第43話? 「キッ友✕闘士《ファイター》 よにんはキラメイター 第13.5話 引継式が真っ黒に!? マックロロ襲来!!」 その1

 作者からのお願い。


 今回のお話を理解するために、「第32話」と「第42話?」を読んでいただけると、ありがたいです。


 ****


 ステージの向かって左側、ギョーカイ用語で言うところの下手舞台袖にスポットライトが当たった。


 その場所には、マイクを持った一人の女性が立っていた。

 落ち着いた雰囲気の美人だが、容姿に似合わないかわいいファンシーな衣装を着ている。

 はっきり言って、いい歳して似合わない美少女ヒロインかロリータ系のコスプレをしている“イタい女子”という感じだ。


 「よいこのみんな~、今日はたくさんの“キッ友”が来てくれて、ありがと~」


 そう言って、MCのお姉さんは、左手でフィンガークロスをした。

 観客席でも、たくさんの“お友だち”がMCに向かって、同じようにフィンガークロスをした。


 フィンガークロスは、キラメイターでの友情を表す大切なサインだ。

 元々は、キリスト教圏で相手の幸福を祈るハンドサインである。

 最強と称されるどこかの呪術師が領域展開するときに使う手印とは意味が違う。


 「きょうは~、みんなの大好きなキラメイターが、アムールポリーシェから街を守る大事なお仕事を引き継ぐ、引継式が行われま~す」


 MCのお姉さんが、ちょっと間を開けて、またしゃべり始めた。


 「アムポリの4人は、お勉強や部活動が忙しくなったので、活動を続けるのが難しくなりました。そこで、街を守るお仕事を、キラメイターの四人に譲る事になりました」


 MCのお姉さんが、一旦しゃべるのを止めると、観客席から「えーっ、ヤダー」という声が複数聞こえてきた。


 お姉さんは、大きくうなずきながら声がした方を見て、またしゃべり始めた。


 「うんうん、アムポリと別れたくないというお友だちの気持ちもすごく分かるな~。でもね、アムポリの4人はいなくなるわけじゃないよ~。よんキラがピンチになったとき、助けるために駆けつけると思うよ~、だから信じて待っていると、またアムポリと会えるからね~」


 ここまで話し終わると、アムポリファンのお友だちも静かになった。


 MCのお姉さんが、また前を向き、観客席に向かってちょっと張った声で発表した。


「これから、引継式を始めま~す、まず譲る側のアムールポーリシェのみんなを呼びましょうね。お姉さんに続いて大きな声で、アムルーポリーシェとよんでね~ せーの、アムールポリーシェー」


 「「「「「「「アムールポリーシェー」」」」」」


 お姉さんに合わせて、たくさんの“お友だち”が大きな声でアムールポリーシェの名前をを呼ぶと、舞台の向かって右側、ギョーカイ用語で上手側袖にスポットライトがあたり、そこから、アムポリの四人が出てきてステージ中央に並んだ。


 それを見た、MCのお姉さんがまた話し始めた。


 「じゃあ、センターの更井サライちゃん、お友だちにごあいさつをお願いしますね〜」


 お姉さんに促されて、センターの女の子が話し始めた。


 「みなさんこんにちは〜、アムールポリーシェの紫腹更井むらさきはらサライで〜す。今日はよんキラとの引継式にきてくれてありがとう」


 更井は、そこまで言って話を切り、深々とお辞儀をした。


 更井に合わせるように、他の三人もお辞儀をした。


 お辞儀が終わった後、今度はリーダーのツバサが話し始めた。


 「みんなー、来てくれてありがとう。私たちアムールポリーシェは、学校の勉強が忙しくて、街を守る活動ができなくなりました」


 翼は、そこでいったん話をやめて、観客席を見回してから、また話し始めた。


 「私たち四人は、勉強が忙しくなったのでお仕事をキラメイターに譲ってしばらく休むけど、またいつかみんなに会えると思うから、しばらく待っててね」


 そこまで言って、翼は左右のメンバーを見た。

 他の三人が、翼の言葉を聞いて何度もうなずいていた。

 それを見た翼は、さっきより大きな声で、みんなに向かって言った。


 「お友だちみんなで、これから街を守ってくれる、キラメイターを一緒に呼びましょう。せ~の、キラメイター」


 「「「「「キラメイター」」」」」」


 ステージの残り三人と観客のみんなで、キラメイターの名前を呼んだ。

 キラメイターの四人がステージに出てくるのを誰もがわくわくして待っているとき、会場の静寂を切り裂く悲鳴が聞こえた。


 「キャー、助けて~」


 観客が悲鳴が聞こえてきた方向、スポットライトが当たったステージ下手袖を見た。


 悲鳴を上げたのは、MCのお姉さんだった。

 お姉さんは、黒子っぽい装束の戦闘員らしき二人に捕まって、もがいていた。

 ふんわりしたファンシーな衣装が戦闘員に後ろから引っ張られる事で、体にピッタリ張り付きボディラインがくっきりと浮き上がっていた。そして肩からたすき掛けで下げていたバックも後ろに引っ張られいたので、ショルダーストラップが胸に食い込み、双丘が強調されていた。


 夏美と亜紀がほぼ同時につぶやいた。


 「あの女、またエロい格好していやらしい。ギャル✕闘士ファイターショーにエロい足手まといはいらないのよ」


 「パイスラッシュまで入れるとは、今日はいちだんと“あざとエロい”が増しているわね、キラメイターのステージがエロオヤジだらけになるじゃない」


 二人は、プンスカ怒っていた。

 一部の“大きなお友だち”がブーイングをする一方、多くの“大きいお友だち”が、おおっ、とどよめきをあげていた。


 MCのお姉さんは、夜の報道番組の日替わりキャスターとして出演していて、その中でも人気No1であり、雑誌のグラビアに何度も掲載されるなど、男性の間で人気が高かった。

 さらに、若手女優の憧れである朝ドラや大河ドラマにレギュラーで何度も起用されるなど、女優としても評価されていた。

 それなのになぜ、こんな子供向けのイベントで“MCのお姉さん”をやっているのか。


 それは、彼女自身が何度挫折しても、夢を諦めきれないためだった。


 彼女はガチの戦隊オタクで、子供の頃の夢は特撮ドラマのヒロインになって出演することだった。

 東京の大学に進学後、芸能事務所にスカウトされたことをきっかけに、何度もヒーローもののオーディションを受けたが、全部落とされた。

 一度は最終選考まで残ったが、長身と極度の運動音痴でアクションシーンの撮影に問題ありと判断され、別の子にヒロインの座を奪われてしまった。

 彼女は、悔しさとショックで家に閉じこもって泣き続けた。泣き疲れて何も考える事ができないまま、ベッドに寝ていた。

 そのまま寝ていると、付けたままのテレビから誰かの声が聞こえてきた。


 その声を聞いた瞬間、彼女の脳裏に何か閃いた。

 

 彼女は、ベットから飛び起き、急いでテレビの前に座った。

 画面には、特撮ヒーロー番組に出演してたときのエピソードを楽しそうに話している、石○真子が写っていた。


 それを見た彼女は、歓喜の涙を流しながらつぶやいた。


 「そ、そうよ、この手が、この手があった・・・」


 特撮ヒーローものには、なぜか「実績のある俳優枠」がある。

 大河ドラマの主演を務めた実力派俳優竹○直人も、何とかライダー幽霊ゴーストに主人公の師匠役でレギュラー出演していた。

 その枠で、石○真子や伊○かずえなど女優も出演している。

 そして、石○真子は本人がスタッフに要望して、「デ○スワン」に変身する事ができた。

 二人は、演技が評価されて出演したのであって、アクション云々うんぬんは関係ないはずだ。

 女優としての実績を積めば、自分にも声がかかるかも知れない。そしてヒロインは無理でも“変身”させてもらえるかも知れない。


 さっきまで打ちひしがれていた彼女の心に、希望の灯火ともしびがともった。


 彼女は、早速行動を始めた。


 マネージャーや社長に頭を下げ、演技のレッスンを受けさせてもらいながら、いろんなドラマのオーディションを片っ端から受け始めた。

 何度落とされても諦めずに受けていると、端役に引っ掛かり始め、そこで演技を認められて、次第に台詞が多い役が増えてきた。

 その同時期に、出演していた報道番組リポーターの仕事を評価された事で、同じ番組の日替わりキャスターに抜擢された。

 美人キャスターとして人気が出始めたとき、朝の連ドラに出演した事がきっかけで一気に仕事が増えた。

 しかし、配役はアラサーOLなど大人の役ばかりで衣装もいつも大人っぽい地味な衣装だった。かわいい服をスタイリストに用意してもらっている主役やその友だち役を、いつも羨ましいと思っていた。

 

 そんなとき、LDH乳酸脱水酵素じゃないLEDから、ギャル×闘士ファイターショーMCのオファーがあった。

 最初は乗り気でなかったが、MCに用意される衣装を見た瞬間に即決でOKの返事をした。その衣装は、頭から足先までかわいらしくまとめたものだった。

 カワイイ衣装が似合わない事は本人もよく分かっている。でも子供向けショーなら“コスプレ”の一言でごまかせる。そう思った彼女は喜んでMCの仕事を始めた。

 エロい演出に不満があるものの、カワイイ衣装を堂々と着る事ができるこの仕事を辞める気にはならなかった。

 このようないきさつで、彼女は“MCのお姉さん”としてショーに出演し続けた。


 しかし、彼女は重大な事を見落としていた。

 彼女は、いわゆる「若手女優の出世コース」を順調に歩んでいるのに、特撮番組出たさで子供向けショーのMCをやっている。

 それは他の“若手女優”たち、特に特撮ヒーロー番組に出演したものの、その後ブレイクできなかった女優が憤激するには十分すぎる理由だ。

 だが、本人にとってはどうでもいい事だ。


 戦闘員に捕まってもがいているお姉さんの後ろから、黒ずくめの装束を着た軽薄そうな男が出てきた。

 顔は、ピエロっぽいメイクをしている。

 有名なアメコミの悪役をかわいくして黒装束を着せた感じだ。


「俺様は、マックロクロスケだよ〜、おい、アムールポリーシェ、コイツを真っ黒にされたくなかったら、俺様の言う事聞きな〜」


 そう言って、マックロクロスケは、人質にされたMCのお姉さんを指さしながら、ケラケラ笑った。


 アムポリの四人が、


「ひ、卑怯よ、正々堂々と戦いなさい」


「そ、そうよ、卑怯よ」


 と口々に言うが、マックロクロスケは耳に手を当てる仕草をした後、またへらへら笑った。


「ん〜、何か聞こえたな〜、俺様の事を卑怯者とか言ってたな~、俺様にとっては褒め言葉だよ~、お礼にこうしてやる~」


 マックロクロスケは、ポーチから筆を取り出し、MCのお姉さんの頬に黒い丸をかいた。


 「ケケケ、お姉さんの頬が黒くなったぞ〜」


 「ひ、ひどい」


 アムールポリーシェの四人は、拳を握りしめて悔しがった。

 マックロクロスケは、四人をあざ笑うように言った。

 

 「これ以上〜、お姉さんを真っ黒にされたくなかったら〜、素直にオイラたちの言う事を聞きな〜」


 そう言って、マックロクロスケはまたケラケラ笑った。

 それを聞いた、ツバサはキッと顔を上げマックロクロスケを指差して言った。


 「もう許せない、みんな〜、ファンファンフラッシュを決めましょう」


 「「「うんっ」」」


 アムポリの四人は、変身アイテムを取り出し、扇状に広げて前に突き出した。


 「せ~の、ファンファーン フラッシュ」


 四人のコールと共に、照明が点滅して、マックロクロスケの背中から小さく白煙が上がった。同時に戦闘員もMCのお姉さんから手を離して、苦しがる素振そぶりを見せた。


 「ぎゃ〜、やられた〜、アムポリめ〜、次はやっつけるからな〜」


 マックロクロスケと戦闘員は、よろめきながら、舞台下手袖へ逃げていった。


 戦闘員から開放されて、ステージに倒れていたお姉さんを、アムポリの四人が起こした。


 「お姉さん、大丈夫ですか」


 「アムポリのみんな〜、助けてくれてありがとう、でも、せっかくの引継式の邪魔をして、ごめんなさい」


 「お姉さん、あっちでしばらく休んでいましょうね」


 「う、うん、ありがとう。でも大丈夫よ、引継式の進行は続けるから」


 そう言って、MCのお姉さんは立ち上がり、よろめきながら舞台下手袖のスタンドマイクが立っている場所まで、歩いて行った。


 「いけないマックロクロスケはいなくなったので、引継式の続きを始めましょう」


 そこまで言って、お姉さんはいったん話を止めて間を取り、次の言葉を言った。


 「じゃあ、今度こそキラメイターに来てもらいましょうね、大きな声で四人を呼んでね〜、せ~の、キラメイターッ」


 会場にいるお友だちが声を揃えて呼んだ。


「「「「「「キラメイター」」」」」」


 その時、会場に笑い声が響いた。


 「オーホッホッホッ、よくも、マックロクロスケをやっつけてくれたわね、私が直々じきじきに出て、引継式を真っ黒にしてやる」


 台詞の後、舞台下手袖から黒いドレスに身を包んだ女性が出てきた。


 マックロロだ。


 ステージ上で対峙した、マックロロとアムールポリーシェ。


 いきなりのラスボス登場で、引継式はどうなるのだろうか。

 キラメイターはいつ出てくるのか。

 緊迫した舞台の上で、アムボリとマックロロが睨み合った。




 ゼファーの話にならないな~

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西風に乗って(ゼファーに乗って) 【旧題 三輪スクーター (スーパー○ブではありません)】 静 弦太郎 @katidokimaru123

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