第5話 三太郎激突
「買ってきたよ、とうさん」
「おう、すまんな」
息子の敦が差し出したKY軒の袋を、銀次郎は嬉しそうに受け取った。
「杏と寿司郎」の架空感想文を書いているとき、シウマイ弁当を食べたくてたまらなくなった。が、買いに行けず、それっきり。敦に用事を頼んだついでに買ってきてもらたのだ。
銀次郎はシウマイ弁当、妻のキミ子は、季節限定おべんとう、敦はチャーハン弁当を食べて満足した。
お茶を飲みながら、敦は、そうだ、と思い出し、
「これでいいのかな」
銀次郎に紙を渡した。
ゴジラがどうとかいう、特撮映画のあらすじを印刷したものだ。
「おお、これだこれだ。手間かけてすまんな」
相好を崩す銀次郎。
「これを見たくて、レンタルビデオ屋に行ったら、閉店していて大ショックだよ」
三十年も通った店なのに、と、銀次郎はシャッターが下りた店の前で立ち尽くした。
「今時レンタル店は、どこでもそうだろう。とうさんも、サブスク、考えたら」
「サブ、なんだって?」
理解できるように話すのは面倒、と、敦は、
「低料金で色々見られるサービスがあるんだよ」
「ほう」
悪い話ではない、銀次郎は乗り気になったが、パソコンが必要だと聞いて、眉をひそめた。
「スマホでもいいんだよ。テレビにつなげば」
と言ってから敦は、両親がスマホどころかガラケーさえ使えないことを思い出した。
「とにかく。レンタルには頼れない時代なんだ、見たいものがあるなら、ネットしかないよ。検索だって、さっと出来るし」
ネット、と聞くと、銀次郎は頭が真っ白になる。コロナクチンの予約も、電話は全くつながらず、結局、敦に頼んでネット予約してもらった。便利なのは理解できるが、サブなんとかを自力で導入、は無理だ。
「ところで、さっきの怪獣映画。なんで調べる気になったの」
「パロディを書こうと思ってな」
「へえ」
「本当は、桃太郎対、金太郎と浦島太郎の戦いを書きたかったんだが」
銀次郎は言葉を濁した。
三太郎、激突。何かタブーな気がしたのだ。それに、浦島太郎は青年、のちに爺さんになる。桃太郎と金太郎、子供のけんかを爺さんが仲裁する、みたいになってしまいそう。
銀次郎は、それぞれと縁が深い動物を戦わせる、代理戦争を思いついた。
桃太郎は、圧倒的に有利だ。サル、キジ、イヌと、手下が多い。
金太郎は、クマ。
浦島太郎は、カメ。
これらを戦わせる、といっても、このままでは迫力がない。
敦がくれた資料には、この映画で、ゴジラは、もともとキングコングの予定だった、とある。契約の関係でダメになったとか。
「これだ”!」
銀次郎の目が、きらりと光った。
桃太郎のサルを、キングコングに置き換えて、金太郎の子分にするのだ。桃太郎はがめついから、川の神からせしめた金のオノで買収する。
金太郎のクマ、桃太郎のイヌは、何か別の話に使えばいい。
銀次郎がヒントにした映画は、ゴジラ、エビラ、モスラが南海で大決闘、というもの。
つまり、陸、海、空、の戦いだ。
空を飛べるのは、キジだけ。
「迫力、ないなあー」
キジの怪獣なんて聞いたことがない、ここはひとつ、翼のある怪獣を代役にしよう。
資料には、エビラは、巨大なハサミで漁船を真っ二つ、と書いてあった。
「すごいな、エビラ」
銀次郎は、思わずつぶやいた。
しかし、エビラを出すわけにはいかない。どう考えても、三太郎と縁がなさそう。
海と縁があるのは、浦島太郎。
これはもう、ガメラで決まり。ガメラ対キングコング、ぞくぞくする。タイトルは、
「キングコング、ガメラ、ラドン 大決闘」
で、決まりかな。
ラドンは、この中ではちょっと弱そうだが、どうせ気に食わない桃太郎の部下だ。負けたところで桃太郎の財政には影響ないだろう。
舞台はどうしよう。映画では、あのモスラのふるさとの島らしいが。
結局、あらすじは、こうなった。
桃太郎のリッチぶりに嫉妬した金太郎は、金のオノでサルをゲット。一寸法師から借りたた打ち出の小づちで巨大化し、キングコングが出現。
鬼が島の鬼の残党が反乱を起こした、とのフェイクニュースを流し、桃太郎を、その気にさせる。
それでも面倒くさがる桃太郎に、鬼の財宝が、まだ隠されている、と嘘をつき、強欲な桃太郎は重い腰を上げる。
船で行くのはかったるい。桃太郎は、キジのいとこのラドンをスカウトし、ラドンの背に乗り、鬼ヶ島までひとっ飛び。
と、島に着く直前、海中から突如ガメラが現れ、火炎放射。なんとか攻撃をかわして、鬼ヶ島に着陸する桃太郎。
「なんでガメラが」
冷や汗をかく桃太郎の前に、真っ白な頭髪、ひげの浦島太郎が登場、宣戦布告。
いくらなんでも、いきなり爺さんにするのはひどい、とカメに抗議し、遠縁のガメラを自由に使う許可をもらっていたのだ。
キングコングとガメラが相手では、桃太郎も不利だ。
さあ、どうなる、桃太郎。
そして、三つ巴の戦いの行方は?
うーん、なかなかいいじゃないか。
自画自賛する銀次郎。
タイトルには、怪獣を出さない方がいいかな。後のインパクトが強くなるから。
三太郎激突 仁義なき代理戦争
なんて、どうだろう。ちょっと任侠映画みたいだけど。
自分が特撮映画の監督になったような気がして、銀次郎は、ひとり悦に入るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます