第13話 なんとなくメルヘン

 シニア創作サークルの世話役にされてしまった堀は、今日も仕方なくメンバーの作品を「カケヨメ」でチェックしていたが、

「あれ?」

 円谷銀二つぶらやぎんじこと矢野銀次郎の新作タイトルに違和感を覚えた。

「なかよし金太郎ファミリー」というのである。

 前回は「三太郎激突 仁義なき代理戦争」と、中身はくだらないが、基本的には勇ましかった。今度のは銀次郎らしくない、ほのぼのメルヘン調? 堀は、首をかしげながらも、とにかく読んでみた。


 金太郎が桃太郎との戦いに出かけている間、仲良しのクマが金太郎ロスというか、寂しさのあまり引きこもってしまう。

 金太郎の母ヤエは、クマの好物、はちみつとシウマイ弁当を持参し、なぐさめに行く。大好きなグルメを前に、クマはようやく精神の安定を取り戻す。

 そうこうするうちに、桃太郎を負かして財宝を分けてもらった金太郎が凱旋する。強欲な桃太郎に嫌気がさしたサルも元のサイズに戻り、金太郎ファミリーの仲間入り。金太郎は財宝のほとんどを動物愛護協会に寄付し、皆に感謝される。動物たちと一緒に、金太郎は末永く幸せに暮らした。

 めでたしめでたし。


 銀次郎の新作は、ざっとこんな内容だった。

 なんだかなあ、である。

 金太郎自体が童話だし、平和的でいいともいえるが、あまりに毒がなさすぎて面白くない。くだらなくてもハチャメチャで豪快なのが銀次郎の持ち味だと思うのだが。

 本当に銀次郎が書いたのだろうか?

 その疑惑は、当たっていた。銀次郎は当初、凶暴なヒグマと飼い犬の勇敢なポチ、女猟師のヤエとの、血みどろの戦いを書いていたのである。

 ところが、動物大好きな妻のキミ子に猛烈に反対され、言われるままに書き直させられた。打ち込むのはキミ子だ。キーボードを見ただけで頭がクラクラする銀次郎は、しぶしぶ従うしかなかった。


 それにしても、と堀は腕組みをする。

 最近、シニアの面々は皆、マンネリというかスランプというか、調子が悪いようだ。

 巻上根自子はペンネームを「バズーカ13サーティーン」にしたのはいいか、コケにされた女性が最後にバズーカをぶっ放して憎い男を地獄送り、の一辺倒。ヒロインが四谷怪談のお岩だろうが、熱海の海岸で貫一に蹴られたお宮だろうが、アンデルセンの人魚姫だろうが、みな同じ。読まされる堀はうんざりだ。

 へたくそポエムに活路を見出した、猫柳田之介こと猫田柳之介も、最近は書けない書けないと愚痴をこぼしている。


 ここらで一発、喝を入れるか!

 堀は決意した。

 今までは自由に書かせていたが、課題を与えてはどうだろう。細かいことに悩んで長年書けないでいた猫田も、詩を勧めたら、なんとか書けたではないか。


 次回の集まりで、堀は今度は課題に沿って書いてみてください、と面々に告げた。

「第一回の課題は、UFOです」

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