第12話 放課後の駐輪場
「あなたの名前を、教えていただけませんか」
「ワタシの名前、名前は~、
彼女はそう言い、三隈に近づいてきた。
三隈は、少し身構えて尋ねた。
「鳥居さんは、何がしたいの」
「諫早さんのスクーターを、見せてもらいたいな~、と思ってね。あと名前で
麗子は、名字を言われたとき一瞬嫌な顔をしたが、すぐ笑顔に戻してゆっくり近づいた。
三隈は、相手に悪意はないと思い、少し安心した。それと同時に、疑問が出てきた。
「麗子さん、何で私のスクーターに興味を持ったの」
「そりゃ、アタシ以外にバイク通学を始めた子がいれば、興味を持つのは当然じゃん」
「そうかしら、興味を持つのはあなただけかもしれません」
「またー、無理言っちゃて、さっき諫早ちゃんは、アタシのバイク見ていたでしょ~」
麗子のバイクを見ていたことを指摘された三隈は、あわてて言い返した。
「あれは、たまたま視線が向いただけで、偶然です」
「またまた~、無理言って~、誰が乗っているか、気になってしょうがないって感じだったけどな~」
「それは、そうですけど・・・」
麗子の言う通り、三隈はいつもの場所に止まっていたスクーターを見ていた。
バイク乗りは同じバイク乗りが気になるものだ。
「じゃあ、諫早ちゃんが見た分、アタシも見ていいよね~」
「・・・ええ、見てください」
バイクを見せないと、
「へー、これが最新モデルの三輪スクーターか~、カラーリングは最新モデルで採用されたパターンじゃん、リアサスは純正のまま、あっ、何コレ、軽二輪なんだ~、高速乗れるじゃん」
麗子は、車体に施されたロゴと後ろに付いた大きい白色ナンバープレートを見て、軽二輪だと気づいた。
彼女は、羨ましそうな顔を三隈に見せた。
「いいなあ、高速乗れて~、だから、ハイスクリーンにナックルバイザーを付けているんだ~」
「それは、ちが、そ、そうですね。高速で強い風に当たるのを避けたかったからです」
三隈は、ハイスクリーンはともかくナックルバイザーは冬に備えたものだとは、恥ずかしいので知られたくなかった。そのため、麗子の想像にあわせて高速に乗る事にして、返事をした。
「いいなあ、軽二輪、あたしも欲しいな~、どうしよう買い換えようかな~」
「ねえ、麗子さん、私にもあなたのバイクを見せて頂けないかしら」
「うん、いいよー、アタシのバイクのところへ行こうか~」
麗子は三隈の頼みを聞いて、自分のバイクが置いてある場所に移動した。
麗子のスクーターは、三隈のバイクとカラーリングが違った。ナンバープレートが黄色でやや小さめだった、さらにリアサスもバネの色が黄色だった。
「コレ、私のバイクと色が違いますね」
「そのバイク、諫早ちゃんのより古い型で原付二種だよ~、あとリアサスも純正がヘタったんで、取り替えたよ~」
「サスを変えるって、改造じゃないですか」
「改造じゃないよ、ヘタッたサスで走ると、走りにくいからね~。社外品はバネが黄色とか派手な色しか売ってないんだよね~」
「そ、そうなんですか」
「それに、足つき性をよくするのは、ローダウンサスに変えるのが手っ取り早いよ~。諫早ちゃんのバイクもリアサス変えてみたら~」
「・・・、今のバイクで走っていて、不具合なところが出てきたら、サスの変更を考えてみます」
「優等生的な回答、ありがとね~。でもね~、バイクは、いじってナンボって、とこがあるよ~」
三隈は、バイクのチューニンクには興味があるが、父親の影響もあって見た目だけ変えるのが嫌いだった。
だか、目の前にいる娘は見た目が変わる改造が好きなようなので、話を合わせることにした。
「そ、そうなんですか、と、麗子さんのバイクは、何か改良してているのですか」
麗子は嬉しそうに笑った。
「うれしいね~、お・・・、諫早ちゃんからバイクの話、質問されるなんて~」
麗子は、三隈を"お嬢様"と呼ぼうとしたが、三隈本人が"お嬢様"と呼ばれる事をひどく嫌っているという噂を思い出して、普通に名字で呼んだ。
「アタシのバイクは、リアサスと快適装備以外は、吸排気系と燃料系くらいね~。高効率フィルターに抜けのいいマフラー、吸排気の効率化に合わせてサブコンを入れて燃料噴射量の変更位だね~」
「そっか、FI《フューエルインジェクション》でしたね。キャブ車に比べると燃調はしやすいですね」
「えっ、へーっ、諫早ちゃん、バイクの知識あるんだ~、普通の女の子は
「・・・」
三隈は、話につられてFIとキャブの違いを言ってしまった。
一気に表情が硬くなった三隈を見て、麗子はちょっとやらかしたという表情を見せて言った。
「バイクの事を語れる女の子が、こんな近くにいるなんて、嬉しいね~。でも安心して、他の子には諫早ちゃんがバイクに詳しい事は言わないから。二人だけの秘密と言う事で」
「・・・」
麗子は、三隈の表情の変化で、彼女がバイクに詳しい事を他人に知られるのを嫌がっているようだと思った。そして、これ以上話を長引かせると、三隈がバイク仲間になってくれないと思ったので、話を切る事にした。
「はは、ごめん、余計な事を聞いちゃったね~。諫早ちゃん、私のバイクのエンジン音聞いてみる~」
三隈は、麗子が話を切ろうとしてしている事に気づいて、ぜひ聞かせてくださいと返事をした。
麗子が、キーをバイクに差して、原付二種の三輪スクーターのエンジンをかけた。
三隈の三輪スクーターと違い、重低音が響くやや大きめの排気音だった。
麗子は、ちょっと大きな声で言った。
「ノーマルより、いい音でしょう~」
「え、ええ、・・・、でも、ちょっとうるさい気がします」
三隈は、エンジン音を聞いて結構いい音だと思ったが、それを言ってしまうとバイク好きだと思われてしまうので、うるさいという表現を使った。ただ、三隈本人は気づかなかったが、エンジン音を聞いているうちに顔が緩んでいた。
三隈の表情の変化を見た麗子は、内心手応えありと思った。
麗子は、リアボックスからヘルメットを取り出して被った。そして持っていたバッグをボックスに入れて蓋を閉めた後、シートラゲッジからグローブとウィンドブレーカーを出して、ウィンドブレーカーを羽織り、グローブを手にはめてからスタンドを倒し、バイクに跨がった。
そのまま、顔を三隈の方に向けて言った。
「諫早ちゃん、今日はアタシに付き合ってくれて、ありがとね~。じゃ、また、明日、じゃなかった、あさってね~」
そう言って前を向き、バイクを発進させた。
麗子のバイクが走り去った後、三隈は疲れた表情になった。
「バイクに詳しい事がバレてしまった。隠そうとしてもバイクに乗っていれば、いずれバレるって事って思えば、諦めもつくよね」
三隈は、独り言で自分に言い聞かせて、自分のバイクの方へ歩いて行った。
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