第4話  燃えよバズーカ

 堀は、よれよれになって帰宅した。

 頭痛がする、と告げると、銀次郎は畳の上で後ずさり、

「コロナじゃないだろな」

 疑いの目を向けた。

 いっそ、コロナの方がマシかもしれない。しばらくはわがままなシニア達と距離を置けるから。


 今夜もアパートの一人の部屋で、わびしくコンビニ弁当。

 やさしい奥さんが手料理を作って待っていてくれる、という夢を抱いて十数年。合コン、結婚相談所、お見合い、マッチングアプリ、などなど。奮闘努力の甲斐もなく、彼女いない歴、四十二年。今までの人生で恋人がいたことはない。

 婚活をあきらめ、近隣シニアのために、読書会の世話人ボランティアを始めたのだが。


 食後。堀はパソコンを開き、ネット小説サイト「カケヨメ」をチェックした。珍しく自作へのコメントがついていて、おっ、と思ったが、

「クラい」

 の一言で片づけられていた。がっくりと肩を落とす。

 どうしても男が失恋する話になってしまう。明るい恋愛経験がないからかもしれないが、恋への憧れは強いのだし、ハッピーエンドなら、書いていても楽しいのに。


 スマホが鳴った。

「はい」

 シニア読書会の巻上根自子まきがみねじこからだ。

女性からの電話ではあるが、相手は六十六歳の人妻だ。さばさばした性格で、声も体も大きい。話好きで、時々、堀も相手をさせられる。

「なによ堀さん、疲れた声だして」

 事情を話すと、根自子は大笑い。

「何がパロディだよ。金銀銅のオノに戦国五種競技? アホか」

 しかし、創作に関しては、根自子は、

「ちょっといいかも。読書感想文も飽きてきたし、興味あるなあ」

 何故か乗り気のようだ。


「昔、少女漫画で、バズーカで飛行機を落とす計画、が出てきてさ」

「バズーカ?」

「対戦車ロケット砲。携帯式の、でかい筒状だよ」

「へえ」

「学生の頃、教授が話してくれたんだ。中国では、女子中生がバズーカの訓練を受けるって」

「女子中生が!」

「ン十年前の話だよ。びっくりしたけど、カッコいいよね」

 戦う女子の話を書きたい、と根自子は言う。

「自衛隊だって女性艦長がいるし、射撃でも凄腕の女性隊員がいるって。強い女子を書きたいねえ」

「いいですね」

「なんか私、バズーカに縁があるみたいで。ペンネームにも『 バズーカ』を使いたいな」

「そうですねえ」

 適当に話を打ち切ればいいものを、堀は、ついつい親身に聞き入ってしまう。


 ようやく電話が終わった時、堀は、疲れ果てていた。

 もう嫌だ、シニア相手のボランティアなんて。

 俺はもうやめる、やめるぞ!

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