第3話 フェアな戦い

「オリンピック、パラリンピックを見ていて、つくづく思ったことがあるんだよ」

 銀次郎は、一瞬マスクを外し、冷めたお茶をすすった。

「不意打ちは卑怯だよ、なあ」

「といいますと」

 堀の問いに、銀次郎は、

「明智光秀だよ。何が『敵は本能寺にあり』だ。オリンピック精神にのっとり、正々堂々と戦ってほしかった」

 銀次郎は、本能寺の変、に異議を唱えたいらしい。

 しかし、警護が手薄な時を狙ったからこそ、光秀は信長を討てたのだ。

「やはり、一対一の勝負が望ましいよ」

「はあ」

「実は、ぴったりの種目を見つけたんだ」

 銀次郎は力説した。

「近代五種競技を知っとるかね。キングオブスポーツと呼ばれとるそうだ。天下の覇者を決めるには、うってつけじゃないか」


「近代五種競技」とは、


 射撃

 フェンシング

 水泳

 馬術

 ランニング


 以上を、一人で行う、と銀次郎は説明した。

「大変ですね、五つもやるんですか」

 泳いで走るくらいなら、と堀は思うが、腹が出てきた今では、それもきつそう。

「で、信長と光秀を、この五種で競わせるんですか」

「いやあ、フェンシングとかは、あの時代になじまないだろう。そこでだ」


「戦国五種競技」として、


 火縄銃

 剣術

 日本泳法

 流鏑馬やぶさめ

 飛脚


「どうだね、和風でいいじゃろう」

 自画自賛する銀次郎。


 堀は、開いた口がふさがらなかった。

 織田信長と明智光秀を、この五種の競技、といっていいのか、とにかく、競わせる。

 流鏑馬まではいいとして、「飛脚」ってなんだ。ふんどし一丁に、手紙か何かを入れた箱付き棒をかついで走らせる?


「この調子で、関ヶ原も、スポーツで勝敗をつけたらどうかな」

 天下分け目の決戦にふさわしい、と銀次郎はうんうんと頷く。

「無駄に血を流すより平和的でいいじゃないか。東軍、西軍で、関ヶ原大運動会だ」

 綱引き、米俵かつぎ競争、饅頭食い競争、棒倒しに騎馬戦。使える種目は山とある、と、まくしたてる銀次郎。


「いい馬もたくさん来るから、競馬もやろう。大名から足軽まで、馬券を売りまくって大儲けだ。少しは配当も出すがな。勝ったのは東軍だったか、報奨金を出さんとならんからな。馬券の売り上げが役に立つな、はっはっは」


 頭痛がひどくなり、堀は頭を抱えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る