第14話 四角か丸か

 UFOが課題。

「SFを書けっていうんですか?」

 柳之介は戸惑いの声をあげたが、堀は、

「いや、UFOという言葉が出てくれば、なんでもいいです」

 アメリカの国防総省がUFO調査部署を新設すると聞いて、これは使えると思っただけなのだ。


 堀たちが帰った後、銀次郎は早速、下書きに取り掛かった。なんというグッドタイミング。UFOに関する話を聞いたばかりだ。

 UFOは「未確認飛行物体」ではなく、実は、という情報。

 銀次郎は、便せんに万年筆で、さらさらと書き始める。


 食品メーカーの西の王者、丸円食品はピンチを迎えていた。カップ焼きビーフンを大々的に売り出したものの、さっぱり売れないのだ。味付け麺を使用し、お湯を切るだけで食べられる画期的な製品、と自信満々で売り出したのに、大コケである。関東の雄・角田食品製カクカク焼きビーフンは絶好調なのに。

 創業者の角田一族は代々、四角い顔で、容器もすべて四角。なぜかそれがウケまくり、西日本のシェアもじりじりと奪われていく。


 丸円食品は、緊急会議を開いた。社運を賭けて売り出すカップ焼きビーフンをどんな戦略で売り出すか。ロクなアイデアが出ない中、社長の丸円玉男はブチ切れた。

「何やっとんや!」

 玉男は、テーブルの丸い灰皿を放り投げた。

 灰皿が会議室の宙をくるくると舞う。

「これだ!」

 玉男は、ひらめいた。

「新製品はUFOや!」

 重役たちがハア、と首をかしげる。

「丸い容器でいく言うとるんや、ボケ!」

「確かにUFOは空飛ぶ円盤と言われ、丸いですけど」

 唐突すぎんか、というのが大方の意見。玉男は口角泡を飛ばし、

「UFOちゅうのは、うまい、太い、大きい、のことや!」

 鶴の一声で決定。


 テレビCMは、グリコの看板付近に巨大UFOが現れる、というもの。

 見物人が押し寄せ、橋が人であふれる中、UFOが巨体を傾け、川で豪快に湯切りする。

「お湯がはねて危険です、近づかないでください!」

 警備員の緊迫した叫び。

 ラストでは、ぶっといビーフンを幸せそうに頬張る市民の姿。「丸円の焼きビーフン、UFOユッフォ!」

 の決め台詞とテロップ。

 このCMは大うけだった。

 太くて歯応えrのある麺、大きめ容器のお得感も手伝って全国規模で売れまくり、劣勢を撥ね返したのである。


 西のUFO、東のカクカク。

「何がUFOだ、焼きビーフンの容器は四角と昔から決まってるんだ」

「ビーフン食う時、四角い皿に盛るか? 皿も容器も丸で決まりや!」

 仁義なき角丸戦争が勃発した。

 UFO発売以来、数十年。抗争は今も続いている。

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