第12話  もったいないキャラ

「 持続可能な開発目標について政府は」

 テレビニュースがSDGsの話題を流している。

「なんだ、このSOSとかいうやつ」

 夕食時。銀次郎がキミ子に尋ねた。

「食べ物を無駄にしたり、色々もったいないから、なんとかしようって話らしいわよ」

「もったいない、か」

 最近、銀次郎はアイデア不足である。

 三太郎激突を怪獣に代理戦争させる、我ながらダイナミックな展開に満足していたが、どうもその先が出てこない。

 しかし今、もったいない、と聞いて、何かが生まれてきそうな予感が。


 まだ活用していないキャラを寄せ集めて話を作れないだろうか。

 桃太郎の家来、サル、キジ、イヌ。

 サルはキングコングに変身させたが、キジはラドンが代役に。イヌが、まだ余っている。

 金太郎は、クマ。

 さて主人公はどうしよう。金太郎の弟でもでっちあげるか。でも、確か金太郎は山姥に育てられたんだよな。たまには女を主人公にするべきか。婆さんじゃ書く気にならんな。もっと若くてピチピチの。とにかく若い女だ。

 オリンピックの後、じいさんコメンテイターが女子ボクシングの金メダリストに関して「嫁入り前の娘が殴り合う」のがどうこうと発言してバッシングを受けた。

 女の扱いは慎重にせにゃならん、と銀次郎は腕組みした。

 そうだ。桃川の女性レポーターで坂田というのを出した覚えがある。あれをマタギ(猟師)にして、クマ狩りをさせるか。マタギにはイヌがつきものだ。

 うん、これで未使用キャラの在庫一掃だ。キジも、獲物の一部として特別出演させるヵ。なに、死んだふりをしていてくれればいいのだ。


 女マタギのヤエは、今日も父の形見の犬の毛皮のチョッキを着て、山に入った。ヤエは金太郎を育てた女だか、金太郎が桃太郎との戦いで留守にしている間、クマが造反した。金太郎がいる間はおとなしくしていたが、近頃は里に下りてきて畑を荒らしたり、ハイカーの弁当を奪ったり、とやりたい放題だ。成敗せねば、とヤエは決心したのだ。


 といった書き出しで話をまとめ、キミ子に手渡した。

「これを投稿してくれ」

 また書いたの、と、キミ子は便せんに書かれた原稿に目を通して、眉をひそめた。

「ちょっと、おとうさん、こんなのダメよ。犬の毛皮だなんて。動物愛護協会に知れたら大変よ」

「そうか? 私が子供の頃は、犬のチョッキはマタギのシンボルだったけどなあ」

「とんでもないわね、いくら大昔だからって」

 動物好きのキミ子は本気で怒っている。

「チョッキなんて若い人は知らないから、ベストにしなさいよ」

 ダメ出しは、さらに続くのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る