第19話  踊らニャ損々

 自分が小説を書いていることは夫の銀次郎にも誰にも内緒である。UFOがお題と聞いて、キミ子は私には無理だと思ったが、根自子もやる気満々なのを見て闘争心に火がついた。

 根自子には負けたくない。

 そうだ、あれなら書けるかも。

 その前にまず、PNを決めなければ。動物好きだから、何かの関連してつけようと思ったが、うーん。犬、猫、パンダ、どれも平凡だ。

 変わったところで、カバなんてどうだろう。確かヒポポタマスとうのだ。そのままじゃアレだから、女性らしくヒポポタます美、がいいかな。

 UFOといえばSF。それは無理だと思ったが、銀次郎はカップめんの話。相変わらず、くっだらなかった。柳之介はロックバンドに関するエッセイ。これもつまらなかった。

 ライバルの根自子に至ってはUFOキャッチャーについて書いていたが、途中で坊主めくりバトルになってるし。

 結局、SF的な話はひとつもなかった、私も自由に書いていいのだ。


 四十年も昔の話である。

 瑠璃子は奨学五年生で、テレビの歌番組に夢中だった。他の子たちと同様、歌いながら踊るのも好きだった。

 家にはタマという名の三毛猫がいて、瑠璃子がテレビを見ているとき、そばで一緒に見ていた。

 ある日曜日、家族が皆出かけてしまい、留守番していた瑠璃子は、退屈でしょうがなかった。

「なんか面白いことないかなあ」

 なんとなくづぶやくと、横にいたタマが、

「いいものを見せてやろうか」

 ネコが口をきいたが、瑠璃子は別に不思議とも思わなかった。

「私は踊りが得意なんだ。見せてやってもいいよ」

 見せて見せて、と瑠璃子はせがんだ。

「その代わり、誰にも言っちゃいけないよ」

「うん!」

 リクエストhあるか、と訊かれ、瑠璃子がタイトルを告げると、タマは首を傾げた.


「ちょっと待ってな」

 外に出ていったタマは少しして、隣の家のミケを連れて戻ってきた。こちらも三毛だが、ぶっとい眉、鼻も真っ黒という、通常の三毛猫に抱くイメージとは縁遠いルックスだ。

 ミケペアは瑠璃子の前に並び、タマが、

「じゃあ、レコードかけて」

 ポータブルプレイヤーにドーナツレコードをセットし、針を落とす。

 ピヨヨーン

 奇妙なイントロが流れると、ミケ二匹はすっくと立ちあがり、歌に合わせて踊り始めた。

 うまい!

 振り付けがしっかり身についてるよ。

 瑠璃子は感心し、すぐに笑いをこらえられなくなった。何しろ胴長短足のミケペアが真剣に踊っているのだ、さすがタマは貫禄さえ感じさせる堂々たるステップ、よくこんな長々と立っていられるものだわ、すごい、でも可笑しい。

 ぷっと噴き出して、笑い転げているうちに曲は終わった。


 瑠璃子は、手が痛くなるほど拍手した。

「あー、もうサイコー。タマ、ミケちゃんもありがとうね」

 笑いすぎてお腹が痛い。瑠璃子がほめちぎると、タマはニヤッと笑った後、急に怖い顔になり、

「さっきも言ったけど。誰にも言っちゃいけないよ、言ったら喉に噛み付いて、お前を殺す」

 タマのこんな怖い顔は見たことがない。

「わかった、ゼッタイ言わない」

 と約束した瑠璃子だが、母が帰宅すると、我慢できずに話してしまった。

「ニャオーン」

 背後で、抗議するようにタマが鳴いた。



 こっわーい。

 キミ子は、背筋が震えた。

 猫が留守番の子供に踊って見せた、という話は幼い頃、母から聞いた。猫は誰にも言わないと約束させてから、手ぬぐいをかぶって見事に踊ったが、子供は親に話してしまい、かみ殺された。

 自分の話は、そんなラストにはしない。瑠璃子が泣いてタマに許しを乞い、母もそんなバカな話、と「信じなかったので、なんとか丸く収まった、ということにしよう。


 どうにかUFOに関する話は出来た。猫踊りのこと思い出して、本当によかった。

 おかあさん、ありがとう。

 亡き母に感謝するキミ子だった、


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