消える総生島

刊行日:1995年09月11日


夢水清志郎シリーズ大三作は、一気に超大作へ!

ということで、「消える総生島」のお時間です。


前作は学園ものだったのですが、今作は舞台を孤島(推理小説の定番だ!)に移しての本格推理小説でして、本作とにかくトリックの出来が良いんですよね。ネタは単純なんですが、それを実現させるためのアイディアが面白い。


伏線も綺麗に張られていますし「読者への挑戦状」までありますし、本格推理小説へ触れたのはこのシリーズが初めてだった。って人も多いんじゃないでしょうか。こういうジャンルへの入口となる作品の意義ってすごい大きいんですよね。


さて、今作は映画を舞台にしているということもありまして、演出まで映画を意識したものになっています。


目次にしても、

「グランドオープニング」

「プロローグ」

「シーン1……」

という風に映画を意識したものになっているんですよ。冒頭の「これより~上映開始します」という一文も雰囲気があっていい!


それでは実際に小ネタを拾いながら読んでいくことにしましょう!


□拾われている作品


○本

・そして誰もいなくなった

 ・亜衣の解説で登場。クローズド・サークルモノの名作ですね。

・福永武彦全集第五巻

 ・教授が図書室から借りてきた本として登場。なお、福永武彦は、声優の池澤春菜の祖父にあたる人物だそうです。

・このミステリーがすごい!

 ・教授もこのミス、読んでるんだ……


○絵画

・マグリットの絵

 ・ベルギーの有名な幻想画家、詳しくはググってみよう!絶対見たことあると思いますぜ。


○映画

・ゴジラ

・BTTF

・バットマン

・ペギラ

・風と共に去りぬ

・ローマの休日

・獄門島

・名探偵登場

 ・アメリカの探偵映画です

・燃えよドラゴン

・7つの顔の男だぜ

 ・上越警部の名乗り口上として登場



□小ネタ

・真衣の映画フリークネタが今作で拾われましたね。


・「神社の御神木が歩いた事件」また出てきましたが、これ後のシリーズで拾われるんですかね。


・映画館、「如月館」速攻で焼けるので影が薄いんですが、「上映合図のブザー」とかの表現が懐かしくなります。当時の映画館は、上映前にブザーがビーっとなって開始だったんですよね。当時の映画館は、上映期間中は同じフィルムを延々とリピートしてまして、観客は上映中に出たり入ったりするのも当たり前でした。途中からふらっと入ってそのまま連続して2回3回と見たりとかも出来たんですよね。席も自由席でどこに座ってもいい。あとタバコの煙がもうもうとしてたなぁ……。今じゃそういう映画館はほとんどなくなってしまいました。


・映画のイメージガールの募集のCMが入ります。前作「亡霊は夜歩く」のエンディングで「三人で映画のイメージガールに応募したりした」とあるのはこのことかと思われます。


・冒頭で出てくる映画、

監督:市山昆

脚本:栗素手井

主演:岩坂浩二

との記述。監督はおそらく、「犬神家の一族」等の金田一耕助映画を監督した「市川崑」、脚本は「クリスティ」、主演は「犬神家の一族」で金田一耕助役を演じた「石坂浩二」が元ネタだと思われます。


・映画の探偵役は「神田京一(かんだきょういち)」うーん、ギリギリ!


・探偵映画の舞台は岡山県。でた!岡山県!金田一耕助の舞台!!


・映画館での火災。昔の映画フィルムはニトロセルロースという超絶燃えやすい物質(というか爆薬の一種)を使っていたので、映画館は割と火事が多い施設でした。そのため映画館=火災というイメージでこのような描写になったのかも……といっても、ニトロセルロースによるフィルムは、1948年という戦後すぐのタイミングで使われなくなっているので、別に意識しているわけでもなさそう?


・火事でも死なない教授。強い。


・「悪魔と対決す」というフレーズは、「悪魔が来たりて笛を吹く」っぽいですね。


・招待状によると、集合場所はY港桟橋。舞台が三重だとすると、「四日市港」でしょうか?


・万能財団。凄まじいネーミング。しかし、すごいのはこれが名字っていう。バンノーさん、名乗るのに勇気いりますね。


・いきなり映画会社を作る万能さん。バブルでトチ狂って多角化に手を出して失敗した企業を思い出してしまいます。急拡大は事故の元ですぞ!気をつけろ!(まあ、映画会社を作る意味はちゃんと別にあるんですがね!)


・「変な事件が起こるかもしれない。名探偵の自分を連れて行くべきだ」と電話する教授。「教授を事件に同行させる」ための流れなんですが、教授のキャラクターがここぞとばかりに出ていてすんなり納得できます。


・教授の自転車、ユメミズ・スピードワゴン1世、ジョジョっぽいネーミングではありますが、ジョジョのスピードワゴンさんは、REOスピードワゴンというバンドが元ネタで、そのREOスピードワゴンは、スピードワゴンという自動車の名前から取られていますので、元ネタはそちらかと


・撮影班の岡村、後藤、森の三人は、はやみね先生の大学時代の自主制作映画仲間の名前をそのままつかっているとあとがきにありました。見た目の描写などは、もしかして、先生の友達のそのものだったりします?


・女優と主演の人の名前にもなにか元ネタがあったりするんでしょうか?知っている方いたら教えて下さい。


・上越警部の偽名、東海道。「上越新幹線」「東海道新幹線」ってネタなんでしょうか。


・「フィルムの残りフィートを気にしながら……」日本語でも「尺」というように、映像をフィルムの長さで表す言い回しがあります。。業界人なのでそれっぽい言い方をしているということなのでしょう。なお、転じて英語圏では「フィート」で、「短い映像」そのものを表す場合があるようです。(youtubeなんかの短いビデオクリップにも使うようです)


・総生島まではクルーザーで七時間。かなり沖合にある島のようです。クルーザの速度を20ノットとすると、時速37キロですので、260キロぐらいは離れていますね。


・レアメタルの話が出てきます。こうしてネタに使われるということは当時ホットな話題だったのでしょうか。それはともかく、例として出てくるマンガンやクロム、ニッケルに関しては金より希少価値はないですね。ずっと安いです。


・80億の屋敷。こういう愚痴っぽい会話で伏線張っているんですよね。


・執事の波虎さん、バトラー(執事)というネタなんですが、旧日本軍の生き残りという設定が当時はまだ使えたんだなと……。1995年当時は、戦後50年の節目にあたるので、お爺ちゃんお婆ちゃん世代は普通に戦争を体験しているんですよね。今の時代はそんな設定も難しくなりましたが……


・1億円のクルーザーを破壊する爆発。クルーザー爆破する意味あった???って思いますが、派手なので良いのだ。


・『獄門島』『悪霊島』両方とも、横溝正史先生が書いた金田一耕助が出て来る小説です。


・「こんな孤島にもNTTが!」というネタ、霧越館の本当の姿を考えると、最初から電話線は引いていない?


・霧越館の設計は当初「中村青司」なる建築家に頼んだけれど、断られたとのこと。これは綾辻行人先生の「館シリーズ」に出てくる建築家ですね(特別出演!)


・万能財団が取ろうとしている映画、「黒死館の惨劇」ですが、全体的に金田一耕助っぽさがありますね。色んな所からイメージ引っ張ってきている感じ。獄門島+悪魔の手毬唄+館シリーズ+八つ墓村(鍾乳洞)ってところでしょうか? 謎の老婆は金田一耕助シリーズには割と出てくるので特定はできませんが……。


・タイトルは小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」と思われます。私まだ読んだことないので、この機会に読んでみようかな……。


・拳銃から弾を抜かれる上越警部、体から離して置いておいた時点で始末書物じゃないですか!って感じなんですが、大丈夫なんでしょうか?


・洞窟で見つけた「鬼、ここに誕生す」の一文、「悪魔が来りて笛を吹く」の「悪魔、ここに誕生す」が元ネタなんでしょうね。


・霧越館が移動する秘密。ダイナミックで好きなんですが、実際にやろうとすると、かなりバランスが難しそうです。あと海の上だと「地震か?」ってぐらい揺れそう。(そのためだからは知りませんが、三姉妹以外の大人は全員酔っ払っているわけですが)

もし、本当に館タイプの船を作ろうとすると、地下二階よりもっともっと深くまで船体が伸びてるんでしょうね……。


・映画好きの社長が映画のために頑張った結果だったんや!というオチですが、実はそうではなかったというオチが来るのがにくい。


・年賀状をくれる伯爵。律儀。デストロンか?


・事件解決から、真相の開示までの間に、一つ日常の小さなミステリが挟まれますが、ぶっちゃけ謎と呼べるようなものではないかもしれませんね。(この風習を知っていると一瞬なので)


・教授、この事件でついに「名探偵」として認められ始めます。伯爵事件のときは嘘つき呼ばわりされてたので、それから半年で名誉回復ってことですね。


□総評


今作品は、とにかく全般を通して探偵小説の映画への深いリスペクトを感じる作品です。特に横溝正史作品への言及が多い!はやみね先生、横溝正史の映画好きなんでしょうね。この後もちょくちょく言及されますし。


面白いなと思ったのが、第一章の作り方。

「映画に行きたい」→「では教授に頼もう」という感じで舞台は映画館へ、その流れで、三姉妹と夢水清志郎の解説をやってしまっています。そして、映画館での映画が軽い謎解きになっている。


今までのシリーズは全て本編に入る前に軽いジャブみたいな謎解きが入るんですが、今作でもそれはちゃんと受け継がれています。


あと、気がついたのですが舞台は冬。一作目が夏休み、二作目が夏休み後の文化祭(秋?)なので、順当に季節を一つ一つ順繰りに巡ってきた感じ。


なんていうか、はやみね先生が好きだった映画に、本格の要素を混ぜて一作作ってみよう!という意気込みと、作者のノリノリっぷりを感じる作品になっています。きっと書いてて楽しかったんだろうなぁ……。読者への挑戦状まで入ってますからね。


クローズド・サークルでの事件となれば、普通だったらここで連続殺人事件でも起こりそうなものですが、児童書なので誘拐にだけ留めているのが良いところ。あと誘拐にもちゃんと理由があるので、メインとなる謎は「山一つが消える」というトリックなんですよね。


いかがでしたでしょうか。とにかく一本の長編としての完成度が高いこの作品。久々に読み返して「やっぱおもしれー」ってなりましたよ、私は。

はやみね先生、この作品で「子どもに本格の面白さを伝えてやる!」という楽しさに目覚めたのか、これ以降どんどん本格ミステリっぽい要素を強めていきます。


では、次回「魔女の隠れ里」もお楽しみに!


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