第14話 農業女子デビュー
三隈は、スロープから
田んぼを長方形の面としてみた場合、二つの辺の
三隈は、トラクターを操り、バックでロータリーを田んぼの畦ギリギリに付け、ロータリーの一方の端が、トラクター前方に伸びている畦にくっつく位置に止めて、ギアをニュートラルにした。
三隈は、一回運転席から立ち上がって、周囲を見回した。
三隈は運転席にまた座って、ハンドルを握り、マスクとサングラスに隠された顔を緊張させた。
- さあ、こっからが本番。
三隈の左手がギアをセカンドに入れ、半クラッチにしてアクセルを踏んだ。
トラクターに積まれたエンジンの咆哮が大きくなり、ゆっくりと進み始めた。クラッチを繋ぎすぐPTOもつないでロータリーを回転させならが下ろし、田んぼの土に食い込ませた。
ロータリーの爪に田んぼの土が大きく掘り上げられてほぐされる。
ロータリーが通った後は、雑草が生えた緑から土の暗灰茶色と雑草の緑色が混じり合った色合いに変わっていく。
爆音を上げながら進んだトラクターの前輪が、反対側の畦に付きそうになると、三隈はハンドルを大きく切ってロータリーを上げた。
車体を小さい半径でUターンさせて、さっきと反対方向を向いた。
クラッチを切り、ギアをバックに入れて、ロータリーがさっき前輪が付きそうになった畦きわギリギリに付くようにトラクターを後退させた。
ロータリーの一端はさっき耕したばかりの土の端に少しかかるようにした。
そして、さっきと同じようにゆっくり前進しながら、ロータリーを下ろしてさっきと反対方向に進みながら、また反対側の畦きわまでロータリーで土を起こしながらトラクターを進ませた。
反対側の畦きわに着くと、さっきと同じようにまたトラクターをUターンさせて反対方向を向けてからバックしてロータリーを畦際につけて、また耕し始めた。
- ロータリーで二条分耕してもまだ少ししか起こせていない。田んぼ一枚耕すのに結構時間がかかりそう。大きなトラクターならもっと早くできるのに -
三隈は、軽いため息をついて、トラクターで田んぼを起こし続けた。
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三隈は、トラクターで田んぼを何度も往復し、四隅を残して起こし終わった。
最後の仕上げで田んぼの畦きわを一周するように耕し、四隅まできちんと起こしてスロープに着いた。
三隈が乗ったトラクターは、スロープを上って道路を出て、右にハンドルを切って、道路脇に停車して、ロータリーを下ろして、ギアをニュートラルにして、パーキングブレーキを引いた。
三隈は、トラクターを降り、車体の下を見ながら周囲を一周した。どうやら車体やタイヤに傷はないようだ。田んぼの土が乾いていたおかげで、泥はねも少なかった。
次にロータリー上下レバーを動かし、ロータリーを上げ、状態を見た。刃が曲がる等のトラブルはないようだ。ただロータリーに泥が結構付いているので、泥を落とすことにした。
三隈は再びトラクターに乗り、トラクターをバックさせ、ロータリーだけがスロープの上に来るようにして停車させた。
ギアをニュートラルにして、PTOを繋ぎロータリーを回転させ、アクセルを踏んだ。
すると、高速回転を始めたロータリーから泥が飛び散り、スロープの上に散らばった。
三隈は、その様子を後ろを向いて見ていた。
泥が飛び散らなくなったのを確認して、アクセルを緩めPTOを切って、トラクターを前進させてから道路脇に停車させ、ロータリーを下ろして、エンジンを切った。
三隈は、耕し終わった田んぼを見て、それから時計を見て、苦笑いをした。
- 田んぼ一枚耕すのに、一時間以上かかるなんて。小さいトラクターだと時間がかかりすぎる。今日はもう一枚耕すのが精一杯ね。 -
三隈は、休憩を取ることにした。
大型の日傘を開いてロールバーにくくりつけ、運転席後ろに括りつけていたバッグから、お茶の入った水筒を取り出して、マスクを外して飲み始めた。
トラクターに日傘は滑稽だが、紫外線は美肌の大敵、日焼けを避けることが一番大事だ。
三隈が周囲を見渡すと、田起こしを始める前より田んぼに出ているトラクターの数が増えているのが見えた。女性も結構いる。
遠くから、あからさまに三隈の様子をうかがっている人もいた。
三隈は、やれやれとため息をついて、カップのお茶を飲み干した。
バッグから塩飴を取り出して、口に入れようとした時、トラクター前方に伸びている農道を、スーパーカブがこちらに向かって走ってきた。
乗っているのは警官だ。警らに出ている駐在所の警官のようだ。
警官は、カブをトラクターの斜め前に止めた。車を逃がさない止め方だ。
三隈は、悪いことをしてないのに職務質問をする気かと、小さく舌打ちをした。
バイクの停止位置一つで、警官の意図が分かってしまう。
こうして、三隈は人生初となる、職務質問を受ける事になった。
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