第2話 欲望の川
「創作といっても、急に何が書けるかねえ」
腕組みして天井を仰ぐ銀次郎。
「パロディなんかいかがでしょう」
堀が提案した。
「桃太郎とか、金太郎とか」
「そうだ。ばあさんは、川に洗濯に行ったんだなあ。あれも間違って伝えられている」
「はい?」
銀次郎は何を言おうとしているのか。
「川で洗濯、なんて今の人たちは知らんだろう。川で選択、と解釈するらしい」
「選択。川で、何を選ぶんですか」
「そりゃ、桃に決まっとる」
「東怪テレビのレポーター、坂田です。私はいま、桃が流れてくることで有名な桃川に来ています。普通サイズから巨大なのまで、桃が続々、流れてくる川です。今朝もシニア世代の女性が多数、川べりに集まり、桃が流れてくるのを待ち構えております」
といった調子で、女性レポーターの現場中継があり、男性コメンテイターが、
「スタジオの浦島です。桃太郎入りの桃をゲットしようと、欲張りな、いやアクティブなシニア女性が、川に押し寄せていますね」
「そうなんですよ。誰が桃太郎のおばあさんなのか、全くわかりません」
「そりゃ、大きな桃をゲットした女性が、桃太郎のおばあさんになるんです」
「なるほど。あっ、いま、一人の女性が川上に向かってダッシュ。少しでも桃争奪戦を有利に進めようというのでしょうか。巨大な網を持った女性も続きます。あ、ご覧ください。大きな桃が流れてまいりました!」
そんな風に、川で桃を奪い合うのだろう、と、銀次郎は勝手な妄想を堀に話した。
あほらしいにもほどがある。堀は返答に窮した。
銀次郎は、急ににやにやし、
「そんなことより知っているかね。桃太郎の出生秘話」
「いいえ」
「あれはだね。桃を食べた爺さん婆さんが若返ってしまい、××して生まれたのが、桃太郎。川から流れてきた桃から、なんて真っ赤なウソなんだ」
「ほ、本当ですか」
堀は、ごくりと唾を呑んだ。
「嘘ではない。こんなエロ話は子供たちに読ませられん、と、明治政府は筋を変えたのだ」
「えーっ、知らなかったなあ」
堀には寝耳に水だった。
「そんなこともあって、どうも私は桃太郎は好かんのだ」
川で選択というと、別の話もある、と銀次郎は続けた。
「おまえが川に落としたオノはこれか、と神様が出てくる話」
「はいはい」
「金銀銅、どのオノだね、と選ばせる」
「メダルみたいですね、金銀銅だなんて」
くすっと笑う堀。
「まだオリンピック、パラリンピックの影響が残ってるんだなあ、すまんすまん」
選択を迫られて金太郎は、
「僕の名前は金太郎だし、胸に金の字。金のオノに決まりっしょ」
と、強引に金のオノを奪ってしまう。
「待ってください、なぜ、そこで金太郎が」
「だから、桃太郎は好かんのだ、私は。きびだんごで家来を集め、こき使うずるがしこさ。鬼退治をして、がっぽり財宝をせしめ、その後は高級フルーツ食べ放題。調子がよすぎると思わんかね」
「ええ、まあ」
フルーツ食べ放題、というのがよくわからないが、仕方なく、堀はうなづいた。
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