ギヤマン壺の謎ー名探偵夢水清志郎事件ノート外伝ー

刊行日:1999年07月15日


いきなり舞台は江戸時代へ!……ってなんでや!!!

と思わず突っ込んでしまう急展開を見せるのが、この外伝作品です。


なんていうんですかね。学園パロ……?みたいなノリなんですかね。時代劇パロをやっている感じの作品なんですが、一切説明無くいきなりいつもの登場人物が江戸時代で活躍しています。


おそらくですけれど、はやみね先生、時代物の剣豪小説とか映画とか好きだと思うんですよ。夢水清志郎だって、眠狂四郎のパロディですし。なので、一回時代物を書いてみてぇ!!という思いがあったんじゃないですかって思うんですよね。それはともかく、冒頭で言われているように、時代考証は結構適当です。

でも、いいんですよ。時代劇ってそういうものですから!(本当か?)


ということで小ネタを拾いつつ見ていきましょう。



□拾われている作品


○本

璣訓蒙鑑草からくりきんもうかがみぐさ

 ・出島で夢水清志郎が呼んでいる本。江戸時代初期に書かれたからくりの図解本だそうです。


□小ネタ

・恒例になっている冒頭のジャブは、いきなりエジンバラから始まります。嘘だろ……?大江戸編だぜ??まあ、先生がやりたかったんでしょうね!


・名探偵という言葉がない時代(ホームズがまだ書かれていない)なのですが、ここで「実は夢水清志郎が探偵小説の祖だったんだよ!」をかましてくるスケールのデカさ、好きです。


・ここで出てくる「ジョセフ・ベル」教授。ふと思い立って調べたら、ホームズのモデルになったと言われている実在の人物なんですね。そういうネタだったのか……。


・ホームズのモデルになった人物に夢水清志郎が影響を与えていたんだよ!!というネタがやりたいがために、舞台をエジンバラにしてたとは……。驚きました。


・出島でのレーチのセリフ「うしの乳搾りを思わせるような名前のオランダの有名な医者」はシーボルトですね。


・撞球ってなんだ?とレーチのセリフにある撞球ですが、ビリヤードのことだそう。(私も解らなかったぞ!)


・幕末期でも180センチは超えていると表現される夢水清志郎、当時の平均身長から言ったら、大谷翔平以上の化け物なんですね


・出島の事件、江戸に行く途中の事件、と矢継ぎ早に事件を解決していきます。今回はハイペース。


・「組合角に桔梗」の紋、調べたら幕末に坂本龍馬が使ったことで知られているんですね。なるほど……


・作中屈指の強キャラ、中村巧之介……ってこれいままでさんざん引っ張ってきた「超常現象研究会の部長、中村巧さんを研究する会」の中村巧さんじゃないですか!!!先生の持ちキャラだったんですかね?

それとも、元ネタがちゃんとあるのか……気がついた人がいたら教えて下さい。


→あとがきによると、古川書店度会橋支店の店長、中村巧さんがモデルだそうです。ってリアル知り合いかい!!(なお、三重にある書店だそうです)


・中村巧之介、髪の毛を短く刈っているという設定ですが、髪結いが当たり前の当時の風俗的には非常に珍しい人だったのではないですかね。散切り頭を叩いてみれば文明開化の音がするなんて歌われた時代ですし。


・蕎麦屋にいるのは新選組一行。これは説明しなくてもいいですね。


・いくらなんでも設定が盛りまくりの天真流、作家には自分オリジナルの剣術を書いてみたい欲があるんだよ!!!(力説)


・戻し切り「そういう現象ありますよね!」とさも常識のように進んでいますが、本当なんでしょうか。よく似た言い伝えは聞いたことがありますので、昔からある話なんでしょうが……。(格闘マンガで、振動を与えて内部から破壊する謎技がさも当然のように出てくるのに似ています)


・三つ子、江戸時代だと不吉な存在として扱われることがあったと聞きますが、岩崎三姉妹が生まれた時のエピソードはそれを拾っている感じですね。


・長屋の住民、絵者さんはエシャーが元ネタ。だと思われるんですが、実は年代的にはズレています。違う作家がネタなのかしら?


・絵者さんは、フランス革命(1789)を体験しています。物語は、大政奉還前だとすると1867年あたりですか。10歳の時に体験していると90歳ぐらい。まあありえない数字ではないですね。


・江戸時代で馬を乗り回す真里さん。ただ、この描写は時代的にちょっと変かも。というのは、江戸時代の日本では、馬は軍事物資でしたので厳しく規制され、庶民が乗れるものではありませんでした。同時に車(車輪のついた大八車のようなもの)も規制されていたので、我々の先祖は「馬も知ってたし、車輪も発明していたのに、人間が人間を箱に載せて担いで運んでいた」という意味がわからなすぎる生活を行っていました。……いや、マジで事情を知らない人が見たら意味不明な光景ですね。一体なんなんだ日本は……。こんな設定の小説書いたらマジで「ありえねぇ、作者は無知」って叩かれそう。


・怪盗九印くいんなる人物が出現したとのセリフ、怪盗クイーンが初登場したのは「怪盗クイーンからの予告状」でこの作品は2000年出版なので、実はこのセリフの方が先なのです。


・見世物小屋は2階建て。ただし、江戸時代は2階建ての建物は殆ど建てられませんでした。というのも建築に許可が必要で、普通は降りなかったとか。安全の意味合いよりかは、「庶民が見下ろすとは何事か」みたいな身分制度の方が大きかったようですね。(ここらへんの話は専門ではないので、詳しい話は専門家にあたってください)


・印籠出しちゃうのは水戸黄門ネタですね。もっとも水戸黄門(水戸光圀)は舞台である幕末からは100年ほど前の人なので時代はズレています。まあいいじゃないですか、出したかったのだからさ!大体史実でいうなら、諸国漫遊とかしてないし。(越後のちりめん問屋ネタも拾ってますね)


・大入道事件、環境問題に絡めた終わり方で好きです。


□総評

時代劇パロという変速手ながら、ちゃんとミステリを描いているこの作品。


たんなる番外編と思わせておきながら、身分制度があることに対して「もっと悲しいのはね、亜衣ちゃんたちが、この世の中がへんなことを、しかたがないことと受け入れていることだよ」

「この世の中は、ぼくたち大人のものじゃない。亜衣ちゃんたち子供のものだよ。ぼくたちは、亜衣ちゃんたちが大きくなるまで、ちょっとのあいだ、あずかっているだけなんだ。だから、ちょっとでもいい世の中にして、きみたちにかえしたい。そして、きみたちが大きくなったら、つぎの子どもたちにかえしてやってほしい。」


なんていう、すごいいいセリフがでてくるんですよね。これ、作者の本心からの言葉だと思うんですが、これがあるおかげで、江戸時代にした意味あったなぁ……と納得してしまいました。


さて、そんなこんなで事件を解決し、前編終了、後編に続きます!



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