第15話 ムシデン
銀次郎が早速アップしたUFO小説を読んで、柳之介は、またか、と思った。
「好きだねえ、仁義なきナントカいうのが」
それも、カップ焼きビーフンの容器が丸いか四角いかで争う、しょうもない話である。
しかし、くだらない話であっても、さっと仕上げてくる点は見習わなくては。へたくそポエムもネタ切れで苦しんでいる柳之介は、今度はエッセイを書くことにした。堀が、エッセイなんていうとアレですけど、要するに作文ですから、と励ましてくれた。
ムシデン。奇妙な響きだ。
虫出ん? 殺虫剤なのか?
亡き母が、♪ムシデンムシデン、と歌っていたのを思い出す。
ムシデンとは「行かねばならぬ」という意味のドイツ語らしい。
日本では、♪さらば、さらば、わが友。「故郷を離るる歌」として知られている。
マイケルはドイツを離れる時、この歌を歌っただろうかmとふと思った。まさかね。
マイケルというのは、ドイツ出身のロックギタリスト、マイケル・シェンカーのことだ。兄ルドルフが結成したハードロックバンド「スコーピオンズ」で活躍していたが、大きなチャンスが訪れる。イギリスの有名バンド「UFO]のギタリストが突然失踪し、代役として抜擢されたのだ。
イギリスに渡りUFOのギタリストとなったマイケルは、悪魔のようなパワフルな演奏と絶賛され、ファンの心をつかむ。順風満帆と思われた矢先、マイケルは前任のギタリスト同様、忽然と姿を消してしまうのだった。
あの時は私も心配した、どうしちゃったの、マイケル?
やがて彼はドイツで、バイクのスピード違反で捕まる、という形で発見された。英語がほとんど話せないマイケルは、孤独とホームシックに耐えかねたらしい。
すったもんだの末、彼はスコーピオンズに復帰、またパワフルに轢きまくったんだろうな、たぶん。
スコーピオンズといえば、忘れられないのが「ヴァージン・キラー」というレコードだ。
ジャケット写真は少女のヌード。股間あたりにピキピキピキッとガラスのひび割れみたいなものが走り、物議をかもした。イギリスでは最初からこのジャケットは許可されなかったとか。
余談だが、彼らが来日した時、アンコールで「荒城の月」を演奏した。ライブアルバムにも入っていて、いい演奏ではあるが。「手拍子がまるっきり宴会のそれなんですよねえ」と、評論家が嘆いていたことを思い出す。
その後、マイケルはMSGを結成、来日も多い。
「つまらん」
ここまで書いて、柳之介は、そう声に出してしまった。
確かにUFOは出てくる。バンド名だが、他にUFOというお題で書けそうなものがないんだから、しょうがない。
しょうがないんだけど、あまりにつまらない、知ってることを書いただけじゃん。
やっぱり才能がないんだなあ。
ちゃんとした小説が書きたいのだけどなあ。
へたくそポエムとエッセイだけじゃ、もう我慢できない。
新たな道を見つけるぞ、と柳之介は夜空の星に誓う。
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