第11話  ヨサク選手権

 書くぞ、と決めたはいいが、さて、何を書く?

 小説と作文は別ものだろうし。

 キミ子は、しばらくパソコンの前で悩んだ。

 恋愛小説、はいまさらという感じ。

 乙女の頃は夢のような恋にあこがれたが、見合いで銀次郎と結婚、家事育児に振り回され、そのうちすっかり年を取って、もう七十。

「女の一生」みたいな長編は、とても書けそうにない。イヤな女の根自子は、駄作とはいえ、もう小説を書き上げている。シェークスピアが怒りそうな、いや無視かな。アホらしい話なのだ。

 何さ、あんなの、と思うが、書いたモン勝ちである。屈辱感がぬぐい切れないキミ子。

 とにかく、書かねば。



 ジャックの村は林業が盛んだ。

 年に一度、チェーンソーで丸太を輪切りにしスピードを競う大会があり、「ヨサク選手権」と呼ばれている。

 発案者のロビンが、日本に林業研修に行ったときに、似たようなコンテストをやっており、故郷でもやってみようと思った。丸太を切るときに「ヘイヘイホー」と掛け声をかける、それだけがルールといえばルールだ。

 小学生からシニアまで年代別に競われるが、ジャックの属する小学生では、同じクラスのジェイソンが、三年連続チャンピオンに輝いていた。


 ジェイソンは母子家庭で貧しく、悪ガキどもにいじめを受けている。それをジャックが棒を振り回して追い払った。ジェイソンは感激して、

「何かあったら、この笛で呼んで」

 と、小さな笛をくれた。


 ジャックは、母に言いつけられ、街に牛を売りに出かけたが、途中で、魔法の豆と牛を交換してしまう。

 母は嘆いたが、ジャックはわくわくしながら豆をまいた。すぐに芽が出て天を突く巨木になり、昇っていくと大男が寝ており、そばには宝の山が。宝物を頂いて気を下りていると、気づいた大男が追いかけてきた。


「ジェイソン、たすけてー!」

 ピロロロー

 ピロロロー

 ピロロロー

 もらった笛を吹くジャック。

 たちまち、チェーンソーを手に、ジェイソンが駆けつけ、猛スピードで木を伐り倒した。大男は大地に叩き付けられ、絶命。

 めでたし、めでたし。



 ちょっと安易すぎるだろうか、とキミ子は首を傾げた。

 夫の銀次郎のパロディを、くっだらないと酷評しながら、結局、自分が書いたのもパロディ。一応、外国が舞台だから、と言い訳してみる。銀次郎は日本の話がメインだし。


「やればできるんじゃん」

 キミ子は、

ふふっ、と笑った。

 自分で自分をほめてやりたい気分だった。

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