第22話 身勝手な要求
「バイク通学ができるようになったのは、親の七光り」
「えっ、親の七光りって何」
「親がたまたまここから選出された代議士と友人だったから、無理が通った訳」
麗子は言い終わってちょっと不機嫌な顔をした。三隈はそれに気づいていたものの、かまわず聞いた。
「無理って、どんな無理をしたの」
麗子は、三隈の質問にあきれた顔をした。
「えー、そこまで聞く訳~、はぁ~、お嬢様はきびしいね~」
「ええ、厳しいですよ、お嬢様だから、お友達選びは慎重にしないとね~」
三隈は、麗子の言葉を気にせず笑顔で突っ込んだ。
「で、無理って何をしてもらったの」
麗子は三隈の厳しい突っ込みに、一度天を仰ぐようにしてから正面を向き、三隈の目を見て言った。
「・・・、父親が代議士を通して、県にアタシのバイク通学を認めさせたのよ」
「えっ・・・、最近はコンプライアンスが厳しいから、先生方は簡単に“口利き”はしないはずだけど」
麗子は、三隈が驚いた顔をしたのも気にせず、話し続けた。
「代議士は、アタシの父と大学で先輩後輩の関係で、今も付き合いがあるから引き受けたみたい。まあ、アタシが東京から引っ越さなければ、無理を頼む必要もなかったんだけどね」
麗子は、自嘲するような口調で言って、その後コーヒーを少し飲んで黙ってしまった。
三隈は、黙って麗子を見ていたが、少し間が空いた後、麗子に話し始めた。
「・・・ふーん、そうなんだ、麗子さんは結構お嬢様なんだね・・・。それにわざわざここに引っ越す理由が何かあったんだね。・・・わかった」
三隈は、一旦話を切り、背筋を伸ばして、話し始めた。
「じゃあ、話の続きはまたどこかで聞きましょうか」
「えっ・・・、どゆこと」
麗子は、三隈の突然の提案に驚いて、動揺した。
「どうもこうもありません。これ以上麗子さんの身の上話を聞いてしまうと、“友達になる”の一択になってしまいます。軽いお友達から始めましょうと、最初に言ったはずです」
「そ、そうは言ってたけど・・・」
麗子は、三隈がわざわざ家から離れる形になる長坂町のカフェに付いてきてくれた事で、友達になってくれると思っていた。そのせいもあって動揺を隠せなかった。
三隈は、麗子の動揺に関係なく、話を続けた。
「麗子さんは、さっき私の事を“お嬢様”と言いましたね」
「う。うん、言ったけど・・・」
「お嬢様は、周囲から監視されているため、お友達も選ばないといけません。やんちゃしている女子高生と友達づきあいをしていると、周囲の批判にさらされます。人は見た目が九割です」
「そんな、周囲がどう言おうと関係ないじゃない」
「大いにあります。麗子さんは東京ご出身のようですから、隣近所を気にしなくてよいと思っているようですが、ここは田舎です。今頃私が、”ヤンチャしている同級生”と一緒にカフェに寄り道しているという噂話が、ムラ中に広がっているでしょう」
「そんなことありえないし、信じられない」
「東京では信じられないかもしれませんが、田舎では普通に起きる事です。今頃“お嬢様の秘密の話”というワクワクする噂が、ムラ
麗子は、三隈の突拍子もない話に付いていけなかった。
だが、三隈の言葉で思い出したのだが、麗子の登校時、いつも挨拶をする近所の老婆がいたことを思い出した。どうやら、“ムラ”監視役だということに気づいた。
「・・・田舎って本当にめんどくさい、人が何をしようが迷惑をかけなければ自由じゃない」
「自由にならないのが田舎の現実です。その現実を受け入れられないのなら、都会に逃げ出すしか方法はないと思います。麗子さん、私の友達になろうと思うのなら、まずその髪型や服装を校則通りに直してください。そして、麗子さんがヤンチャをやめて、普通の高校生と周囲に評価されるようになったら、本当の友達づきあいをしましょう」
「三隈ちゃん、そんなの勝手すぎるし、ひどくない」
「勝手すぎてもひどくても、私がここで暮らしていくために、良いイメージを持った友達を選ぶ事は重要な事です。友達なら相手の事を思いやるのは普通ではありませんか」
「そ、そうだけど、三隈ちゃん、一方的すぎるよ」
「この土地で暮らしていかなければならない私と、すぐ東京に戻れる麗子さんとでは周囲への気の配り方が違うのは当たり前の事です。その違いを理解できずに、一方的過ぎると思うのなら、友達になるのは諦めてください」
三隈は、しゃべり終わった後カップに残ったコーヒーを飲んだ。冷めかけたコーヒーは苦かった。
麗子は、すっかりしょげかえっていた。
バイク友達ができると期待していたのに、友達になるための条件をここまではっきり言われるとは想像していなかった。
麗子は落ちついて三隈の言った事を整理してみた。
三隈の言い分は理解できる。
指摘された通り、自分は親の別荘に暮らしているだけで、イヤなら通信制高校に転校すれば簡単に東京に戻れるし、九州や北海道に移住する事も可能だ。
だが、三隈はこの土地の住人としてずっと生きていかなければならない。そのために不自由な事や腹立たしい事があっても我慢しなければならない。
その事に気づいた時、二人の立場の違いを考えず、気楽に友達になろうと声をかけた自身が恥ずかしかった。
黙っていた麗子は、顔を上げた。
「ごめんなさい、三隈さんの事情も考えずに、勝手に友達になろうなんて甘すぎたよね。ワタシは三隈さんと友達になりたいから、言われたトコ直してくるよ」
そう言って、麗子は頭を下げた。
「麗子さん、私のわがままを聞いてくれる気になってくれて、ありがとうございます」
麗子の言葉を聞いた三隈は、笑顔になって頭を下げた。
その時、いきなり三隈のスマホが鳴った。
三隈は、スマホを取り出して画面を見てから、麗子に言った。
「アラームが鳴りました。どうやら、家に帰らないといけない時刻になったみたいです」
麗子はカフェの窓から外を見て、三隈の方に向き直って言った。
「まだ、外は明るいよ、もう少し居てもいいじゃない」
「麗子さん、私は籠の中の鳥みたいなものです。明るい内に家に帰らないと、バイクに乗った途端不良になったと陰口をたたかれます。自分勝手な事を言っていると私も思います。そんな私と友達になりたいとまだ思っているのなら、今日は帰らせて下さい」
三隈はそう言って、また頭を下げた。
麗子は、少しの間頭を下げた三隈を見ていたが、口を開いた。
「・・・分かった、三隈ちゃんの都合を考えなかったアタシが悪かった。じゃあ、今日はもう帰ろう」
「麗子さん、ありがとうございます。では、私はこれで失礼します」
三隈は、麗子に再びお礼を言って頭を下げた後、椅子から立ち上がった。同時に伝票を持っていた。
「麗子さん、私がわがままばかりを言ったお詫びに、ここの会計は私が払います」
麗子は、三隈がいつの間にか伝票を手に持っていたことに、ビックリしていた。
そして、
「そんな事、気にしなくてもいいよ」
と言った。
三隈は、麗子に笑顔を見せて、
「私は、麗子さんに誘われたことが嬉しかったんです。コーヒー代は、そのお礼に支払わさせて下さい」
そして、もう一度、麗子にお辞儀をして、出入口近くにあるレジの方へ歩き始めた。
麗子は、その姿を座ったまま、半ば茫然と見送った。
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