと味を楽しみながら飲み込んだ。


 三隈は思わず、


 「このコーヒー、すっごくおいしい」


 と言って、コーヒーカップを両手で持ちながらテーブルに置いた。


 その仕草を見ていた麗子が、また笑顔になった。


 「三隈ちゃんの笑顔を見ると、こっちまでうれしくなっちゃう。ね、ここのコーヒー、おいしいでしょう」


 「ホント、おいしい」


 三隈の返事を聞いた麗子は、悪戯っぽい笑みを見せていった。


 「三隈ちゃん、ここのコーヒーのおいしさの秘密、知りたくない」


 「うん、知りたい」


 麗子は、間をためて、ポツリと言った。


 「秘密はねぇ~、マスターに聞くと教えてくれるよ」


 三隈は、一瞬フリーズしたあと、苦笑いした。


 「なにそれ~、答えになってないよ~」


 麗子は、苦笑いする三隈に謝った。


 「ごめんね~、アタシも知らないの、マスターに聞いたことがあるけど、教えてくれなかったし~」


 「そうなんだ、マスター秘伝の味なんだ、でも、酸味が強くて苦味が薄いから、浅煎りだと思ったけど」


 麗子は、三隈の言葉を聞いて、ちょっと驚いた顔をした。


 「へえ~、すごいね~、三隈ちゃん、コーヒー飲み慣れているんだ~」


 「まあね~、有名なチェーン店以外に、街の喫茶店にも行っていたからね」


 三隈は、ちょっと得意気な顔をした。麗子は、羨ましそうな顔をしながら質問をした。


 「三隈ちゃん、さっきの話だと、前からカフェに行っていたようだけど~、いつ頃からカフェ通いを始めたの~」


 「自分で通い始めたのは、中学生になってからからかな」


 「どうして通うようになったの」


 「学校帰りに寄り道したのが、きっかけかな」


 「えっ、学校帰りに自由に寄り道していいんだ~、ちょっとどころじゃないくらい羨ましいな~」


 羨ましそうな顔をしている麗子を見て、三隈はちょっと不満を持ってしまった。


 「麗子ちゃんは、私に質問ばっかりして~、私にも質問させてよ」


 「ええっと、いいけど」


 麗子の応諾を得た三隈は、以前から気になっていた事を尋ねた。


 「麗子さんは、何で一年生の時からバイク通学できたの」


 麗子は、作り笑顔で返答した。


 「それはね、前の高校でバイク通学していたから・・・」


 「嘘ばっかり、県全体で禁止されているバイク通学が、そんな理由で許されるはずないよ」


 三隈の顔は笑っているがちょっと怒ったような言葉を聞いて、麗子はちょっと拗ねたような顔になった。


 「言わないとダメ」


 「そう、ダメ。私と友だちになろうと思っているなら、教えて」


 麗子は、いろんな表情をした後、諦めたような顔をして、バイク通学ができるようになった理由を語り始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る